【米不動産投資家】サラトガ代表・星野祐一「日本は投資立国、インバウンド立国、海外で稼ぐこと。この3つでまだ成長できる」

分断・分裂が言われるアメリカだが「大半はバランスを大事にする国民。メディアが対立を煽っている面がある」と指摘する星野氏。自身はハーバード大学大学院を修了、投資の世界に飛び込み、アメリカを拠点に活動してきた。「米国は自ら市場を切り開くのに対し、日本は政府が何をしてくれるかを期待する人が多い」と指摘しつつ、日本も今後「投資立国、インバウンド立国、海外で稼ぐ」の3つに取り組めば成長できるとする。星野氏の投資哲学とは─。

米国在住者が見たアメリカの今

 ─ 星野さんはアメリカで不動産投資や不動産管理ビジネスを手掛けているそうですね。

 星野 そうです。米国に住んで30年以上になりますが、2020年からはコロナを契機にコロラド州アスペンに移住し、シカゴ、東京と多拠点生活をエンジョイしています。

 ─ アメリカは分断が進んでいると報道されていますが、現地の目線ではどうですか。

 星野 決定的に分断しているというような報道もありますが、それは若干誇張もあると思います。CNN、3大ネットワーク(ABC、NBC、CBS)、FOXニュースなど、イデオロギーの左右を問わず、分断を煽るような報道をしています。

 表現は悪いかもしれませんが、左からも右からもノイジーマイノリティの意見が大きく取り上げられて、対立が深刻化しているかのように取り上げられているのです。しかし実はサイレントマジョリティがおり、そうした人たちが基本的にキャスティング・ボートを握っているのだと思います。

 ただ、トランプが登場して以降は、共和党と民主党の対立は先鋭化しています。政策面では、保守派とリベラル派の差は、中絶、ガンコントロールといった社会問題以外は、あまりないような気がしますが。

 ─ 星野さんがアメリカに行こうと考えた動機は?

 星野 時代背景ですが、私が大学を卒業した1979年には社会学者のエズラ・ヴォーゲルが『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を書いています。また、その10年後の89年には石原慎太郎さんと盛田昭夫さんが『「NO」と言える日本』という本を出しています。

 この89年に、私は当時の日本株を全て売却して、アメリカに渡ることにしました。決意自体は20代の後半くらいで、アメリカにはもっと楽しいことがあるんじゃないかと思ったことがきっかけです。

 ─ ハーバード大学ケネディスクールを修了していますね。政治学にも興味を持っていた?

 星野 起業し民間で生きていこうと思っていましたが、パブリックセクターとプライベートセクターがどう影響し合って、全体の調和に導かれるか、あるいは、意図しない結果をもたらし得るか、に興味がありました。ビジネススクールよりはリベラルアーツ系の方が面白そうだと感じたんです。

アメリカ経済が強い理由は?

 ─ 日本はGDP(国内総生産)でドイツに抜かれることが話題になっていますが、89年当時の日本は2位でしたね。

 星野 ええ。よく言われる事ですが、89年は、世界の時価総額上位50社のうち、30社くらいを日本企業が占めていましたね。しかし30年後の今、トヨタ自動車が30位台に位置するくらいですよね。実質賃金も上がっていません。

 ─ 私見で結構ですが、なぜこういう状況になったと?

 星野 『動物的ひらめきの具現化とそのスピード感』、この辺りの日米の隔たりは大きいです。日本には「石橋を叩いて渡る」という諺がありますが、アメリカには心配になるくらいそういった発想がない。

 意志の力による楽観主義とでもいいましょうか。「思い立ったが吉日」みたいな乗りで一歩踏み出す勇気が旺盛です。ザッカーバーグが言うように、取り敢えず走りだせ、走りながら考え、考えながら走れと。

 また、様々な意味で多様性を認め、世界中から人を集める、それがアメリカの強さではないかと思います。

 ─ 元々世界中から人が集まって開拓したのがアメリカの国の成り立ちですからね。

 星野 DNA的に政治的、宗教上の自由を持ち、アメリカンドリームを追い求めてきた人が大半です。国、行政府に対する健全な懐疑があり、市場の失敗が明らかな場合を除き、様々な規制から自由であるべきだというのが大半のアメリカ人の考え方です。

 ─ 政府に何かして欲しいというのではなく自立した個人による個人主義、自由主義の中で、自分達が国をつくっていくという意識がアメリカにはあるということですね。

 星野 おっしゃる通りです。新しい価値基準に基づいた、新たな顧客、新しい市場をつくっていくのがアメリカです。

 ─ 逆に、日本のよさはどこにあると考えますか。

 星野 ありきたりかもしれませんが、ご飯が美味しく、人々は真面目でおもてなしの心を持っている点です。インバウンド(訪日外国人観光客)が日本に来たいという時に、円安はもちろんあると思いますが、日本人の丁寧さ、優しさ、接客文化を求めているのだと思います。

競争のない市場を見つけていく

 ─ 日本の大企業はすでに海外で稼がなければ生きていけませんね。

 星野 大企業に限らず、中小企業も、個人もそうだと思っています。国内消費のパイは縮小していくだろうし、その小さくなっていくパイの奪い合い、という市場構造になるかもしれませんね。

 日本より成長速度が速く、成長の存続基盤が見込める市場、例えば、アメリカでの事業投資もさることながら、株式であれ、不動産であれリスク資産投資を加速させるのも一案です。

 アメリカの資産運用会社は、閉ざされた、ニッチ戦略を担う、アクティブ運用が故に規模の経済をあえて訴求しない、小さな運用会社は勿論の事、大手も独立系が大半です。私ども含め、彼らの営業用のピッチは『我々はこう信じる』と、まずは投資哲学から始まります。市場の歪み(超過収益機会)がどのように表れ、どのような投資プロセスをもって追求していくかと。

