名古屋大学(名大)は12月18日、筋力トレーニングによる骨格筋の老化抑制効果の分子メカニズムを明らかにしたことを発表した。
同成果は、名大大学院 医学系研究科 総合保健学専攻の飯島弘貴客員研究者(現・米 ハーバード大学 医学部 助教授)、糖鎖生命コア研究所 数理解析部門の松井佑介准教授(名大大学院 医学系研究科 総合保健学専攻 准教授兼任)、ハーバード大 医学部のファブリシア・アンブローシオ准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、欧州の生理学会が刊行する生理学および病態生理学に関する全般を扱う学術誌「The Journal of Physiology」の特別号「Physiology of Ageing Skeletal Muscle and the Protective Effects of Exercise」に掲載された。
加齢により骨格筋に脂肪が蓄積すると、筋力が低下し、QOLを低下させてしまうことが明らかにされている。筋力トレーニングが骨格筋に与える生物学的影響はこれまで幅広く解析されてきたが、特定の分子やシグナル経路(細胞内で情報を伝達するための特定の経路や仕組み)に着目した研究報告が大半であり、その全貌を明らかにするシステム俯瞰的な解析への要求が高まっていたとのこと。また、健康長寿の阻害因子となる骨格筋の脂肪蓄積の生物学的プロセスに対し、筋力トレーニングがどう影響するのかについてもよくわかっていなかったという。
これらの課題解決のため、研究チームは今回、独自の「ネットワーク医学解析」を骨格筋の網羅的遺伝子発現データに適用することで、分子メカニズムを網羅的に探求したとする。なおネットワーク医学とは、生体分子の生物学的な相互関係をネットワークを用いて表現し、そのネットワーク上で疾患や健康に関する情報を包括的かつ網羅的に解析する医学分野のことを指す。たとえば、タンパク質間の相互作用ネットワークや遺伝子発現の制御ネットワークを解析することで、疾患の発症メカニズムや治療法の標的となる新たな因子を発見するというものだ。
今回の研究ではまず、骨格筋の脂肪形成を担うとされ、成体組織に存在する多能性幹細胞の一種「間葉系前駆細胞」に着目し、これらの細胞集団を脂肪細胞に分化させる遺伝子群が定義された。次に、高齢者における筋力トレーニングがこの遺伝子群の働き方に与える影響について、ネットワーク医学解析を用いた評価を行ったとのこと。これら一連の解析の結果、筋力トレーニングによる骨格筋の脂肪減少効果に係る有力なシグナル経路が特定されたという。
研究チームは今回の成果により、骨格筋の老化メカニズム解明が進むだけでなく、筋力トレーニングの健康増進効果を再現する運動模倣薬の開発も期待されるとしている。