日本IBMは10月31日、都内で同社製品とテクノロジーに関する最新情報を提供する技術者向けイベント「IBM TechXchange Conference Japan」を開催した。本稿では「Technology × Chang:AI+時代のIBMテクノロジー」と題した基調講演の一部を紹介する。

山口社長が感じるテクノロジーの可能性

オープニングを飾った日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏は、イベント開催の背景について「技術者、エンジニアの方々が一堂に集まり、スキルや経験などを共有してワクワクする時間を持てればと考えました。テクノロジーの進化が激しい時代を迎えていますが、解決できなかった課題が解決できる見通しが立ちつつあり、実現したいと思っていた夢が実現できる可能性を感じています」と述べた。

  • 日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏

    日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏

そして山口氏は、ある画像を投影(下図)した。同氏は「これはストレージのダンプをそのままコピーで出したものです。私がIBMに入社してから20年間くらいは、こうしたヘクサコードを解析することで、お客さまが求めるものを構築していました」と振り返る。

  • ストレージのダンプ

    ストレージのダンプ

また、同氏は「その際、お客さまから『ATMを24時間稼働させたい』などの要求があり、共同で実現方法を模索して作ってきました。そこから学んだことは、例えばATMが24時間稼働するということがニュースで流れたときは、システムが動いたというよりも要望・期待に応えることができたことが嬉しく感じました。技術は素晴らしいことであり、その技術で世の中を作ることも楽しいですが、重要なのは何のために働き、作っているのかということを常に念頭に置くことです」と話す。

こうした実体験をもとに、重要なポイントとして同氏は「目的」「動かすこと」「仲間」の3点を挙げていた。

「IBM watsonx」のデモンストレーションを披露

続いて、日本IBM テクノロジー事業本部 クライアント・エンジニアリング事業部 AIエンジニアリングリーダー、理事の竹田千恵氏と、同 テクノロジーエンジニアの池澤あやか氏が登壇し、今年7月に提供開始したAIとデータプラットフォームである「IBM watsonx」のデモンストレーションを行った。

  • 日本IBM テクノロジー事業本部 クライアント・エンジニアリング事業部 AIエンジニアリングリーダー、理事の竹田千恵氏

    日本IBM テクノロジー事業本部 クライアント・エンジニアリング事業部 AIエンジニアリングリーダー、理事の竹田千恵氏

竹田氏は生成AIを含めた、昨今におけるAIの話題性を鑑みて「2017年と比較して企業におけるAIの活用比率は2022年には2.5倍に拡大しました。ただ、AIには光と影が存在し、これまで不可能だったものを可能にする側面がある一方で、公平性や説明性、正確性、法規制などを誤ると信頼を損なうことがあります」と説明した。

  • AIには光と影が存在するという

    AIには光と影が存在するという

同氏によると、AIの影を光に変えるためにはAIの利用者ではなく、可能性とリスクをコントロールしてビジネスにおける「AIの価値創造者」として、企業におけるデータを学習させて、チューニングしてく環境が望まれるという。そのため、同社では企業が独自のAIを構築するためにwatsonxを提供している。

watsonxはAIモデルのトレーニング、検証、チューニング、導入を行う「watsonx.ai」(7月に提供開始済み)、あらゆる場所の多様なデータに対応してAIワークろどーを拡大する「watsonx.data」(同)、責任と透明性があり、説明可能なデータとAIのワークロードを実現する「watsonx.governance」(年内に提供開始予定)の3つのコンポーネントで構成し、「Red Hat OpenShift」によりクラウド、オンプレミス、エッジ環境でも動かせる。

  • 「IBM watsonx」の概要

    「IBM watsonx」の概要

watsonx.aiのデモ

池澤氏が実際のデモンストレーションを行った。まずは、watsonx.aiからだ。サンプルプロンプト一覧を開くと、ミーティングなどのサマリ作成や情報の抽出タスク、生成タスク、分類タスク、Q&Aといったさまざまなタスクに対応したサンプルを参照ができる。

今回はPronmpt Labのテックプレビュー版で日報のデモを実施。はじめに「以下は営業の日報です。日報から会社名、顧客名、電話番号、メールアドレス、会話形式と商談製品を抽出してください」という命令を書き出す。

次に出力の形式を確定したうえで、モデルとパラメータ数を選択すると、すぐに出力される。基盤モデルはプログラミング言語やIT、IoT、ビジネスプロセス、セキュリティ、地理空間、分子など、さまざまなものを揃えている。

  • Pronmpt Labのテックプレビュー版で日報のデモの様子

    Pronmpt Labのテックプレビュー版で日報のデモの様子

池澤氏は「Prompt LabはUIが分かりやすいため非エンジニアの方でも簡単にプロンプトエンジニアリングを行うことができます。また、非エンジニアの方が調整したものをコードに組み込みたいときは、curlでAPIを叩く際のコマンドを表示してくれるため、これを参考に簡単にコードに組み込むことが可能です」と説明した。

  • Prompt Labは非エンジニアでも簡単にプロンプトエンジニアリングを行うことができる

    Prompt Labは非エンジニアでも簡単にプロンプトエンジニアリングを行うことができる

watsonx.dataのデモ

次は、watsonx.dataだ。竹田氏はデータに関する課題について「今後5年間で爆発的に増加が見込まれるとともに、複数の保存場所するためサイロ化が進む可能があります。また、文書・画像・動画と異なる形式のためデータのクリーニングや統合、準備に時間がかかり、BI(ビジネスインテリジェンス)やDWH(データウェアハウス)、データレイクなど、さまざまな用途が存在します。こうした課題を解決するものがwatsonx.dataです」と力を込めた。

さまざまな場所にまたがるデータを統合管理できるwatsonx.dataの「インフラストラクチャー・マネージャー」は、データ管理のツール構成をビジュアル化し、分かりやすく表示する機能。

池澤氏は「ビジュアル化した図の下層は、オブジェクトストレージやデータベースなどのデータソースを表示します。中層はApache Icebergといったテーブルフォーマットを表示しており、これがあることでデータソースの中にどのようなデータが入っているかを参照できます。そして、上層はPrestoなどの分散クエリエンジンとなり、これらは線で関連付けられています。これにより、バラバラに配置されたデータに対して、エンジン側で一括でSQLを実行することができます」とwatsonx.dataのメリットを話した。

  • 「インフラストラクチャー・マネージャー」のイメージ

    「インフラストラクチャー・マネージャー」のイメージ

竹田氏は「データベースやオブジェクトストレージなど異なるタイプのデータソースを変換せずに、そのまま利用できるため迅速なデータ分析を可能としています」と、述べていた。

  • データソースを明記したカラムを追加して、30個のユーザーデータを収集するようにした。各データベースに分散配置しているユーザーの集計が容易にできるという

    データソースを明記したカラムを追加して、30個のユーザーデータを収集するようにした。各データベースに分散配置しているユーザーの集計が容易にできるという

なお、年内に提供開始が予定されているwatsonx.governanceは提供前のためデモはなかったものの、データセットや推論タスク、事前学習モデル、追加学習用データセット、使い学習済みモデルをはじめ、データ全体の流れを追跡できるサービスとなっている。

  • watsonx.governanceの概要

    watsonx.governanceの概要

なお、イベントは11月1日まで開催しており、展示エリアを設け、最新技術のセッション、デモ、ハンズオンのほか、コミュニティイベントやネットワーキングの機会も提供している。