 顧客と利害を一致させるためにも、共同投資はマストで、リスクを共有してこそ真のパートナーと考える意識が浸透しています。

 ─ かなり手応えを感じているということですね。

 星野 ええ。マーケットをカテゴライズしていくと、「ここに超過収益機会があるな」というスポットがあると思います。

 私はアメリカの商業不動産の中では、賃貸集合住宅、ホテルはスイートスポットではないかと考えています。

 アメリカにはホームレス問題はあっても空き家問題は存在しません。フレディマックという住宅公社のリサーチによれば、アメリカでは380万戸の住宅が不足していると言われています。不動産市況サイクルは常にあるとして、中長期的なファンダメンタルズは強いですね。

 ホテルは、既に19年比をアウトパフォームしていますが、海外客、ビジネス客の戻り、平均への回帰を期待出来ますし、ストーリーのある案件は面白いと思います。

 富裕層を中心に、基軸通貨で実物資産を持ちたいという人のニーズは旺盛です。また、私どもはワンストップの、多世代間にわたるファミリーオフィスとしての役割を担っており、そこの手応えも感じています。

 ─ 日本はGDPで今度4位に落ち、1人当たりGDPでも31位という状況です。ただ、ルクセンブルグやノルウェー、アイスランドといった小国の1人当たりGDPが高いですが、資産運用大国である点が共通していますね。

 星野 少子高齢化による労働人口の減少、低い労働生産性、不稼働資産である預金偏重の投資スタイル。この3点セットで1人当たりGDPの31位を説明出来ます。その意味でも投資立国を目指す、という方向性は理にかなっていると思います。

 ─ これまでの投資の中で特徴的な案件にはどういうものがありましたか。

 星野 コロラド州にレッドビルという、アメリカで一番標高が高い街があります。その街で最も大きな集合住宅を買いました。地元のデンバーポスト紙には「日本人投資家が不均衡を見つけて、非常に安い価格で買った」と紹介されました。

 需要の増加率以上に供給が多くなると、家賃、入居率が下方に調整していきます。しかし、州政府、郡政府の環境規制などもあり、新規着工の許可が下りにくく、大規模なプロジェクトが出てきづらい。ライフスタイル志向の需要もしっかりしている。そこに目を付けて、この集合住宅に投資しました。

 レーダーの枠外にあった物件みたいで、熾烈な買手間競争なく買うことが出来ました。

 不動産市場は、特に、上場大型株と比べると、個別物件ベースでは、情報の偏在、別の言い方をすれば、情報の非対称性が大きいため、情報が拡散していかないことが多く、そこに超過収益の源泉があるのではと思っています。

 ─ 安く買う秘訣をどう考えますか。

 星野 安く買う方法論ですが、私どもは、売らざるを得ない投資家による売却、市場に注目されてない、市場に誤解されている、といった視点を重視します。過熱感のある地域、市場の何らかの変則性(アノマリー)により、成長シナリオなく割高な地域にあえて買いに行くということはしません。

 また、割安でもなくても、成長シナリオがあり、資産価格が適正であろう範囲であれば、買付にいきます。

 ─ 最近のアメリカ不動産を取り巻く環境で特に注目されていることはありますか。

 星野 コロナ前からあったことですが、租税負担が大きく、行政による規制強化を好む民主党地盤の青い州から共和党が強い赤い州やスイングステートと呼ばれる紫の州への人口移動は注視しています。コロナ後もこの傾向が続いています。

 とりわけ、カリフォルニア州からの人口流出は顕著で下院議員定数も減らされていますね。

 ニューヨークの金融系ビジネスの5社に1社はニューヨークから脱出する、あるいは、オフィススペースを縮小することを検討していますね。

「貯蓄から投資へ」を実現するには

 ─ 日本では長年「貯蓄から投資へ」と言われてきましたが実現していません。ただ、24年から始まる「新NISA」への関心は高まっています。投資をどう根付かせればいいか。

 星野 お金は回転してこそです。アメリカの多くの若者は、取り敢えずS&P500に投資し、時間分散を心掛け、放置プレーしますね。

 やはり大事なのは教育ではないかと思います。私の子供達はハイスクールでインベストメントのクラスを取っていました。基本的な複利効果の考え方に始まり、そもそもなぜ(貯蓄ではなく)投資をするのか、といった社会科学論、やや哲学論的な事までと。また、高成長を期待されるゲームチェンジャーを3社選び、なぜそう思うかについてレポートを課したり。学校教育や親との会話や自立志向という文化でしょうか、お金を稼ぐこと、投資に対するハードルが、アメリカは低いですね。

 ─ 若いうちから投資について学ぶことが大事だと。

 星野 それを教育から変えていく。アメリカの例は参考になるのではと思いました。

 ─ 個人が資産運用をする上で、金融機関の役割をどう考えますか。

 星野 しっかりとしたアドバイザーがいることは重要です。個々人でアセットアロケーションへの考え方や最適解は違いますから、それを一緒に考えていく、オープンなコミュニケーションは大事だと思います。

 個々の投資案件というスタンドアローンな視点のみならず、課題解決型の「ポートフォリオ運用」という全体観を重視してみてはいかがでしょうか。

 ─ 日本の金融資産約2000兆円のうち、約1100兆円が現預金という状況を変えられる可能性があると。

 星野 不稼働資産の預金を見直し、リスク資産への配分割合を増やすことです。その意味でも、株式であれ不動産であれ、法の支配が確立され、成長市場であるアメリカへの投資には注目する必要があるでしょうし、私どもはその中の不動産のニッチマーケットで、今後もより一層ワクワクする仕事をし、お客様のお役に立てるのではないかと思っています。