NTTデータ先端技術と日本マイクロソフト、サイトコアは9月22日、企業におけるAzure OpenAI Serviceの活用事例と、Webサイト運用やデジタルマーケティングにおける生成AI(ジェネレーティブAI)の活用例を紹介するセミナーを開催した。

Azure OpenAIとPandasAIを組み合わせて自然言語でログ分析

NTTデータ先端技術は、Webサイトのインフラ(サーバ、ネットワークなど)の保守運用作業にLLMを活用するAIOps(Artificial Intelligence for IT Operations)の実証実験結果をデモとともに紹介した。

同実証実験では、Azure OpenAI Serviceと、データ解析向けのPythonライブラリのPandasにLLMによる操作インターフェースをアドオンした「PandasAI」を組み合わせた分析環境を用意し、サーバのリソースログ(CPUやメモリなどの利用率など)と、サーバに対するアクセスログのダミーデータを取り込んで分析を実施した。

ダミーデータは、ChatGPTで作成したという。具体的には、「インターネット上に公開されているコンテンツ配信サーバが2台、データベースが1台、10のコンテンツを配信している。通常時は安定運用を行っていて、アクセス数は1日平均で1万程度、平日より休日の方がアクセス数が増加する傾向がある」など、仮想のWebサイトの基本情報を定義したうえで、ダミーデータを作成するプログラムを生成したそうだ。

  • Azure OpenAI ServiceとPandasAIを利用したインフラ運用の実証実験の構成イメージ

    Azure OpenAI ServiceとPandasAIを利用したインフラ運用の実証実験の構成イメージ

セミナーのデモでは、「サーバ1、サーバ2、データベースのCPU使用率をグラフで表示してください」と、自然言語で統計情報の出力を指示するとグラフが表示され、データの参照先も間違っていなかったという。また、曖昧な指示でもデータ項目を参照し、日にちや条件を絞り込んだ出力も可能だった。

一方、データ参照先を指示したうえで、「このデータから問題の原因は何か推測してください」とプロンプトで質問したところ、AIは回答できなかったそうだ。

  • AIへのプロンプト指示で表示させたグラフ

    AIへのプロンプト指示で表示させたグラフ

同実証実験を行ったNTTデータ先端技術 ソフトウェアソリューション事業本部 APテクノロジー事業部 アジャイルインキュベーション担当 エグゼクティブマネージャの志田隆弘氏は、「インフラ運用では、障害発生やWebサイト攻撃などネガティブな理由で保守作業が発生するが、発生しないこともあるためコストをかけにくい。だが、障害の検知と分析、対応までのフローで運用担当者がすべきことは多く、自動化の余地が多くある」と語った。

  • NTTデータ先端技術 ソフトウェアソリューション事業本部 APテクノロジー事業部 アジャイルインキュベーション担当 エグゼクティブマネージャ 志田隆弘氏

    NTTデータ先端技術 ソフトウェアソリューション事業本部 APテクノロジー事業部 アジャイルインキュベーション担当 エグゼクティブマネージャ 志田隆弘氏

今回の実証実験で構築したAIシステムを運用の現場で使えるかというと、「現状ではギリギリ、要件を満たせていない」とのことだ。

しかし、志田氏は、「Pandasというライブラリを扱える技術者でないとできなかった、データサイエンティストが必要な分野の分析について、LLMによって技術者以外の参入ハードルが下がったことがわかった。近い将来、人とAIがコミュニケーションを取りながらインフラ運用をしていく可能性は十分考えられる。AIの分析に基づくアラートの原因や対処内容がアラートメールに含まれてくることもあり得るだろう」と予想した。

「100文字でわかるOpenAIの解説記事」をCMS上で自動生成

サイトコアは、CMS(Contents Management System)の配信コンテンツをLLMで生成した事例を発表した。

同社は他社システムやソフトウェアとの連携ツール「Connect」を用いて、自社製品のCMSである「XM Cloud」とAzure OpenAI Serviceを連携させることで、ユーザーがCMSで行った作業に基づいて、プロンプトが自動的に作成されて文章やhtmlタグなどが自動生成されるプロトタイプのシステムを構築した。

