スマートフォンですべて完結するデジタルバンク「みんなの銀行」は「みんなに価値あるつながりを。」をミッションに掲げ、デジタルネイティブ世代をターゲットとしている。2021年5月にサービスを開始した。
そんなみんなの銀行だが、フルクラウドで銀行システムを構築した。同行 執行役員CIOの宮本昌明氏とシステムデザイングループマネージャーの島川和典氏に、フルクラウドでシステムを構築した狙い、システム構築における苦労などについて聞いた。
ヒトと組織・金融サービス・マーケティング・システム・オペレーションの設計をゼロベースで
みんなの銀行は新しい銀行のカタチを目指し、スマートフォンだけで操作が完結するデジタルバンクとして生まれた。
みんなの銀行が立ち上げられた背景には、デジタルとテクノロジーがもたらす環境の変化が既存ビジネスを脅かす可能性が高いことがあったという。
宮本氏は、「デジタルテクノロジーの進展により、フィンテック事業者が一部の機能に特化してサービスを提供するようになりました。その結果、銀行の店舗に来なくても金融サービスが利用できるようになり、中でも若者の銀行離れが加速しているという問題意識がありました」と語る。
そこで、みんなの銀行では、銀行のビジネスモデル自体を刷新し、外部要因によって奪われかねないマーケットを取りに行くことを目指している。
「デジタルバンクとネット銀行と何が違う」とよく聞かれるそうだが、宮本氏は「すべてがデジタルを起点としている点で、ネット銀行とは異なります」と話す。顧客の声を集めて、デジタルネイティブ世代の潜在ニーズを探り当て、形にして、それを使ってもらって、また声をもらう――「これがわれわれのやりたいことであり、これこそがデジタルバンクの神髄」と、宮本氏はいう。
そして、みんなの銀行はDX(デジタルトランスフォーメーション)を前提としたBX(Business transformation)を進めている。具体的には、デジタルを起点に銀行機能の創造が行われ、10年先の未来に向けて、「ヒトと組織」「金融サービス」「マーケティング」「システム」「オペレーション」すべての設計がゼロベースで行われた。
1年半で15のサブシステムをパブリッククラウド上に構築
もちろん、銀行システムもゼロベースで設計が行われたのだが、「時間がない」「内製化を進める他の人材がいない」「銀行システム(エンタープライズシステム、ライフラインシステム)について経験がない人が多数」など、さまざまな課題があったという。
銀行システムとしては、宮本氏が入社してから1年半で、主要なシステムとして以下を開発する必要があった。
- クラウドベースの勘定系システム(フルスクラッチ)
- 勘定系をベースとした各種サービスアプリ
- 行内VDIシステム
- 会計システム
- コールセンターシステム
- 外部接続ゲートウェイシステム(全銀接続ほか)
- 監視システム
これらのシステムはパブリッククラウド上に構築されている。上記のシステムを軸に15程度のサブシステムを開発したが、通常、1つのサブシステムの開発に1年かかるそうだ。つまり、本来であれば、15年かかっていたシステムを1年半で作り上げてしまったというわけだ。この驚異的なスピードを実現できたのはクラウドサービスの力が大きいだろう。
みんなの銀行のシステムは、エンジニア集団であるゼロバンク・デザインファクトリーが構築し、このシステムを利用して銀行業を行っているのがみんなの銀行となる。宮本氏も島川氏も両社に所属している。
クラウドサービスのいいとこどりしたマルチクラウドの銀行システム
みんなの銀行のシステムの最大の特徴は「マルチクラウド」である点だ。基盤はGoogle Cloud、コンタクトセンターはAmazon Web ServicesとSalesforce、仮想デスクトップなどはMicrosoft Azure、会計システムはOracle Fusion Cloud ERPと、主要なクラウドサービスを網羅している。
宮本氏は、基盤にGoogle Cloudを選んだ理由について、「データベースとコンテナ技術に長けていたから」と話す。また、構内VDIにマイクロソフトを選んだのは、銀行員はWindowsベースのシステムに慣れているからだそうだ。
「クラウドサービスのいいとこどりして構築したのが『みんなの銀行システム』」と、宮本氏は話す。
システム監視は、すべてのクラウドサービスのログを収集して、SaaSで管理しており、設定は各サービスのコンソールから行っているそうだ。昨今、クラウドの統合管理を掲げるベンダーが増えているが、「統合したいと思っていない」と宮本氏。