富国生命保険社長・米山好映「何が起きてもお客様との契約を守り続ける。それが生命保険事業の本質」

「契約者とのお約束を守るために、利益を上げ続ける」─米山氏はこう強調する。今年、創業100周年を迎えた富国生命保険。規模を追わない独自の経営。何より利益率や財務の健全性を大事にしたいと強調「ご契約者本位」を標榜し続けている。「最大たらんよりは最優たれ」という富国生命の経営哲学は、どのように生まれたのか─。

「営業と資金の運用は今まで通り切り離す」

 ─ 世界の経済状況、金利動向など、先行きが不透明ですが、こうした環境変化の激しい中で、富国生命は100周年を迎えたわけですが、改めて生命保険会社の役割をどう考えていますか。

 米山 我々、生命保険会社は保険の営業と、お預かりした保険料で資産運用をしていくのが車の両輪と言っており、本質的な問題です。

 ですから当社でも、富国生命投資顧問というアセットマネジメント会社を持っています。現在、同社の社長は富国生命で債券運用を担当していた人間が務めていますが、これは極めてリーズナブル(適正)な話です。資産運用は生命保険会社としての我々の本業だからです。

 しかし商業銀行や証券会社は役割が違います。商業銀行はまさに融資のプロですし、証券会社はブローカーですから売買のプロなんです。

 ─ ただ、一般の消費者は金融機関であれば資産運用ができるのではないかと思う人が多いのではないでしょうか。

 米山 ええ。日本では銀行や証券会社が子会社として資産運用会社をつくって、社長を送り込んでいますが、それに対して今、金融庁が強く批判しています。本来、アセットマネジメントは独立したものなのに、子会社で銀行の人間、証券会社の人間が社長をやっていることに対する批判です。

 ─ 来年から新NISA(少額投資非課税制度)が始まるなど、多くの人が資産運用に関心を持っていますが、資産運用の本質を見直す時ですね。

 米山 そうです。その認識から始めないと、日本の資産運用はうまくいかないと思います。

 私は生命保険会社の運用畑出身ですが、銀行や証券会社の人達が、知識だけでアセットマネジメントを語ってくるという体験を何度もしています。

 100周年を機に、様々な資料を読み返しているのですが、当社の第6代社長の古屋哲男が、1971年(昭和46年)の社長就任時に答えたインタビューでは「営業と資金の運用は、今まで通り切り離す」と話しています。要するに、株式の持ち合いで何かをするということはやらないと言っているのです。

 ─ 今、政策保有株式の削減が言われていますが、1970年代にすでに言っていたと。

 米山 古屋は株式を運用してきた人間で、そうやって育ってきたからです。この10年ほど、日本では政策保有株の削減、持ち合いの解消が盛んに言われますが、当社では1971年の段階で「今まで通りやらない」と言っているんです。

 株取引の基本は安い時に買って高い時に売るというところにあります。株式の運用、あるいは融資をやっていく上で、そこに営業が絡んでしまったら、株を売ったり買ったりできないわけです。

 大手損害保険会社による価格調整問題に関する報道を見ていたら、契約している企業は持ち合いをしている大手損保を優先的に採用する傾向が強いと書いてありました。株の持ち合い先であれば、保険料は必要経費に近いという感覚になります。この持ち合いについて、未だに日本は変わっていない。

 かつての生命保険会社も、各社が企業の株を保有して、団体保険の契約をお願いしたりしていました。各社がまだ2桁成長をしていた時代で、そうやってみんなが大きくなっていったのです。しかし、富国生命はそれをやらず、切り離せというわけですから、営業は大変でした。ですから、富国生命の規模は大きくなっていません。

 ─ しかし、生保の本質を考えると、それでいいのだということですね。

 米山 そうです。バブル経済期に、古屋が「株を買うな、不動産も買うな、一時払い養老保険はストップだ」と号令をかけました。これによって総資産の順位ではどんどん他社に追い越されていきましたが、「そんなことは関係ない」といって押し通したんです。あのバブルに乗らなかったということで今、皆さんがすごい話ですねと言ってくれます。

