科学技術振興機構(JST)、東京都立大学(都立大)、大阪産業技術研究所(産技研)の3者は10月5日、JST戦略的創造研究推進事業(CREST)において、非可食の植物資源から分解・リサイクル可能で、汎用プラスチックより柔軟かつ強度に優れるバイオベースのポリエステルを開発したことを共同で発表した。

同成果は、都立大大学院 理学研究科の野村琴広教授、産技研 森之宮センター 物質・材料研究部の平野寛部長らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する高分子が関わるソフトマター科学に関する全般を扱う学術誌「ACS Macro Letters」に掲載された。

近年、石油由来ではなく分解・リサイクルが可能な材料として、植物油などの長鎖脂肪酸エステルから誘導されるバイオベースのポリエステルが注目されている。しかし、石油由来のポリエチレンやポリプロピレンに代表される汎用オレフィン系ポリマー(汎用プラスチック)と同程度の引張強度(破断するまで引っ張った時の力)と破断時伸び(破断した時の伸び率)といった機械特性を示す材料の報告例はあるものの、この材料の特徴を活かした高機能材料の開発事例は限られていたという。同ポリマーは、「ジカルボン酸」と「ジオール」との反応による「重縮合法」と「オレフィンメタセシス重合法」で得られ、特に後者の手法では広範な分子設計が可能になることが期待されているが、従来法ではフィルム作製に必要な高分子量ポリマーの合成は極めて困難だったとする。

そうした中で、イオン性液体中で反応を行うことで従来法よりも高分子量のポリマー合成を可能にしたのが研究チームであり、その後もさらに簡便でより高分子量材料が得られる手法の開発に取り組んできたという。今回の研究では、植物油とグルコースなどから誘導される対称型の繰り返し単位からなるバイオベースポリエステルの合成において、モリブデン触媒によるオレフィンメタセシス重合法で検討を重ねることにしたとする。

  • 今回開発したバイオベースポリエステルと汎用プラスチックとの機械特性(引張強度と破断時伸び)の比較

    今回開発したバイオベースポリエステルと汎用プラスチックとの機械特性(引張強度と破断時伸び)の比較。引張特性への分子量効果が顕著で(図中○が今回開発されたポリエステル)、柔軟で強度に優れる物性を示す。Mnはポリマーの(数平均)分子量。一般的に破断するまでの強度と伸びは、トレードオフの関係にある(出所:都立大Webサイト)

オレフィンとは炭素-炭素二重結合を1つ持つ炭化水素の総称で、メタセシスとは「置換」を意味し、オレフィンの二重結合上の置換基の組み換え反応のことをオレフィンメタセシス反応と呼ぶ。同反応を使ったポリマー合成法のことをオレフィンメタセシス重合法といい、今回の場合はより正確にいえばエチレンを副次的に生産してポリマーを合成する重縮合(2つの官能基を持つ分子同士の反応により、水などの分子を副次的に生産してポリマーを合成する手法のこと)の「非環式ジエンメタセシス重合」である。

  • バイオベースポリエステルの基本構造

    バイオベースポリエステルの基本構造。(右上)調製されたフィルム。この種のポリマーは、定量的なケミカルリサイクルが可能(アルコールとのトランスエステル化)。(右下)今回開発された植物油と、グルコースなどから誘導されるバイオベースポリエステルの基本構造(出所:都立大Webサイト)

検討の結果、従来のルテニウム触媒による手法よりも、分子量が約5万という高分子量のポリマーの合成が可能になったという。この種のポリマーで一般的に見られる傾向とは異なり、今回合成されたポリマーは加熱・加圧法により調製されたフィルムの引張強度と破断時伸びが、分子量の増加とともに向上したとする。その結果、汎用プラスチックより破断時までの伸びと強度に優れた材料開発が可能になったとした。

今回開発されたバイオマスプラスチックは、分解・ケミカルリサイクルが可能で、ポリマー鎖間の相互作用に有利な対称型の繰り返し単位からなるため、使用できる原料の適用範囲が広く広範な分子設計ができることに加え、シンプルな反応であるため大量合成に向けた触媒のスケールアップ実績もあるという。さらに、セルロースナノファイバーを始めとする天然由来の繊維との複合化による高強度化なども可能とした。今後は資源循環型社会(サーキュラーエコノミー)の実現に向けた材料開発が大きく進展することが期待されるとしている。