東芝は2023年9月20日付でドイツのデュッセルドルフに、新たな技術拠点「Regenerative Innovation Centre(RIC:リジェネラティブ・イノベーションセンター)」を開設した。

CN(カーボンニュートラル)・CE(サーキュラーエコノミー)に関する技術開発や実装を加速するための拠点と位置づけ、パートナーとともに、社会実証や標準化活動などを推進する。

  • RICのミッションと活動内容

    RICのミッションと活動内容 (提供:東芝)

具体的には、電池や半導体などの「デバイス分野」、再生可能エネルギー、水素、エネルギーマネジメントなどの「エネルギー分野」、CO2の除去に関する回収、輸送、貯留、利活用などの「カーボンネガティブ分野」、エネルギーデータやCO2データなどを活用した「デジタルプラットフォーム分野」などの技術分野を対象に活動する。また、社会学、経済学、公共政策といった観点からも社会課題を捉え、解決に向けたアプローチを模索するという。

  • 東芝の注力分野
  • RICでの実施候補テーマ
  • 東芝の注力分野とRICでの実施候補テーマ (提供:東芝)

まずは数人でスタートするが、今後、数十人規模に拡大する。さらに、実証プロジェクトや連携の広がりにあわせて、欧州地域内に新技術拠点に紐づくサテライトオフィスの設置も検討する。

東芝 執行役上席常務 CTOの佐田豊氏は、「新技術拠点は、技術開発を行う拠点ではなく、パートナーとの関係構築、研究策定を進めていくことになる。優位性を持つ技術を、どういうコミュニティのなかで形にしていけば、社会貢献に最も役立つのかを考える拠点になる」と位置づけ、「欧州はグローバルスタンダードの発信地であり、欧州発のルールに迅速に対応したり、ルール形成のコミュニティに入ったりすることで事業の機会を増やしたいと考えている。また、充実したシステムアップやエコシステムの仕組みがあり、応用やシステム指向が強く、様々なレイヤーのパートナーが参画しやすい環境を活用したい。さらに、欧州では、潤沢な資金投下と手厚い政策の裏付けがあり、CN・CEの社会実証や産業化がはじまっている。東芝グループの強みをこの中で生かしていく」と語った。

  • 東芝 執行役上席常務 CTOの佐田豊氏

    東芝 執行役上席常務 CTOの佐田豊氏

東芝はすでに英国において、基礎研究を行うケンブリッジ研究所とブリストル研究所を設置しており、量子暗号通信をはじめとする量子情報技術のほか、AIやIoT技術の研究開発を行っている。欧州における研究開発プロジェクトなどにも参画し、世界初となる技術をいくつも送り出している。

  • 東芝の研究開発拠点
  • 東芝の研究開発拠点
  • 東芝の研究開発拠点。欧州には英国ブリストルとケンブリッジに研究所を有している (提供:東芝)

「英国の研究拠点では、ブレグジットによって、欧州からの優秀な研究者が参画しにくいという課題が生まれたり、CNやCEのトレンドの発信は、欧州本土になっていたりといった動きがある。また、デュッセルドルフには東芝の拠点(東芝システム欧州社)があること、連携をしたいと考えているドイツや周辺国の拠点とのアクセスがいいことが、ドイツに新技術拠点を置いた理由である」と説明した。

新たな技術拠点では、欧州地域でエネルギー分野の先端技術をけん引するアーヘン工科大学と、地球環境の持続可能性を追求するブッパタール研究所をアドバイザーに迎えるとともに、欧州全域の有力大学や研究機関と連携するハブ機能も担うことになる。

  • アーヘン工科大学とブッパタール研究所の2者とアドバイザーパートナーシップを締結済み

    アーヘン工科大学とブッパタール研究所の2者とアドバイザーパートナーシップを締結済み (提供:東芝)

「東芝は、技術開発は得意だが、欧州のコミュニティに強いチャネルがあるわけではない。また、社会学や公共政策には十分な知識がない。アドバイザーとの連携により、研究開発と応用展開の両輪からアプローチし、早期の社会貢献につなげたい」と述べている。