利益を伴った規模でなければ…

 ─ その当時、社内では、株や不動産を買うべきだといった議論は出なかったんですか。

 米山 どんどん他社に順位が抜かれていくわけですから、私自身も若かったのですが「何だ、この社長は」と批判していましたね。しかし、後にバブルに乗った生保は破綻するという結果が出たわけです。

 私は後に社長に就任してから、「すごい人だな」と実感させられました。バブル当時の私は物事の本質が見えておらず批判をする側でした。世の中全体がバブルの時はそういう状態で、株や不動産を買わないのはおかしいと、事業会社まで乗り出していた時代です。

 当社は一時払い養老保険も同じ考えでストップしました。今も、「外貨建て保険」や「節税保険」など、各社が同じことをやってしまっている。各社が「みんなで渡れば怖くない」のような世界でやっているわけです。その意味で、当時から変わっていないんです。

 ─ 富国生命は規模を追わない経営が徹底していたと。

 米山 そうです。でも、古屋から言わせれば、それは当然のことなんです。要するに損益計算書のボトムライン(利益)を見て仕事をしなさいと。「君達は売上高が立てば勝ったような気分になるかもしれないが、それは企業経営としてはおかしい」という話をしていました。

 利益を伴った規模でなければ意味がないということです。日本ではトップライン(売上高)とシェアはどこが高いかを比較する時代が続きましたが、資本市場が自由化され、外国の資金が入ってきたことでROE(株主資本利益率)やPBR(株価純資産倍率)といった指標の重要性が、この10年で言われるようになりました。

 我々は相互会社ですから、ROEといった指標はありませんが、生保も銀行業などと同じで、規模の利益が働くビジネスです。当社は規模は小さいのですが、利益率は高いんです。それは企業経営の根幹であり、当社の歴史では当然のことと認識されています。

 ─ しかし世間では、売上高やシェアを競う競争が続いてきたと。

 米山 ええ。メディアを含め見方が規模になっている。そうすると、当社で働いている若い人達の中には「規模を大きくして見栄えをよくして欲しい」という希望を持つ人もいます。

 私も若い頃はそう思っていましたから、気持ちはわかります。ただ、日本もようやく単なる売上高やシェアの話じゃないのだということが徐々に言われるようになりました。

 ただ、未だに損保も生保も、売上高、シェアを基準にしている。日本企業だけの基準なのですが、ROEの重要性が10年以上言われていながら、まだこういう話が続いている。こうした本質的な、業界を超えた問題が未だに解決されていないのです。

会社の目的を徹底していけばブレない

 ─ 富国生命としては、生保の本質を追求し続けるのだということですね。

 米山 我々にとって生命保険業は、契約者とのお約束を、生涯にわたってきちんと守っていくことです。それが「相互扶助」の精神であり、我々にとっての目的です。経済金融危機があろうと、コロナ禍があろうと、地震があろうと、契約者との約束を未来永劫守り、その家計を守っていく。

 それをやっていくためには、きちんとした利益を出していかなければなりません。いくら綺麗なことを言っても、あるいは売上高がどんなに伸びても、利益がついていかなければ、その目的は達成できません。

 経営学者のピーター・ドラッカーも「利益は目的ではない」と言っています。企業にはそれぞれ目標があるけれども、利益が伴わない限り、それは達成できない。すなわち「利益は条件」と説いています。これは常識だろうと思います。

 ─ 横並びなど日本的慣習に縛られて、売上高やシェアの競争に走る傾向が強いですね。

 米山 そうですね。業界で変額年金の元本保証商品が非常に売れたことがありましたが、当社では販売しませんでした。

 一方、我々は日本における銀行窓販を、業界の中で先駆けて始めました。開始前、他の大手生保は皆大反対でした。その理由は「営業職員の販売チャネルが壊される」というものでした。

