小誌でも既に報じている通り、富士通とミサワホームはミサワパーク東京(東京都杉並区)内のコンセプト住宅「グリーン・インフラストラクチャー・モデル」において、富士通が開発した常時認証技術を用いて暮らしのパーソナライズ化やセキュアな空間を構築する実証実験を実施中だ。

両社が取り組む実証は、コンセプト住宅内に生体認証センサーと7台のカメラを設置し、富士通の生体認証技術や行動分析技術Actlyzerを用いることで、空間内の人物の位置や状態をリアルタイムで推定するものだ。実証には一般来場者ではなく、両社の従業員や取引先社員らが参加する。実証期間は2023年6月1日から2024年1月31日までを予定している。

  • 実証実験の概要図

    実証実験の概要

このほど、両社は実証実験の中間結果が出たとして記者説明会を開くとともに、コンセプト住宅グリーン・インフラストラクチャー・モデルの実証エリアを記者向けに公開した。

  • グリーン・インフラストラクチャー・モデルの外観

    グリーン・インフラストラクチャー・モデルの外観

Actlyzerを活用して高精度に人物を見分ける富士通の常時認証技術

富士通が開発した常時認証技術は、複数のカメラをまたいで同一の人物をトラッキングできる特徴を持つ。顔認証だけでなく、服装や背格好などを特徴量として抽出しているため、さまざまな角度からの人物の見え方の違いを吸収しながらトラッキング可能なのだという。

また、住宅内のような環境で人物が死角に隠れた場合でも、再びカメラに映った際には同一人物としてトラッキングを再開する。なお、常時認証に必要な処理はすべてクラウドで行っているようで、実証エリア内の機器は処理結果を受け取って駆動している。

  • 常時認証技術の概要

    常時認証技術の概要

人物の転倒なども検出できるため、住宅での利用時には高齢者や子どもの転倒を見守るサービスなどでの応用が期待できるそうだ。

これまでの実証実験の結果、体験者の約9割で常時認証技術の成功を確認できたという。この技術を活用する複数のポイントで、対象者を正確なIDに振り分けた。

その一方で、検証を通じて新たな課題も見えてきた。それは、ユニフォームのように類似した服装を着用している人が複数いた場合に、認証の精度が低下する場合があることだ。

  • 実証実験の途中結果

    実証実験の途中結果

これらの結果を受けて、富士通の出海主規氏は「今後は技術の実用化に向けて、ユニフォームなど類似した服装への対応を強化していく。さらに、歩く、座るといった人の行動をトリガーとして対象の人物に働きかけるような仕組みを構築して、利便性を高めていきたい」と今後の抱負を述べた。

  • 富士通 ソーシャルソリューション事業本部 TS)G/P&Safety事業部 シニアディレクター 出海主規氏

    富士通 ソーシャルソリューション事業本部 TS)G/P&Safety事業部 シニアディレクター 出海主規氏

富士通としては、行動分析技術としてActlyzerを開発したものの実証の場が少なかったために、社会実装を促すためのきっかけとしてミサワホームとの連携に至ったとのことだ。

常時認証技術は、オフィスの出入口でのみ本人認証を行う従来の「点」の認証から、連続的に「線」の認証で人物を捉え続ける技術としての応用を見込んでいる。富士通は将来的な活用例として、転倒などの事故発生時に迅速に通報し、それと同時に電子カルテの情報を参照した処置などが可能になるとしている。

その他、小売店などの来店情報とオンラインでの購買履歴を結び付けて、実店舗でもパーソナライズされた接客体験を生み出せるとも、期待できる。

  • 常時認証技術の活用が期待できる領域

    常時認証技術の活用が期待できる領域

常時認証技術をモデルハウスで体感

ミサワホームはこれまで、社会課題を解決するための住宅作りに注力してきたという。今回の実証の場となったグリーン・インフラストラクチャー・モデルは、暮らしと健康と環境の3つのサステナビリティに寄与するべく開発したものだ。業種を超えたソリューション開発や実証実験に活用することで、持続可能な社会への貢献を目指す。

ミサワホームの仁木政揮氏は「社会の多様化が進む中で、資材やエネルギーだけでない多面的な支援が必要になっている。これまで通りの資材メーカーや建築業者にとどまらない、枠を超えた取り組みとして富士通とのコラボレーションを開始した」と実証の背景を語った。

同氏はさらに続けて「実証の現場であるグリーン・インフラストラクチャー・モデルは、2030~2050年の未来を見据えたデザインとして設計している。人と物がつながる未来の空間を感じてほしい」とモデルハウスを紹介していた。

  • ミサワホーム 商品・技術開発本部 商品開発部 企画デザイン課 課長 仁木政揮氏

    ミサワホーム 商品・技術開発本部 商品開発部 企画デザイン課 課長 仁木政揮氏

住宅に入ると、まずはパーソナライズに必要な情報の登録を行う。ここでは、ユーザー名、職種、好みの音楽、好きな料理を選択する。なお、実証実験ではこれらの項目をランダムに選択することも可能だ。

  • 部屋の入口、エントランスに置かれたモニターから情報を登録する

    部屋の入口、エントランスに置かれたモニターから情報を登録する

情報登録後に部屋に入ると、モニターには室内にいる人物の名前と場所がモニターに表示される。それらの人物が立っているのか座っているのかなど、状態も推定しているとのことだ。

  • 室内をモニタリングしている画面例

    室内をモニタリングしている画面例

手ぶらで部屋を進み、指定されたソファに座ると、最初に選択した好みの音楽が流れ始めた。指向性のあるスピーカーなどを活用することで、本人にだけ好みの音楽が届く、まさにパーソナライズされた体験を提供できるのだという。

  • ソファに座ると好みのジャンルの音楽が流れ始める

    ソファに座ると好みのジャンルの音楽が流れ始める

続いて、部屋の中にあるモニターの前に立ったところ、自身の好みの料理(和食・中華・イタリアンなど)を提供している近所の飲食店が案内された。ちなみに、室内にいる他の人と好みの料理が一緒である場合には、特別に飲食店のクーポンが提供される。

  • 好みに合わせて近所の飲食店が紹介される

    好みに合わせて近所の飲食店が紹介される

今回、実際に常時認証技術を体験してみたのだが、7台のカメラはうまく環境に溶け込んでおり、それほどの違和感は無かった。自分の家にこの技術が導入された未来を想像すると、自分の周りにだけ好きな曲が流れるというのはワクワクする。また、転倒検知の技術があれば、地方で暮らす家族の安心にもつながると強く感じた。

  • 天井に設置されたカメラ

    天井に設置されたカメラ

富士通は常時認証技術について、およそ1年以内の確立を目指すとしている。また、ミサワホームは同技術を用いたサービスを来年度中に一部展開し、その後に順次アップデートしていく予定とのことだ。