PwCコンサルティングは12月7日、「生成AIに関する実態調査2023 秋 ー生成AIは次のフェーズへ: 勝つための人材育成/確保と導入効果の追求が最重要課題ー」と題する調査レポートを公開した。これによると、生成AI(人工知能)の導入は「他社に負けないこと」が主な動機となり、過半数が今後1年以内の本格導入を予定しているという。

同調査は同社が10月13日~16日にかけて、売上高500億円以上の日本国内の企業・組織に所属する課長職以上の従業員で、AI導入に対して意思決定や企画検討など何らかの関与がある人を対象に実施したものであり、有効回答者数は912人。

生成AIの認知度を見ると、「全く知らない」との回答は4%に留まり、73%が何らかの形で利用経験がある。

  • 生成AIの認知度 出典: PwCコンサルティング

利用状況を聞くと、87%が「生成AIの社内利用あるいは社外活用を実施・推進・検討している」と回答しており、2023年5月に発表した前回調査の22%から半年間で、生成AI利用に向けた具体的な取り組みが進んでいる。

  • 生成AIの利用推進度 出典: PwCコンサルティング

生成AIの利用に脅威を感じるという回答者の47%は、「他社(者)より相対的に劣勢に晒される脅威」を感じている。

  • 生成AIで脅威に思う点 出典: PwCコンサルティング

具体的には、「競合他社に先を越される可能性」や「新規競合の参入の可能性」を、特に脅威として捉えている。

既存ビジネスの領域で他社に負けないために生成AI活用を検討していることが、国内で生成AIの認知・活用が進んだ背景にあると、同社は考えている。

  • 生成AI利用を脅威と感じる理由 出典: PwCコンサルティング

生成AIの本格導入時期を尋ねたところ、実施・推進・検討中という回答者の43%が2024年3月末まで、また58%が今後1年以内を予定していると回答した。

前回調査から今回までの半年間は、生成AIの技術的な検証や可能性を検討する実現性検証フェーズだったが、今後1年間は業務実装フェーズになると、同社は予想する。

  • 生成AIの本格導入時期 出典: PwCコンサルティング

生成AI利用に関する予算規模を見ると、24%が数億円以上、42%以上が数億円未満だった。

  • 生成AI利用に対する予算規模 出典: PwCコンサルティング

生成AI利用を実施・推進・検討中という回答者に、直面する(またはした)課題の上位3点を質問したところ、約半数が「必要なスキルを有する人材不足」(52%)、「ノウハウがなく進め方が分からない」(49%)を挙げた。

これらの課題は「自社だけでは解決が難しい課題」としても最上位に挙がっていることから、生成AI利用の推進に向けて、これまで以上に社内人材のリスキリングや外部人材活用の重要性が高まっていると同社は考えている。

  • 生成AIにおける課題(複数回答) 出典: PwCコンサルティング

生成AI利用に最も必要なスキルを聞くと、従来のAI利用で重視されていた「コミュニケーションスキル」や「ユースケース企画スキル」を1位に挙げた回答者は全体の10%未満であり、47%は「AI技術全般に関する理解」を1位に挙げた。

生成AI利用で国や政府に求めることについても、「生成AIの技術動向の情報収集・公開」が47%と最多であり、技術全般の理解や動向を重要視している様子が伺えるという。

生成AIの普及・民主化が進み、データ・サイエンティストなどの専門家だけでなく幅広い層がAIに触れるようになった一方で、ハルシネーション(生成AIが学習したデータから、流暢だが事実と全く異なるコンテンツを生成してしまうリスク)などのリスクにもさらされるようになったことを背景に、職階や役割を問わずユーザー側にはこれまで以上にAIリテラシーが求められるようになったと同社は考えている。

これらを踏まえ、職解や役割を問わず、基礎的な技術とビジネスを理解したビジネス・トランスレータを全従業員が目指すことにより、リスク・コントロールを行った上での適切な生成AIの導入効果向上につながるという。

  • 生成AI利用で最も必要となるスキルと国・政府に期待すること 出典: PwCコンサルティング

同レポートでは、各業界の生成AIへの向き合い方の違いを明らかにするため、「前回調査の生成AIに関する関心度」と「今回調査の生成AI活用の推進度」について業界横断で順位付けし、順位の変動を比較した。

また、生成AI利用に対する特徴を基に、業界横断で「パイオニア層」「躍進層」「期待向上層」「様子見層」の4つのグループに分類した。

  • 関心度・推進度の順位の変化と業界層 出典: PwCコンサルティング

生成AIに対する理解促進や、AI技術のマルチモーダル化(テキスト、画像、音声、プログラムなど複数の種類の情報を統合して処理すること)の進展を背景に、多くの生成AIユースケースが創出され始めたことで、生成AI利用と無関係な業界は存在しなくなったと同社は見る。

ただし、業界や職種によってはオンラインでは十分に解決できないビジネス・プロセスも存在するため、AI利用による品質担保・リスクの解消など、固有のハードルが存在していると同社は考えている。

パイオニア層・躍進層・期待向上層では、テキスト生成に加えてプログラム生成・画像生成・音声生成など幅広いユースケースを検討しており、ビジネス・プロセスに適した生成AI活用が進んでいるという。

今後はさらに、他の技術との組み合わせやガバナンス体制の組成、業務プロセス整理なども併せた議論が重要になると、同社は指摘している。