東京理科大学(理科大)は11月16日、食品として注目される微細藻類「ユーグレナ」の培養方法について研究を行ったところ、市販のトマトジュースを水で希釈し、ユーグレナの生育に必須のビタミンB1・ビタミンB12を添加したのみの培地で、従来の試薬グレードの材料を利用した培地と同じくらい良好にユーグレナを培養できることを見出したと発表した。
同成果は、理科大 理学部 第一部物理学科の山下恭平助教、同・徳永英司教授、ユーグレナの鈴木健吾氏、同・山田康嗣氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、食品加工とエンジニアリングに対する持続可能なソリューションの開発を扱う学術誌「Sustainable Food Technology」に掲載された。
ユーグレナ(ミドリムシ)は、植物と動物の特徴を併せ持ち、光合成による独立栄養培養のほか、培地中の炭素源を利用した従属栄養培養による増殖も可能だ。その成分としては、動物性タンパク質の特徴である「メチオニン」が豊富に含まれており、その栄養価は牛乳に含まれる「カゼイン」に匹敵するという。さらに、必須脂肪酸、DHAおよびEPAなどに加え、免疫調節作用や肝臓保護作用などが検証されている食物繊維「パラミロン」の一種である「β-1,3-グルカン」なども含まれる。
従来のユーグレナ培養では、より高収量となることから、従属栄養培地の「Koren-Hutner(KH)培地」が主に用いられているが、同培地では26種類もの物質を計量・混合する必要があり、複数の原料を調達するなどの作業を要していた。また、一般的なユーグレナ含有食品の製造では、培養から食品加工までの工程数が多く、生産コストがかかることも課題だったとする。そこで研究チームは今回、扱いが簡便な飲料を培地として検討したという。
実験ではまず、KH培地、または独立栄養培地である「Cramer-Myers(CM)培地」を用いて、好気条件下で10日間ほどユーグレナを静置培養したとのこと(初期細胞密度:4.2×103個/mL)。すると、細胞密度はそれぞれ106個/mL、107個/mLまで増加したとする。
次に、13種類の飲料に必須ビタミンB1、B12をそれぞれ添加した培地を用いて、好気条件で静置培養を行ったという(初期細胞密度:1.6×104個/mL)。またその際、「明条件(26℃、白色光照射)」または「暗条件(23℃、光照射なし)」の2条件が設けられた。なお13種類の飲料の内訳は、希釈ブドウジュース(ジュース:水=3:7または7:3)、パイナップルジュース、リンゴジュース、甘酒、希釈ニンジンジュース(ジュース:水=3:7または7:3)、トマトジュース、オレンジジュース、グレープフルーツジュース、プルーンジュース、ココナッツウォーター、メープルウォーターだったとのことだ。
その結果、トマトジュースでの培養において、ほかの飲料と比較して細胞密度が最大となり、特に明条件ではKH培地と同程度の107個/mLまで増加したことが判明。この時の培養液の外観は、培養前後で赤色から緑色へと劇的に変化したことも確認された。トマトジュースで培養されたユーグレナを観察したところ、明るい緑色をした葉緑体が細胞内に密接に詰まっていたというが、その一方でトマトジュース以外では、葉緑体の数が少なく、緑色が薄くなっていたといい、このことから研究チームは、ほかの飲料に比較してトマトジュースはユーグレナの生育に適していることが示唆されたとする。
さらに、トマトジュースを水で希釈した培地(ジュース:水=3:7、4:6、5:5)を用いて、必須ビタミンを添加せずに好気条件での培養を行ったとのこと。すると、ユーグレナはすべての希釈条件で、初期細胞密度の約100倍(106個/mL)まで増殖したといい、これはトマトジュース自体の栄養組成がユーグレナの生育に適していることを示すと結論付けた。
続いて研究チームは、トマトジュースから固形成分を除去した「トマト(ろ過)培地」を用いて好気条件で培養を行った。すると、細胞密度は無ろ過のトマトジュース培地よりも大きくなったとする。このことから、固形成分の除去により、密度効果による影響(生育空間、光量・栄養塩の獲得、老廃物の蓄積)を緩和できる可能性が示されたとしている。
最後に、トマトジュースの特徴的な栄養素である「グルタミン酸」を添加したCM培地でユーグレナが培養された。その結果、細胞密度はCM培地の2~3倍に達したが、トマトジュース培地の約半分に留まったといい、トマトジュースのグルタミン酸以外の成分も、ユーグレナの良好な生育に寄与していることが示唆されたとする。
研究チームによると、今回の研究成果により、糖源の利用を想定した場合の培地コストを、試薬グレードの材料を利用した場合の6分の1にまで抑制でき、また過剰生産されたトマトを有効利用することが可能になるという。そして簡便かつ安価な今回の手法は、食品としてのユーグレナの利用範囲拡大に寄与することが期待されるとしている。