2023年6月より教育プログラム「メタバース学園ドラマ制作プロジェクト~未来の学校生活をVR空間で描く~」を始動していたFacebook Japanと角川ドワンゴ学園。2023年9月21日、同プログラムの実施校であるN高校・S高校の生徒がVR空間上で制作および撮影したドラマ作品の作品上映会が開催された。

上映会には、Facebook Japan代表取締役の味澤将宏氏、角川ドワンゴ学園理事長の山中伸一氏、特別講師としてアニメーション映画監督の細田守氏、バーチャル建築家の番匠カンナ氏(ビデオ出演)、作家や俳優として活動している山田由梨氏、文部科学省(文科省)Policy Making for Driving MEXT(ポリメク)メタバース検討チーム代表の黒田玄氏などが出席し、作品に対する評価を語ったほか、作品作りに関わった生徒たち自身も上映後にコメントを行うなど、会場は緊張と達成感の入り混じる熱気あふれる雰囲気に包まれていた。

  • 「メタバース学園ドラマ制作プロジェクト」の関係者および生徒たち

    「メタバース学園ドラマ制作プロジェクト」の関係者および生徒たち

このプロジェクトは、Facebook Japanと角川ドワンゴ学園が連携し、初心者からプロまであらゆるレベルの拡張現実(AR)および仮想現実(VR)の次世代クリエイターが、最先端のスキルを身につける機会を提供することを目的にした教育プログラム「Immersive Learning Academy」の一環として実施されているもの。

プログラムに参加する生徒は5人ずつ4つのチーム(制作会社)に分かれ、制作会社として脚本や編集などの役割をチーム内で役割分担。メタバースプラットフォーム「cluster」を用いてVR空間における未来の学園生活を描いた約5分間のショートドラマ製作に挑んだ。

ドラマの制作過程は、まず全体のシナリオを考え、舞台として必要となる空間や小道具、衣装、キャラクターをデザインし、公開されている利用可能なパーツを活用するか、もしなければ自ら制作して3Dモデリングしていき、実際に生徒がアバターとなってVRヘッドセットを付けて演技を行う形で、撮影を実施。こうして、VRヘッドセット内で撮影された素材に音楽を付けたり、映像を編集していき完成までこぎつけたとする。

公開されたドラマは各チーム1作品の計4作品。1作品目として上映された作品は、VRを使いこなせる人を魔法使いに例え、「現実では不可能な夢もメタバース上であるならば叶えられるかもしれない」という希望をのせた「ひらけゴマ!」。 魔法使いを登場させることで、空を飛ぶ、杖を掴み魔法をかけるなどの特殊な動作や表現が必要になるが、カメラワークをうまく使い奥行きを利用したりしながら、魔法の世界を見事に表現していた。

2つ目の作品は、メタバース学園の中で人間の代わりに授業を受けてくれる「代理AI(人工知能)」の利用が流行している設定で、主人公はある日、ユーザーの正体が人間かAIかを見分けるツールを入手し、生徒、教師、そして親友までもが代理AIだったことに気づいてしまう。初めは裏切られた気持ちになる主人公であるが、親友の関係性はどうなってしまうのか……という、SFサスペンスドラマ「human?」。

  • 「human?」にて離れた場所から指で画面を操作するシーン

    「human?」にて離れた場所から指で画面を操作するシーン

この作品は、人間なのかAIなのかを表現する際、ユーザーの名前をアバター上に表示するclusterのネームプレート機能で、人間の上には「human」、代理AIの上には「AI」と表示させ鑑賞者に分かるよう工夫されている点が優れていた。また、細田氏から「最も自主映画の雰囲気を感じる」と言われており、VR技術もそうであるが内容も楽しめる作品であった。

3作品目は、思春期特有の自分と心のすれ違い、SNSの恐ろしさをテーマに、今までありのままの自分を愛せなかった2人の高校生が“自分を愛せるように”と一歩を踏み出す時間を描いた「ラナンキュラス」。この作品は色彩がとても美しく、ぼやけている感じから思春期の脆さなども伝わってきたほか、主人公の心が爆発する演出を白と黒基調の色彩と音楽だけで表現している点は秀逸であったと感じる。

  • 「自分を愛せるように」にてた2人の高校生が向き合うシーン。制作チームこだわりの色彩がとても美しい

    「ラナンキュラス」にて2人の高校生が向き合うシーン。制作チームこだわりの色彩がとても美しい

4作品目は、突然VR空間で出会った少年を巡り主人公が変化していくVR上だからこそ実現する世界を描いた感動作「おじさんと春」が上映された。当初は「青春」という単語をタイトルに入れていたが、最終的には「春」に変更したとし、タイトルに合った心が温かくなる作品で鑑賞者に「今を楽しむ大切さ」を伝えた。

細田氏はこれら4つの作品について感想を聞かれると、「どの作品も魅力があり、特に高校生ならではの感情や視点がちりばめられている」とし、「過ごしている時間を実感できるリアル感」を称賛。また、もし高校時代にVRドラマが制作できる環境であるならばどんな作品を作っていたかと質問されると、「僕だったら途中で投げ出していたかもしれない」と会場の笑いをとりつつ、VRで作品を作ることは世界でもまだ事例が少なく先駆的な試みであることを指摘し、「教育とVRを掛け合わせたテクノロジーが進化していくことで、生徒の可能性が広がるのでは」と、これからの教育の場でのVRの活用に期待を覗かせていた。

  • 上映作品についてコメントをする細田守監督

    4つの作品についてコメントをする細田守監督(右)

また、文科省の黒田氏は、「政府が提唱する仮想空間と現実空間を融合させ、より人々が豊かに生きていける社会づくりを目指す“Society5.0”の未来社会像が描かれた作品だと感じた」とそれぞれの作品を評価していた。

なお、今回上映された作品は今後一般公開する方針で、具体的な公開手段などは決まり次第発表する予定だとしている。