NTTとNECは10月13日、データセンターエクスチェンジ(DCX)の実現に向けて、APN(All Photonics Network)を活用した光波長パス設定技術を確立し、原理実証を行ったと発表した。
IOWN Global Forumで、アーキテクチャーの制定が進んでいるAPNを活用し、通信需要の変化に応じて、データセンター間の大容量、低遅延接続を可能にする。
「必要な対地間をオンデマンドに光波長パスで接続し、分散されたデータセンター間で大容量、低遅延通信を行うDCXサービスの実現に大きく貢献する」(NTT未来ねっと研究所 フロンティアコミュニケーション研究部 主任研究員の片山陽平氏)という。
光波長パス設計技術は、トリノ工科大学、コロンビア大学、デューク大学、ダブリン大学と共同で、米国の学術網であるCOSMOSテストベッドを用いて、フィールド実証したという。
今回の実証の成果により、これまでは熟練作業者が2~3時間以上かけて行っていた光波長パスの設計、設定を自動化し、約6分間に短縮できる。
同技術は、スコットランドで開催された光通信技術に関する欧州最大の国際会議「49th European Conference on Optical Communications(ECOC)」で報告され、Best Paper Awardにも選出されたという。、また、スペインで開催されたTelecom Infra Project Fyuz eventでも紹介されたという。
DCXサービスは、メトロエリアに分散した多数のデータセンターを、相互に光波長パスで接続し、大容量、低遅延接続による仮想化した大規模データセンターとして活用することができるもので、分散したデータセンターを柔軟に追加することで、データセンター需要への対応や、災害発生時の柔軟な対応が可能になる。
その一方で、デジタルコヒーレント技術やシリコンフォトニクス技術などの技術革新を背景に、DWMランシーバーの大容量化、小型化、省電力化が進展しており、多くのオペレータが、DWMトランシーバーを活用するようになっている。この流れは、コヒーレントDSPとシリコンフォトニクスを、1つのパッケージに実装したCoherent co-packaged deviceなどの光電融合技術によって、さらに加速すると見られているが、多種多様なWDMトランシーバー間では、オンデマンドに自動接続する技術がなく、大量の対地間をWDM光波長パスで直接接続する際の大きな課題となっている。
また、AIサービスの利用拡大などにより、データセンター需要が急増しており、大都市圏におけるデータセンターの電力、土地の供給不足が顕在化。郊外へのデータセンターの分散化が求められており、遠隔地を高速、低遅延に接続する光波長パスの必要性が高まっている。だが、従来のデータセンター間通信(DCI)は1対1のシンプルなトポロジーで、かつ単一のベンダーや、単一の伝送モードで装置を構成するのが一般的であるため、規模拡張性に乏しく、データセンターの分散化を大規模に進めることが困難だった。
今回実証した技術は、WDMの光波長パスにおいて、ユーザーアクセス区間やキャリア区間、装置ごとの信号歪みを、加法性をもつガウスノイズ(光の伝搬特性)としてモデル化し、それぞれのガウスノイズの和から、エンド・エンドの光波長パスの光信号品質を推定。様々な経路や装置の組み合わせに対して、瞬時に最適な伝送パラメータを自動設定することが可能になったという。
ガウシアンノイズモデルは、トリノ工科大学が提案したもので、長距離伝送時の光ファイバー非線形光学効果に起因する光信号品質劣化を、短時間で計算できるようになり、多くのオペレータによって、その精度が証明されてきた。しかし、DCXが対象とする100~200km程度の短距離区間においては、長距離伝送での光信号品質劣化の支配要因が異なるため、光伝送装置などにおいては、これまで十分に考慮されていなかったノイズの影響を加味したモデル化が必要であった。
NTTでは、ガウシアンノイズモデルのコンセプトを応用し、短距離区間にも適用可能な光信号品質の計算アルゴリズムを確立するとともに、複数のユーザーアクセス区間やキャリア区間にまたがる場合や、多種多様なWDMトランシーバーを利用した場合でも、最小限のプローブ光を通すだけで、オンデマンドに、エンド・トゥ・エンドの光波長パスを設計、設定できる手法を提案。トリノ工科大学とNECとともに検証を行い、さらにNTTは、ユーザー拠点端末と通信事業者機器が連携し、協調するアーキテクチャーと、コントロールプレーンのプロトコルを考案したという。
「DCXの実現には、従来のDCIとは異なり、ユーザーアクセス区間、キャリア区間にまたがって、複数ベンダーの装置を制御し、リンクの光信号品質に適した様々な伝送モードでオンデマンドに光波長パスを設定する必要があり、新たな技術開発が必要だった。IOWN Global Forumでは、オンデマンドなWDM光波長パスで、データセンター間を柔軟に接続可能なDCXが提案されており、DCXによる多対多の接続を可能とすることで、規模拡張性を確保できるようになる」という。
NTTとNECでは、コロンビア大学、デューク大学、ダブリン大学の協力のもと、COSMOSテストベッドを活用し、ニューヨーク市内のマンハッタンに敷設された実フィールド光ファイバーと、オープンな標準制御インタフェースソフトウェアを活用した光伝送装置、ROADM装置を用いて、WDM光波長パス設定技術の原理実証を実施。従来は、熟練作業者が装置設置場所で2~3時間作業する必要があったものが、エンド・トゥ・エンドのWDM最適光波長パス設計および設定を、約6分で完了できることを実証したという。
今後は、ダブリン大学やデューク大学が推進する転送学習を使った光アンプ特性推定などの新規機能との連携や、トリノ工科大学が推進しているオープンな伝送設計ツール「GNPy」との連携などを通じて、さらなる性能向上と標準化活動を推進する。また、Orangeや中華電信などのIOWN Global Forumに参加している海外キャリアと協力し、APNの普及や商用実装を推進していくという。
なおNTTでは、2024年度にデータセンター間を接続した実験を行い、2025年の大阪・関西万博で公開し、それ以降に商用化する計画も明らかにした。