ドラッグストア「サンドラッグ」やディスカウントストア「ダイレックス」を全国展開するサンドラッグ。同社は、ECサイトと実店舗における顧客とのコミュニケーション情報を一元的に管理できず、的確かつ迅速なサービス提供が難しいという課題を抱えていた。

そこで同社は、Salesforceのコールセンター・カスタマーサポート向けのクラウドサービス「Service Cloud」と、ビジネスプロセスにとって重要な人々と情報を共有できるクラウドサービス「Experience Cloud」を導入し、顧客体験の向上に取り組んでいる。

同社が描いている理想の顧客体験とは何か、施策によってどんな効果が得られているのか。サンドラッグ 執行役員 EC事業部 事業長 田丸 知加氏に聞いた。

  • サンドラッグ 執行役員 EC事業部 事業長 田丸知加氏

    サンドラッグ 執行役員 EC事業部 事業長 田丸 知加氏

Service CloudとExperience Cloudがもたらした効果

田丸氏はService Cloudを導入した背景について、次のように説明した。

「これまで当社には、お客様からの問い合わせを管理するツールがありませんでした。そのため、あるお客様が3回問い合わせをしても、すべて新しい問い合わせとして扱われていました。通常、一人のお客様が3回問い合わせしたら、過去の問い合わせもすべてひもづいていることがサービス向上において非常に重要です。また、お客様相談室やECのカスタマーサービスの人たちが、どれくらいのスピードで、どういう質でお客様に対応しているのかが、デジタル化されていませんでした。今回、Service Cloudを導入したことで、それらの見える化が実現できました」

  • サンドラッグが利用するService Cloud

    サンドラッグが利用するService Cloud

一方のExperience Cloudでは、薬を購入する際の薬剤師からの注意点や問診の内容を保存し、顧客が閲覧できるようにした。これまでは、送られてきたメールを保存しておくなど、顧客側が対応を行わないと過去の履歴を確認できなかった。だが、Experience Cloudの導入により、顧客にひもづくやりとりがすべてわかるようになり、利便性向上につながっているという。

Experience Cloudで提供する情報は、お薬手帳のようなイメージで、ECで一類の医薬品を買った際に薬剤師とやり取りした内容が表示されるほか、サンドラッグに問い合わせをした履歴もひもづいている。

「第一類医薬品については、『20歳以上ですか』『妊娠していますか』などの問診への回答を薬剤師が確認したうえで、お客様に薬品の情報を提供し、それをお客様が確認したというアクションをしないと販売できません。この一連のやり取りをこれまではメールで行っていたので、お客様がメールをなくすと、再度、確認することができませんでした。そこで、Experience Cloudに履歴を残すことで、お客様自身が画面で内容を確認できるようになり、薬剤師も管理しやすいということで、デジタル化しました」(田丸氏)

今回導入したこれらのサービスは、リピーターに対する施策だが、ドラッグストアは低価格な消費財を販売しているイメージがあり、値段の安さや自宅からの距離が来店に影響し、リピーターの囲い込みには向かないというイメージがある。この点を田丸氏に聞くと、次のような答えが返ってきた。

「おっしゃる通り、外から見るとリピーター率が低いように見えますが、実は、ドラッグストアのリピーター率は高いです。サプリメントや薬はなくなったら買いますし、化粧品も基本的にブランドを変えることはあっても、必ず使います。ビタミンCのサプリをずっと飲んでいる方は、続けて飲む傾向があり、健康・美容の商材はリピーターが非常に多いです」(田丸氏)

また、Service Cloudの導入効果としては、問い合わせに対する回答スピードの向上があるという。

「お客様から問い合わせをいただいて、こちら側が回答するまでのリードタイムがかなり短くなったという効果があります。お客様は、返信がなかなか来ないと不満を持ち、その結果、さらにお問い合わせが来て、それが新規のお問い合わせという扱いになり、さらに回答に時間がかかるという悪循環になります。Service Cloudの導入により、過去の問い合わせときちんとひもづくようになり、問い合わせ内容によっては自動で返信するなど、これまで手運用だったものも自動化されました。問い合わせの処理の生産性がかなり上がり、お客様の満足度向上につながっていると思います」(田丸氏)

法人向けも含め、今後はECビジネスを強化

サンドラッグは、ドラッグストアとディスカウントストアで全国に1386店舗(2023年6月末時点)を展開しているが、今後はEC事業に注力していく。

「今の時代はネットでしか買わないお客様もいて、ネット比率は上昇していくことが予想されます。高齢者の方もネットで買いますし、ネット世代と言われる若い人たちはSNSからそのまま飛んで買うといった流れがある中で、ECは不可欠です。チャネルの一つとしてECを強化していかないと、今後、お客様の要望に応えていけません。当社は以前からEC事業に注力しており、さらに拡大していきます」(田丸氏)

また、同社はコンシューマーだけでなく、法人向けECにも力を入れ、より細かなニーズに対応していく。

「もともと法人のお客様はEC利用が比較的多く、コンシューマー向けサイトを利用いただいていましたが、必要な数量がなければ、購入をあきらめていました。そこには、われわれとのコミュニケーションは一切ありませんでした。法人のお客様からは、『たくさん買いたいが値引きできるのか』『買いたい数量があるのか』など、いろいろな問い合わせがあります。そこで、今年の2月末にECのサイトをリプレースしたときに、法人向けサイトをオープンしました。EC業界では、アマゾンさんがAmazonビジネスを立ち上げるなど、多くの企業がto Bビジネスに力を入れています。われわれにも法人のお客様がたくさんいらっしゃるので、法人ニーズに応えていきたいと思っています」(田丸氏)