 そうした中で始めた銀行窓販ですが、非常に伸びました。ただ、追随した他社が変額年金の元本保証商品を出したところ非常に売れた。しかし、本質的にそんな商品はあり得ませんから、当社では売りませんでした。

 そうしたら、銀行窓販で先駆者として築いたポジションが一気に下がってしまったのです。売上高も見劣りがするようになり、加えて新聞が絶えず、そのことを書いていますから、当社の従業員のモチベーションはどうしても下がってしまいます。

 ─ そういう時に、社内にはどういう話をするんですか。

 米山 会社の目的は契約者との約束を果たすことだということに徹底していけばブレないという話をしました。会社として、いいと思わないことをやって損失を出したら、契約者に迷惑がかかるじゃないかと。

 少し口幅ったいですが、富国生命の財務内容は継続して、いい状態です。ですから昨年度の決算ではコロナ給付金を300億円以上お支払いして、基礎利益が半分ほどになりましたが、その決算を受けても、S&Pの格付けが上がり「Aプラス」になったんです。これでようやく日本生命さん、第一生命ホールディングスさんと同じ格付けになりました。

 格付けで最も大事なのは資本力です。要は富国生命がお客様との保険契約という約束を将来にわたって続けられるかどうか。「債務返済能力」が格付けの本質です。S&Pの予想修正後総資本は伝統的生保9社の中で唯一、トリプルA格の自己資本必要額を大きく上回っています。会社の規模は見劣りするかもしれませんが、財務内容は最も健全性が高いと自負しています。

小売業の先達に学んできたこと

 ─ 創業100周年を迎えて、富国生命の基軸をもう一度確認しようということですね。

 米山 ええ。それは何なのかといったら、繰り返しですがご契約者との約束を未来永劫守ることができるかどうか。我々の仕事は家計に直接影響のある仕事です。一家の主がお亡くなりになった時に、保険金が払えない、削減して下さいといったことが、90年代にバブルが崩壊して、他社において実際起きたわけです。そういうことは絶対にあってはならないことです。

 ─ 米山さんが日本企業の経営者を見ていて、参考になったという人は誰がいますか。

 米山 私は若い頃から小売業に関心を持って見てきました。第1世代の中内㓛さん(ダイエー創業者)、伊藤雅俊さん(イトーヨーカ堂創業者)、堤清二さん(セゾングループ創業者)、最近亡くなられた清水信次さん(ライフコーポレーション創業者)、ご存命の方で言えば岡田卓也さん(イオン創業者)の行動には、ずっと注目してきました。

 ─ その中で特に印象に残った人はいましたか。

 米山 私は伊藤さんに、直に何度も教えを請いました。伊藤さんから「お客様が大事だよ」と言われたら、心の底から納得します。伊藤さんは昔から、今日本で言われている従業員、地域、取引先、株主を大事にする「ステークホルダー経営」を進めてきた方です。

 ところが、伊藤さんが、ある新聞の取材で「お客様第一。その次に従業員、地域、取引先、最後に株主」と言ったら、「株主を軽視している」と記事に書かれてしまったのです。

 ─ 記者の側が本質とは違うところを見ていたと。

 米山 伊藤さんは昔から、ROE経営、株主を意識した経営を進めてこられた方です。あの世代で、あれほど株主を意識した経営を実践した方はいらっしゃらなかったと思います。

 例えば、ダイエーの中内さんは不動産を保有しましたが、伊藤さんは建物をリースで、不動産は所有しませんでした。不動産を持つと資本効率が悪くなり、ROEが下がるからです。その意味でも、日本企業において、ある面で最も株主を意識した経営をした方だと思います。

 当社は実質的な創業者である第2代社長の吉田義輝が「ご契約者本位」という想いで相互会社として創業したという歴史があります。この創業の想い、そして姿勢は、これからも変わりません。