  • サイトコアが構築したLLMでコンテンツ生成が可能なCMSの構成イメージ

    サイトコアが構築したLLMでコンテンツ生成が可能なCMSの構成イメージ

同システムでは、CMSのタイトル欄に作成したい記事のタイトルを入力することで、タイトルに合った記事を生成可能だという。セミナーでは記事作成のデモも行われた。デモでは、「OpenAIの解説記事」とタイトルに入力したうえで記事を作成。その後、タイトルに「100文字でわかる」を付け加えたところ記事が要約して表示された。

同システムに用いられているConnectと翻訳ツールを連携すれば、記事内に翻訳機能を実装することも可能だという。なお、外部サービスとの連携はCMSのインターフェース上で設定できる。

サイトコア セールスエンジニアグループ ソリューションコンサルタントの藤井泰斗氏は、「CMSからAIに指示が届き、AIからの生成コンテンツが自動的に反映されるシームレスな仕組みを目指した。これにより、24時間365日、一定のステータスを捉えて更新し続けることが可能だ。当社では今後、CMS製品に生成AIによる生成機能を標準で実装していく予定だ」と説明した。

  • サイトコア セールスエンジニアグループ ソリューションコンサルタント 藤井泰斗氏

    サイトコア セールスエンジニアグループ ソリューションコンサルタント 藤井泰斗氏

製造業の設備保全にGPT-4を活用

併せて、日本マイクロソフトからは企業におけるChatGPTの導入事例が紹介された。2023年はゼネラルモーターズやメルセデス・ベンツ、パナソニックなど、いち早くAIの活用を進める企業に注目が集まった。その後、国内ではリクルートの「じゃらん」、楽天証券のネット証券口座など、ChatGPTを利用して自社サービスにCopilot(副操縦士)機能を実装する例が続々と現れている。

川岡氏は直近の国内事例として、「稟議書作成アシスタント」や「工場のヒヤリハットアプリ」のほか、製造業の設備保全プロセスへの活用例も紹介した。同事例では、Microsoft Dynamics 365でモニタリングしている設備において、製造工程担当者が現場の画像をスマートフォンアプリで撮影すると、GPT-4が画像を認識し異常パターンを例示することが可能だ。工程担当者は異常内容とともに、対策のためのチェック項目を設備保全担当者に送付し、設備保全担当者はMicrosoft HoloLensで作業箇所・方法をチェックしながら設備保全を行うという。

  • 設備保全プロセスにおけるGPT-4の活用事例

    設備保全プロセスにおけるGPT-4の活用事例

過去事例や現在のニュースといった情報をAIが分析し、事業に生かしているケースはほかにもある。川岡氏によれば、製品の設計業務において、過去のクレームやトラブルなどをAIに分析させて製品開発に生かす企業や、サプライチェーンリスク管理において政情変化や異常気象などの情報を基に、今後起こりえる調達リスクをAIに例示させている企業もあるという。

日本マイクロソフト パートナー事業本部 ISVビジネス統括本部 ISVビジネス本部 ビジネスディベロップメントマネージャーの川岡誠司氏は、「当社では企業のIT環境をクラウド化してDX(デジタルトランスフォーメーション)に繋げ、それを加速させる1つの手段としてAIトランスフォーメーションを進めていく」とあらためて強調した。

  • 日本マイクロソフト パートナー事業本部 ISVビジネス統括本部 ISVビジネス本部 ビジネスディベロップメントマネージャー 川岡誠司氏

    日本マイクロソフト パートナー事業本部 ISVビジネス統括本部 ISVビジネス本部 ビジネスディベロップメントマネージャー 川岡誠司氏