神戸大学は9月15日、1型糖尿病合併の女性が妊娠中に「センサ機能付きインスリンポンプ療法」(SAP療法)を行うと、血糖自己測定(SMBG)をしながら「インスリンポンプ療法」(CSII療法)を行う場合に比べて、「在胎不当過大児」の発症が大幅に減少することを発見したと発表した。

同成果は、神戸大大学院 医学研究科の今福仁美講師、同・谷村憲司特命教授(産科婦人科学分野)、同・山本あかね大学院生、同・廣田勇士准教授(糖尿病・内分泌内科学部門)らの共同研究チームによるもの。詳細は、アジア糖尿病学会が刊行する糖尿病に関する全般を扱う学術誌「Journal of Diabetes Investigation」に掲載された。

糖尿病には1型と2型があり、少数派の1型は何かの理由で膵臓の「β細胞」が破壊され、インスリンを分泌する力が弱くなったり、分泌されなくなってしまう疾患のことをいう。小児期から高齢期まで幅広い年齢で発症し治療にはインスリンが必要だ。

  • SAP療法とCSII療法の在胎不当過大児の割合

    SAP療法とCSII療法の在胎不当過大児の割合(出所:神戸大Webサイト)

インスリン治療は、注射で身体にインスリンを注入する方法しかない。インスリン注射の方法には、頻回に注射をする「頻回インスリン注射療法」と、ポンプを用いて持続的に注入するCSII療法がある。インスリンは注射すればいいというものではなく、血糖の上昇のし過ぎや下降のし過ぎを防ぐ必要があるため、血糖値の確認する必要がある。血糖の確認方法には簡易血糖測定器を用いて患者自身が測定するSMBG法と、身体にセンサを装着しておいて持続的に測定する「持続血糖測定法」がある。近年では、インスリンポンプと持続血糖測定センサが連携し、血糖値に応じて自動的にインスリン投与量を調節するコンピュータが内蔵されたSAP療法も登場しているという。

1型糖尿病を持つ女性が妊娠した場合、妊娠中の血糖コントロールが悪いと妊娠高血圧症候群になってしまったり、赤ちゃんが大きくなりすぎる在胎不当過大児(在胎期間に対して体重が90パーセンタイル以上の新生児のことで、出生体重4kg以上の巨大児とは異なる)だったり、生まれた赤ちゃんが呼吸をしづらくなったり、低血糖を起こしたりするなど、さまざまな合併症が起きてしまうことが知られている。しかし、1型糖尿病の女性が妊娠した際にこうした合併症を減らすには、どのようなインスリン治療法と血糖測定法がよいのかはっきりとした指針は出ていなかったとする。

インスリンポンプ療法は個人の生活スタイルに合わせてインスリン量や注入方法を細やかに、また速やかに調整することが可能であるため、最近は利用する1型糖尿病患者が増えているという。そこで研究チームは今回、インスリンポンプ療法の1型糖尿病女性が妊娠した際、センサ付きのSAP療法を使用することで、上述したような合併症を減らせるかどうかを調査することにしたという。

2008年4月から2022年8月まで、神戸大 医学部附属病院 産科婦人科と糖尿病内分泌内科にかかりながら妊娠・出産した1型糖尿病女性患者のうち、SAP療法もしくはSMBG法とCSII療法で治療を受けている女性の妊娠のカルテ調査が行われた。妊娠中や赤ちゃんの合併症として妊娠高血圧症候群、赤ちゃんの巨大化の指標として在胎不当過大児、生まれた時の呼吸窮迫症候群、生まれてからの低血糖、多血症、黄疸の有無が調査された。

SAP療法を受けている女性の妊娠(40例)では、SMBG法とCSII療法で治療を受けている女性の妊娠(29例)よりも圧倒的に在胎不当過大児の割合が少ない(27.5%vs.65.5%)という結果だった。この27.5%という数字は、これまでに1型糖尿病女性患者の妊娠結果として報告されている在胎不当過大児の割合(33.6%~63.6%)よりも少ないものだったとした。在胎不当過大児以外の合併症に差はなかったという。SMBG法とCSII療法よりも、SAP療法の方がよりよいインスリン量の調整が行えていることが示唆されており、その効果の1つがこのような結果になっていると考えられるとした。

また、妊娠がわかってからSAP療法に切り替えた女性の妊娠(16例)と妊娠前からSAP療法だった女性の妊娠(24例)が比べられたが、在胎不当過大児の割合に差はなかった。妊娠がわかってからSAP療法に切り替えても、SAP療法による在胎不当過大児を防ぐ効果があると考えられるとした。

SAP療法には、24時間の血糖データが記録されていることから、研究チームは今後、1型糖尿病女性患者の妊娠中の同データを分析することを考えているとした。胎児巨大化を防ぐためには、妊娠何週目頃からどのような血糖値になるようにコントロールすればよいのか、妊娠高血圧症候群や赤ちゃんの低血糖など、在胎不当過大児以外の合併症を減らすことができないのか、調査していく予定としている。