AWSジャパンは11月2日、公共領域における生成AIの活用に関する勉強会を開催した。同社は先日、業界別の生成AI活用を紹介する機会として、金融領域における生成系AI活用事例に関する記者説明会を開催(同説明会の記事はこちら:三菱UFJ銀行のAWSを用いた生成AIを活用する取り組みとは?)、今回の勉強会はそれに続くものとなる。
執行役員 パブリックセクター技術統括本部長の瀧澤与一氏は、生成AIのポイントから説明を行った。
瀧澤氏は、生成AIの特徴について、基盤モデルによって高度な方法でインサイトを得て結果を出せることと述べた。従来のAIで用いられている機械学習モデルは、用途に基づいてデータを用意してデータにラベルを付け、それに基づきトレーニングして結果を得る。対する基盤モデルは、ラベル付けされてないデータを用意し、トレーニングを行う。つまり、生成AIにおいては基盤モデルがキモとなる。
基盤モデルは用途に応じて開発が進められており、用途に応じて、適切な基盤モデルを選択する必要がある。基盤モデルのうち、言語に特化したものが大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)となる。
瀧澤氏は、「推論に大規模なコンピューティングが必要になると、レスポンスが遅くなる可能性がある。推論を高速に行うために、コストも重要になってきている」と話した。
自治体における生成AI活用のユースケース
瀧澤氏は、自治体で生成AIを活用する代表的な目的として、「国民、市民のユーザー体験の強化」「職員の生産性と創造性の向上」「業務プロセスの最適化」を挙げた。
「国民、市民のユーザー体験の強化」に向けては、チャットボット、バーチャルアシスタント、会話分析、パーソナライゼーションなどが行われる。
「職員の生産性と創造性の向上」に向けては、会話型検索、要約、コンテンツ作成、コード生成、データからの洞察などが行われる。
「業務プロセスの最適化」に向けては、文書処理、データ拡張、セキュリティ、プロセスの最適化などが行われる。
自治体に限ったことではないが、生成AIの効果的な使い方として、情報収集の効率化が紹介された。Amazon DynamoDB(NoSQLデータベースサービス)、Amazon Kendra(文書検索サービス)、Amazon S3、LLMを活用して、ユーザーが関心事に関する情報の要約の生成をリクエストする仕組みを構築する。
この仕組みのポイントとして、瀧澤氏は「RAG(Retrieval Augmented:拡張検索生成」を挙げた。RAGは、生成AIアプリケーションの出力をその組織のデータのみに制限することで、ハルシネーション(事実でない回答を出力する)を抑制する。上図では、Amazon KendraとLLM 組み合わせて RAGのワークフローを実装している。
先日開催された日本オラクルのイベントにおいても、同社の取締役 執行役 社長の三澤智光氏が基調講演で、データベース「Oracle Database 23c」がRAGに対応していることをアピールしていた。今後、企業・自治体が生成AIを活用するにあたって、RAGの利用が増えていくと考えられる。
教育機関における生成AI活用のユースケース
教育機関における生成AI活用のユースケースとしては、生徒の解答の自動採点と添削が紹介された。生徒が提出した記述式の課題に対し、問題と模範解答をもとに自動で採点を行う。問題のポイントや解説を採点・添削に含めることもできる。
加えて、テストの問題を自動で生成するといった使い方も可能だ。Amazon Kendra を用いて過去の問題や教材など参照し、新たな テスト問題を生成することができる。
教員の過剰労働についてはさまざまなメディアが報じているが、生成AIを活用することで、教員の労働環境を改善するとともに、生徒によりよい学習体験をもたらす可能性がある。
医療機関における生成AI活用のユースケース
ご存じの通り、医療機関では、さまざまな文書が作成されている。そこで、LLMを活用して、文書に必要なデータをアプリケーションを通して指定し、手入力を避けることでミスを低減するといった例が紹介された。プロンプトを工夫することで、異なるタイプの文書生成にも対応できるという。
また、医療機関で意思決定を行う際、電子カルテの情報をはじめ、 医薬品や診療ガイドラインなど、院内外の情報にアクセスする必要がある。とから、LLMを活用して外部の情報を利用する仕組みも紹介された。。
ただし、医療で取り扱う情報はセンシティブであり、高いセキュリティと正確性が求められる。こうした懸念に対しては事前に保管されているデータを用いて検索し、回答を生成することで責任あるAIを利用するとともに、保管されている1次情報を合わせて提供し、正確な判断を行えるように支援するという。
さらに、瀧澤氏は医療業界を支援するサービスとして、「AWS HealthScribe」を紹介した。これは、HIPAAに準拠した臨床用ノートを自動で生成するサービスだ。AIを臨床現場で責任を持って利用できるように設計されている。
具体的には、患者と医師の会話を書き起こし、生成AIが洞察する。瀧澤氏は、「AWS HealthScribeにより、医師と患者が会話する中でカルテができていくため、患者を待たせる時間が減る」と述べた。
そして、「今後、ヘルスケアに注力する。AWS HealthScribeにより、病歴に関するデータを蓄積することで、研究にも活用できる。医療業界の変革を支援したい」と瀧澤氏は語っていた。