なお、新技術拠点の名称とした「Regenerative(再生)」については、地球環境や社会にプラスの影響をおよぼし、より良い状態にすることを目指した取り組みを表す言葉だと定義。「気候変動や自然資本の喪失などのリスクが顕在化するなか、中立的な取り組みや表現であるSustainable(持続可能)では十分ではないという意見が増えており、それを超える前向きな取り組みとしてRegenerativeが注目されている。その実現には、『自然』と『人、モノを含む社会』の両面から包括的なアプローチが不可欠である」とし、「Regenerative Innovation Centreは、ハードウェアおよびデジタルの双方における技術開発や、多面的、多角的なシステム思考を通じた早期の社会実装を進めることで、Regenerativeへの貢献を目指すことを狙う」と語った。

また、東芝グループのCN、CEに関する取り組みについても説明した。

佐田CTOは、「東芝グループでは、CNやCEを考えるときに、電力、水素、カーボンのサーキュレーションに取り組むとともに、これを可視化していくために、サイバー領域における情報、データの流通にも目を向けている」と前置きし、「カーボンフットプリントの見える化や排出量取引などの新分野における国際標準化をリードしているほか、P2C(Power to Chemicals)、P2G(Power to Gas)といった分野で保有する技術をシステムアップし、ソリューションを実証していくことに取り組んでいる。急速充電電池であるSCiBやNTO負極電池を使った実証も行っていくことになる」などと語った。

超高速充電が可能なNTO負極電池は、10分間で80%の充電が可能であり、商用EVでの実車検証を行っているところだ。すでに事業化しているSCiBは、リチウムイオン電池に比べて容量で劣後しているという課題があるが、NTO負極電池により、出力と容量を一気に拡大。トラックや重機などのモビリティでの活用を進めるという。2023年度中には、サンプルラミネートセルの提供開始を予定している。

また、超電動モーターは、世界初となる最高出力2MWを実現しながら、一般的なモーターに比べて10分の1以下となる小型、軽量化を達成。航空機や船舶などの大型モビリティの化石燃料駆動エンジンの電動化を可能にするという。

再エネ発電量/電力需要予測では、地球規模の気象シミュレーターを活用しながら、地域ごとに、再エネによる発電量を正確に見積もるとともに、需要側についても時間単位で高精度に予測できるのが特徴だ。

また、省イリジウム水素製造技術では、イリジウムの使用量を10分の1に削減しても、既存技術と同等性能と耐久性を実現した製造が可能になる。さらに、独自の触媒電極と、セルスタック技術で世界トップクラスのCO2変換速度を達成。CO2から一酸化炭素を生成するプラントを小型化でき、グリーン水素とあわせたSAF(持続可能な航空燃料)製造を可能にする。

東芝の研究開発体制は、研究開発センター、生産技術センター、デジタルイノベーションテクノロジーセンター、イノベーションラボラトリーで構成した本社所属のコーポレートラボと、分社会社のもとに設置している5つのワークスラボ、事業部門において設計、開発を行う技術グループによる三層構造となっている。

また、コーポレートラボの中には、海外の研究開発拠点、ソフトウェア開発拠点、ハブ拠点を持ち、英国のほか、イスラエル、インド、ベトナム、中国、北米に設置している。今回の新技術拠点は、海外拠点の1つとして追加したものであり、「活動を通して培った知見と経験は、東芝グループの研究開発およびグローバル展開のさらなる発展に活用し、テクノロジー企業に求められる新たな価値や役割を模索することになる。欧州地域およびグローバル社会におけるCN・CE実現への貢献を目指す」とした。

なお、東芝グループでは、経営方針に「デジタル化を通じて、カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミー(CN・CE)の実現に貢献する」ことを掲げており、今回の新たな技術拠点の開設は、この考えに基づいたものとしている。

  • 新技術拠点「Regenerative Innovation Centre」の開所イベントの様子

    新技術拠点「Regenerative Innovation Centre」の開所イベントの様子。(左から)東芝 執行役上席常務 CTOの佐田豊氏、アーヘン工科大学のアントネッロ・モンティ教授、ヴッパータール研究所のステファン・ラムソール教授、Regenerative Innovation Centreゼネラルマネージャーの鬼塚浩平氏