独SAPは9月26日(現地時間)、自然言語生成型AIコパイロット「Joule」を発表した。CEO兼エグゼクティブ・ボード・メンバーのクリスチャン・クライン氏に、同社の生成AI戦略や「Joule」の競合製品に対する強みについて聞いた。

  • 独SAP CEO兼エグゼクティブ・ボード・メンバー クリスチャン・クライン氏

SAPソリューションとサードパーティの膨大なデータが使えるのが強み

Jouleは、SAPのクラウドソリューションのポートフォリオ全体に組み込まれ、SAPソリューションとサードパーティのデータから、プロアクティブでコンテキスト化されたインサイトを提供する。

ユーザーは、平易な言葉で質問したり、問題を設定したりするだけで、SAPのソリューションやサードパーティのソースに保存されているビジネスデータから、インテリジェントな回答を受け取ることができる。

クライン氏は、Jouleについて、次のように説明した。

「われわれは世界に40万の顧客がいて、サプライチェーンの利用を把握している。加えて、基幹システムのデータを持っており、強力なインサイトを出すことができる。日本企業のデータはサプライチェーンの中にあるので、Jouleを使えば、SAPのソリューションにデータを持ってきて判断しなくて済むようになる。Jouleはリコメンデーションを出し、レポートを作ってくれるので、付加価値のある仕事に専念でき、生産性が上がる。Jouleはゲームチェンジャーになる」

また、「Jouleにより、われわれが抱える何十億もの顧客のデータを活用して、シミュレーションすることができる。品質が高く、かつ、合理化されたデータを使わないと、アルゴリズムは解を出すことができない。」とクライン氏。同社が提供するソリューションは企業の基幹業務に関わるものであり、Jouleでは業務に直結するデータを活用でき、これが強みとなる。

クライン氏は、「AIにおいてはデータのプライバシーが重要だが、Jouleを利用する際、データが国を離れることがない」と、安全性が高いこともアピールした。

SAPは年次イベント「SAP Sapphire 2023」において、AI分野における事業戦略「SAP Business AI」を発表した。クライン氏は、SAP Business AIについて、「AIをビジネスプロセスモデルに組み込むことで、インパクトをもたらすことができる。そのために、生成AIを組み込む」と語った。

なお、自社のデータを提供しなくても、Jouleを活用することは可能だという。

オンプレミスのSAPユーザーはJouleを使えない?

JouleはSAPのクラウドソリューションに組み込まれているが、オンプレミスのSAPユーザーは使えないのだろうか。この問いに対し、クライン氏は次のように答えた。

「Jouleをオンプレミスの客に提供できるが、エクスピリエンスがよくない。なぜなら、自社のデータしか使えないからだ。顧客のメリットを考えると、クラウドに移行したほうがよく、オンプレミスでは技術の恩恵を最大限に享受できない」

クライン氏によると、日本のクラウドビジネスは好調で、グローバルの成長を超えているという。ただし、「われわれはクラウドへの移行を支援するわけじゃない。顧客のビジネスモデルの変革を支援する」と、同氏は同社のクラウド事業のスタンスを示した。

なお、Jouleはユーザー企業のデータセンターで利用することも可能のことだ。

次に注力するは「グリーンテクノロジー」

会見中、クライン氏から頻繁に出ていた言葉が「グリーンテクノロジー」だ。「来年はグリーンテクノロジーを提供したい。なぜなら、企業は炭素の排出量を把握していないからだ。世界中のサプライチェーンの排出量を測定することを実現したい」と同氏。

例えば、Jouleなら、サプライチェーンの脱炭素を実現するために選ぶべきサプライヤーを教えてくれるという。

また、クライン氏は、コロナ禍でサプライチェーンの脆弱性が明らかになったことから、自動車業界のサプライチェーンをつなげていったと語った。これにより、サプライチェーンの透明性を確保でき、CO2の排出量削減に向けて積極的な策を打てるという。

「サステナビリティ関連の製品ポートフォリオを持っており、賭けている。ここをもっと日本で推進していきたい」(クライン氏)