出光興産は、バイオものづくりの基盤となるスマートセルの開発を目指し、神戸大学 先端バイオ工学センターに「出光バイオものづくり共同研究部門」を10月1日に設立したことを発表。これに際し2日にオンラインで記者会見を行った。
出光は、2022年11月に発表した中期経営計画(2023年度~2025年度)において、「一歩先のエネルギー」「多様な省資源・資源循環ソリューション」「スマートよろずや」という3つの事業領域における社会実装を通じ、事業ポートフォリオの転換を推進することを表明している。今回の発表主管である同社 先進マテリアルカンパニーは、前出のうち「多様な省資源・資源循環ソリューション」の領域で技術開発を進め、カーボンニュートラルや循環型社会の実現を目指す。
その取り組みの中で出光が重点領域の1つとして掲げるのが、スマートセル(遺伝子改変技術と情報解析の組み合わせにより目的物生産量を最大化した生物・細胞)を活用して、有用物質の高効率な生産を実現する“バイオものづくり”を含むバイオ・ライフソリューションだ。
日本政府によるバイオ戦略の推進もあって注目を集めるバイオものづくりは、これまで主に医薬品や食品の領域において微生物を利用することで行われてきた。そして今後はそれらの分野にとどまらず、生物学と工学の技術の融合によって実現されたスマートセルなどの活用により、さまざまな分野で有用物質の高効率な生産の実現に貢献することが目指されている。また、高温・高圧条件下での生産が必要となる化学プロセスに対し、バイオプロセスにおいては常温・常圧条件下での生産が可能になるため、エネルギー消費やCO2排出の削減が見込まれるという。
近年のバイオものづくりに関する技術開発では、バイオマスなどから得られた糖などを原料とするプロセスの実用化が目指されるほか、CO2を直接原料とする研究開発も進んでおり、持続可能な社会の実現に寄与する技術として期待される。さらに、2020年にノーベル化学賞の対象となったゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」や、AI・ICT技術の発展により、さらなる技術開発の加速に向けて国際的な競争が激化している。
出光は、1970年代より微生物を用いた技術開発に着手しており、2020年からは微生物開発技術に強みを持つ神戸大と共に、バイオ農薬などに関する共同研究を実施してきたとのこと。また2023年5月には、同大学発ベンチャーで最先端のスマートセル開発技術を有するバッカス・バイオイノベーションに出資を行っている。
そして同社は、2025年からの5年間で実現を目指すポートフォリオ転換において、大学やアカデミアとの外部連携を推進することを発表済みだ。そこで今般、スマートセル開発によるバイオものづくり技術の確立、およびその社会実装に向けた動きを加速させるため、神戸大との連携強化を目指し共同研究部門の設置に至ったとする。
今回設置された共同研究部門が取り組むのは、特定の化合物製造のための基盤となるスマートセルの設計・開発における要素技術の強靭化で、直近ではバイオ農薬や油脂を生産するスマートセル開発から着手するという。その開発においては、前出のバッカス・バイオイノベーションとも技術やノウハウにおけるシームレスな連携を行うとしており、将来的にはバイオものづくりのバリューチェーン構築に寄与していきたいとしている。
また出光によると、共同研究部門の設置期間は2023年10月1日から2025年3月31日までで、期間は更新可能とのこと。神戸大 先端バイオ工学研究センターに設置され、両者の研究代表者はそれぞれ、 蓮沼誠久教授(神戸大)と金田晃一環境・バイオ研究室長(出光)が務め、研究開発費として約1.3億円を投じる計画だとした。
出光 先進マテリアルカンパニー 技術戦略部 戦略企画室の羽毛田匡氏は、今回の取り組みによって開発されたスマートセル技術の具体的な社会実装の時期を定めてはいないとしながらも、「特定の材料に関しては2030年ごろに開発のめどを立てたいと思っている」と話した。
また、同社 技術戦略部の水野洋室長は、「我々は太古の生物から生み出された化石資源から、炭素化合物である燃料や化学品を生産して社会を支えてきたが、その化石燃料が地球温暖化を引き起こしている」と同社のこれまでの事業を振り返ったうえで、「合成生物学やスマートセルなど、微生物の力を高めるイノベーションにより、高付加価値の循環型炭素型化合物を提供し、これからも人々の暮らしを支えていくために技術開発に取り組んでいく」と語った。