日本マクドナルドは11月30日、2024年4月から適用される働き方改革関連法案による物流の「2024年問題」についてのメディアセミナーを開催した。当日は、マクドナルドのサプライチェーンにおける、ドライバーの労働環境をはじめとする、さまざまな課題に対する取り組みについて紹介された。

セミナーには、日本マクドナルド サプライチェーン本部 執行役員 本部長のボッケル・ウォーリー氏、同社 サプライチェーン本部 上席部長 児島健治氏をはじめ、青山学院大学経営学部でサプライチェーン・ロジスティクスについて長年研究している竹田賢教授が登壇した。

  • マクドナルドのサプライチェーンについてのイメージ

    マクドナルドのサプライチェーンについてのイメージ

4つの未曾有のサプライチェーンの混乱

はじめに登壇したウォーリー氏は、「マクドナルドのサプライチェーンについて」というテーマで、同社の取り組みや世界におけるサプライチェーンの現状を語った。

「近年、これまでに経験したことがないようなさまざまなサプライチェーンの混乱をもたらす出来事が発生しています。弊社は、そのような逆風の中でも、安定して安心・安全な食材を日々お客さまに届けるということを絶対的な使命として、戦略を練り、そして日々活用しています」(ウォーリー氏)

  • 日本マクドナルド サプライチェーン本部 執行役員 本部長のボッケル・ウォーリー氏

    日本マクドナルド サプライチェーン本部 執行役員 本部長のボッケル・ウォーリー氏

ウォーリー氏は、これまでに経験したことがないようなさまざまなサプライチェーンの混乱の具体例として、「過去に類例のない鳥インフルエンザの被害」「気候変動による影響とその結果の価格上昇と品質低下」「変動の激しい国際情勢とその物流への影響」「高齢化する産地・工場の人材と品質リスク」という4つの事柄をあげた。

「気候変動による影響とその結果の価格上昇と品質低下に関して、今年は特に暑くて長い夏が続いたことにより、雨の少ない1年になりました。加えて、夏が長く続いたあと、秋を飛ばして冬に入ってしまうような季節となったため、トマトやレタスといったサラダに欠かせない野菜の収穫量が激減しています。そして、この課題は今年だけのものではなく、来年も続くのではないかと考えています」(ウォーリー氏)

また、高齢化する産地・工場の人材と品質リスクという点に対しては、工場長を含むベテランの定年退職に伴い、若い世代や外国人労働者への世代交代が起きることが考えられているという。この世代交代が起こることによって、新しいメンバーへのトレーニングが必要になるため、そのためのコストやリソースの確保が急がれるそうだ。

加えて、品質の担保のためには同じく高齢化が進む農家を食い止める必要もあることから、こちらの高齢化問題に対しての対応も急がれる。

  • ウォーリー氏の考えるこれまでに経験したことがないようなさまざまなサプライチェーンの混乱の具体例

    ウォーリー氏の考えるこれまでに経験したことがないようなさまざまなサプライチェーンの混乱の具体例

サプライチェーンの混乱を解決する「3本脚の椅子」

マクドナルドでは、このような未曾有の混乱を解決し、店舗に安全で安心な食材を日々届けるために、「Three-Legged-Stool」という考え方を大切にしているという。

「Three-Legged-Stoolとは、3本脚の椅子という意味の言葉で、『サプライヤー』『フランチャイジー』『マクドナルド』が三位一体となりビジネスを支えていくという考えです。年間約14億人のお客さまへ安心でおいしい食事を提供し続けるためには、安定供給に関するあらゆるリスクへの対策、環境課題や社会課題の解決に向けた活動における、サプライヤーのとの連携が不可欠です。常に目的の共有や意見交換を行い、共に実行することで強固な信頼関係を築き、さまざまな課題により大きなスケールでアプローチします」(ウォーリー氏)

  • Three-Legged-Stoolのイメージ図

    Three-Legged-Stoolのイメージ図

このサプライチェーンへの「連携が重要」という考えは、同社の取り組みにも表れている。今回のセミナーにも竹田教授が登壇したが、マクドナルドは青山学院大学経営学部 竹田賢ゼミナールと産学連携の取り組みを行っているのだ。

このプロジェクトは、マクドナルドのサプライチェーンを支えているHAVIサプライチェーン・ソリューションズ・ジャパンと協力して行われたもので、約1年間の全9回のプログラムを通して、マクドナルドの次世代サプライチェーンについて社員と学生が考えるというものとなっている。

「私のゼミナールとマクドナルドは、2022年度からサプライチェーンは未来に向けてどうあるべきか、という点を共に勉強させていただいています。学生たちは、マクドナルドの素晴らしいサプライチェーンの考えや取り組みを学ぶことができ、マクドナルドの方々は、若いZ世代の人たちの価値観に触れるということで、新たな価値観を吹き込む機会になっています。お互いに価値のある時間を過ごしています」(竹田教授)

  • 青山学院大学 経営学部 竹田賢教授

    青山学院大学 経営学部 竹田賢教授

マクドナルドのサプライチェーンを担うのは他社?

続いて登壇した児島氏は、物流問題への対策事例を紹介した。同社は、約10年前から物流会社のHAVIサプライチェーン・ソリューションズ・ジャパンと連携し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した課題解決に取り組んでいる。

「私たちは、『国内外の不確実性への対応』『ビジネスの継続的成長』『地域への還元』への還元という3つのチャレンジを行っていくことで、持続可能な物流を実現していきたいと考えております」(児島氏)

  • サプライチェーン本部 上席部長 児島健治氏

    サプライチェーン本部 上席部長 児島健治氏

グローバルに展開するマクドナルドのサプライチェーンは、毎日300万人以上の顧客に安心で安全な食材を途切れなく供給するために海外からも多くの食材を輸入しているという。これらの調達については、当然ながら、輸送距離も長くなり、さまざまな混乱やアクシデントが起きるという可能性があることから、「全体最適化」に取り組んでいる。

「全国3000店舗に途切れさせずに納品するためには全体最適化が非常に重要だと考えております。毎日の素材の需要予想をHAVIが行い、一気通貫で情報共有できる物流システムを構築することで、店舗で顧客に販売した商品の販売データが店舗からHAVIに送られ、HAVIで需要予測を行うことで短期的な供給計画を出すことができます」(児島氏)

中長期的な目標についても、HAVIが店舗の今後の販売、発注数に基づいて工場が将来的に、いつ、どれぐらい作れば良いのかを予測する。また、生産に関しても、原料をいつ、どのタイミングで持ってくれば良いのかを予測することも実施しており、生産工場から店舗までの情報の管理をHAVIが担当しているそうだ。

最後に、児島氏は「HAVIとの連携により、サプライチェーン全体の最適化をデータ分析に基づいて一気通貫で行うことが可能になりました。今後、さらに精度を上げていくことでサプライチェーン全体を効率化していきたいと考えています」とHAVIとの連携について語った。