家具のサブスクリプションサービス「CLAS」を扱うクラス社は、2018年の設立当初からハイブリッドワークを実践してきている。また、同社 代表取締役社長の久保裕丈氏はCLASのサービスを「トライ&エラーを繰り返しながらハイブリッドワークに最適な空間をつくることができるもの」だと言う。
このようにハイブリッドワークに密接に関わり続けてきた同氏が、9月5日から8日に開催された「TECH+ EXPO 2023 Sep. for HYBRID WORK 場所と時間とつながりの最適解」に登壇。ハイブリッドワークの考え方や必要な要件などについて説明した。
「TECH+ EXPO 2023 Sep. for HYBRID WORK 場所と時間とつながりの最適解」その他の講演レポートはこちら
ハイブリッドワークは手段であって目的ではない
講演冒頭で久保氏は、ハイブリッドワークを考える上で注意すべきことをいくつか挙げた。まず、ハイブリッドワークはあくまで手段であって、目的ではないことである。一般的にはメリットが多いハイブリッドワークだが、導入するかどうかは、その企業にとって目的合理性があるかどうかで判断すべきことだと同氏は語る。
「ハイブリッドワークそのものを目的にすると、企業全体の整合性を大きく損なうことになります」(久保氏)
会社の仕組みとしては、最上位にあるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)や事業戦略から、その下の機能戦略や制度、組織体制、インフラまで一気通貫で整合性が保たれている必要がある。しかしハイブリッドワークは各種制度の中の一部を議論するものでしかないため、そこを目的にしてしまうと整合性が損なわれてしまうのだ。
リモートワークを社員の権利として語るのも、本質的な議論から遠ざかると久保氏は指摘する。本来、リモートワークは権利ではなく、組織の成果向上のための選択肢として議論すべきものだからだ。また、出社頻度をどの程度に設定するのが適当かということを議論するのも意味がない。1つの会社でも、時期や組織によってハイブリッドワークのかたちは異なるため、その時点で採るべき戦略に応じて変えていくべきなのだ。
「ハイブリッドワークはその時に成果が最大化されるように変化させていくべきで、固定的なルールや権利にしてはいけないのです」(久保氏)
全ては慣れと工夫、ツールの使いこなしで対応できる
世の中の業務は、高集中、コワーク、電話/WEB会議、対話、アイデア出し、情報整理、知識共有、リチャージ(休憩)、専門作業の10種類に分類できるが、実はリモートワークはその多くと相性が良いという。例えば倉庫内作業のような専門作業とは相性が良くないが、特に高集中やWEB会議、ブレストミーティングのようなアイデア出しは、リモートによって効率良く行える。
だからこそ、リモートワークでは難しいことが多いとされているのは、誤解から来るものだと久保氏は力を込める。
「リモートだからダメだというのは思考停止です」(久保氏)
例えば、“ワイガヤ”などのコミュニケーションの頻度が減ることに対しては、チャットツールでハドルミーティング機能を使い、つなぎっ放しにしてどんどん参加してもらえば、議論しながらの作業も可能になる。アイデア出しも、オフラインで使うホワイトボードは物理的な制約があって書ききれないこともあるが、マインドマップや付箋が使えるツールを使えば解決する。“目配せ”や“間”のような非言語コミュニケーションは多少難しいかもしれないが、それもリモートミーティングでのルールをきちんと定めればある程度回避できる。つまり、全ては慣れと工夫、そしてツールの使いこなしで対応できるはずだと同氏は説明した。
ハイブリッドワーク実現のために、メンバーとマネジメント側に求められる要件
久保氏は、ハイブリッドワークが機能するためには、社員が主体的に働ける土壌が整っていることが前提条件になると述べる。その上で、この条件を満たすためには、目指す成果や仕組み、そして組織やインフラの両方について、メンバーとマネジメントそれぞれに必要な要件があるという。
まず目指す成果や仕組みついては、メンバーが目指す成果を理解して自律的に目標を立てられる状態であること、それに向かうために自走できるガイダンスが用意されていること、適切なフィードバックを得られる仕組みがあること、そして明確でフェアな評価基準があることが必要になる。マネジメント側では、メンバーに目指す成果を理解してもらうために、相互理解に基づいて上意下達できる技量があること、そして目標の成果測定ができることが重要だ。特にリモートワークではプロセスやタスクの評価が難しいため、成果で評価することが大切になる。
また、組織やインフラについては、メンバーがリモートで働くことを権利ではなく選択肢だと理解していること、ルールが明文化されていること、そして必要なインフラ、ツールが自宅も含めて整っていることが不可欠だ。一方マネジメント側には、全社単位のルールでは運用が難しいため、チームごとに最適なルールを設定することが求められる。一般にはマネジメント層が苦手とされるシステムツールに適応し、習熟する意思を持つことも必要だ。
「ハイブリッドワークの実現には、マネジメント側に高い負荷と技量が求められるのです」(久保氏)