パナソニック コネクトはダイバーシティの進化形「DEI」の推進を重要な経営施策の一つとして位置付けている。すべての人々が心理的安全性を感じ、能力を最大限に発揮できる社会を目指している。

DEIとは企業経営において、社員それぞれが持つ多様な個性が最大限に生きることがより高い価値創出につながるという考え方。「D」はダイバーシティ(多様性)、「E」はエクイティ(公平性)、「I」はインクルージョン(包括性)の頭文字。

同社はいかなる差別も許さず、異なるカルチャーを認め合い、心理的安全が確保された中でそれぞれのポテンシャルを発揮できる会社を目指している。経験(仕事)、国籍、年齢、宗教(信条)、学歴、思考、民族、人種、場所、言語、性差、障がい者、LGBTQ+に対し、誰もが平等に活躍できる環境を実現するため多種多様な活動を実施している。

パナソニック コネクトは、DEIを全社体制で推進するため、社長直轄に担当役員を配置し、11人の推進室と各部門からなる16人の各部門DEI推進リーダー(CHAMP)体制を構築している。2017年から取り組みを本格化させており、これまで数多くの社外ゲストに登壇してもらうイベントを開催し、社員全員で価値観をアプデートさせている。

  • パナソニック コネクト DEI推進体制

    パナソニック コネクト DEI推進体制

DEI社内強化イベント「DEI Month」に密着

2023年10月には、「DEI Month」と称した社内強化イベントを実施した。DEIに関するイベントを集中的に実施し、社員一人ひとりが様々な角度からDEIについて考えられる月間としてもらうことが目的。対象者は全社員で、就業時間内に合計80を超えるDEI関連のイベントが開催された。

同11日には、生理痛を最先端の機器を用いて経験するイベントが大阪の北門真拠点で開催された。男性が経験できず、女性でも個人差が大きいと言われる生理痛について、男女関わらず理解を深めるきっかけとなった。

  • 生理痛を体験しているパナソニック コネクトの男性社員(提供:パナソニック コネクト)

    生理痛を体験しているパナソニック コネクトの男性社員(提供:パナソニック コネクト)

また同24日には、普段の仕事ではなかなか関わることのない外国籍の社員同士の交流会が実施された。この交流会には、代表取締役 執行役員 プレジデント チーフ・エグゼクティブ・オフィサー(CEO)の樋口泰行氏も参加し、「日本で働く」をテーマに意見交換を行った。

まずはアイスブレイクとして、初対面の人同士で協力して一番飛ぶ「紙飛行機」を作るグループワークが行われた。制限時間は10分で、遠くまで飛ぶ作り方を相談し合ったり、同社が導入しているAI(人工知能)アシスタント「ConnectGPT」に質問している社員の姿もあった。

  • 「紙飛行機」を作っている様子

    「紙飛行機」を作っている様子

  • 独自のAIアシスタント「ConnectGPT」に作り方を聞いている社員の姿も

    独自のAIアシスタント「ConnectGPT」に作り方を聞いている社員の姿も

  • 「紙飛行機」を飛ばしている様子

    「紙飛行機」を飛ばしている様子

次に行ったのは自己紹介ワーク。名前や部署、出身地や趣味や家族のことについて話をしていた。参加者していた社員の国籍は中国や韓国、インド、コートジボワールなどさまざまで、基本的に2~3カ国語を話せる人ばかりだった。

  • 自己紹介ワークの様子

    自己紹介ワークの様子

  • 言語を切り替えてさまざまな国の社員同士で交流していた

    言語を切り替えてさまざまな国の社員同士で交流していた

一番盛り上がっていたのはメインイベントの「日本で働く」をテーマにしたディスカッション。樋口氏も参加し、日本で働く理由、日本で働くうえでの課題、その課題を解消するためにするべきことなどについてディスカッションを行った。

  • ディスカッションの様子。樋口氏も参加した

    ディスカッションの様子。樋口氏も参加した

会話をしながらテーブルにある模造紙にキーワードを書き込み、議論を重ねていった。日本で働きだしたきっかけは「日本のアニメやドラマ、音楽が好き」「日本の技術力に魅力を感じた」「国際結婚が理由で日本に来た」とさまざまだった。

  • 模造紙にキーワードを書き込んでいた

    模造紙にキーワードを書き込んでいた

日本で働くうえでの課題として多くの人の共感を呼んでいたのは「言語の壁」だった。中国語・英語・日本語を話せる中国籍の女性社員は、言語のスイッチの切り替えが難しいことに悩みを抱えていた。その日のコンディションに左右されるらしく、「昨日は流ちょうに喋れたのに、今日は言葉に詰まるといったことがよくある。言語の切り替えが難しいので、日本語の会議で英語を使わないで欲しい(笑)」と本音を漏らしていた。

  • ディスカッションの様子。「言語の切り替えが難しい」という意見に一同共感していた

    ディスカッションの様子。「言語の切り替えが難しい」という意見に一同共感していた

また「組織変更や部署異動が多く、周りの人との関係構築が難しい」「職場で若手や女性が少ない」「日本の税金が高い」といった悩みを抱えている社員もいるようだった。「日本には多様な能力を生かす仕組みがなく、多様性の無駄使いをしている」といった辛辣なコメントをしている社員もいた。

パナソニック コネクト樋口CEO「初めて知った」

交流会終了後、参加していた樋口氏に話を聞いた。DEIを推進する狙いを改めて聞くと「『マイノリティ=居心地が悪い・弱い立場になる』といったことはあってはならない。人権は必ず尊重しなければいけないし、そのためには差別の対象になりやすい人の心理的安全性を高めていく必要がある。気持ちよく仕事できることが一番生産性の上がる要因なので、DEIの取り組みは企業競争力の向上にもつながるはずだ」と答えた。

  • パナソニック コネクト 代表取締役 執行役員 プレジデント チーフ・エグゼクティブ・オフィサー(CEO)の樋口泰行氏

    パナソニック コネクト 代表取締役 執行役員 プレジデント チーフ・エグゼクティブ・オフィサー(CEO)の樋口泰行氏

また、今回参加した交流会でさまざまな気づきがあったという。「日本独自のソフトウェアに使いづらさを感じている外国籍の方が多いことを初めて知った。言語の壁についても改めて実感した。『日本語が堪能になってから入社してください』といった考え方では優秀な人材が獲得できず、本当の意味で成長できる会社にはなりえないだろう」(樋口社長)

同社は今後もDEI推進に注力していく。「その月だけではなく、オンゴーイングな取り組みとして継続的に従業員の意識を強化していきたい。DEI推進に注力し始めた2017年頃は自分だけ張り切っている雰囲気だったが、今は会社全体での意識が高まっている」と樋口氏は語った。

変革が常に求められる事業環境において、多様な発想がなければ企業として生き残っていくことは困難だという考えを持っている樋口氏。パナソニック コネクトは、DEIを経営戦略の柱のひとつと位置づけ、今後も多様な視点や経験、価値観を持つ一人ひとりを生かすことのできる柔軟性の高いカルチャーを目指していく。