クラウドがビジネスに大きな好影響を与えることを期待して導入したものの、思うような成果が出ていないという声がある。では本来、クラウドをどう考え、どうビジネスの優位性につなげるべきなのか。ギックス 上級執行役員でChief Technologist 兼 Chief Architect岡大勝氏が7月13日、14日に開催された「TECH+フォーラム クラウドインフラ Days 2023 Jul.ビジネスを支えるクラウドの本質」に登壇。「競争優位性のためのクラウドネイティブ活用術」と題して話した。

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クラウドに幻滅する企業は多い?

岡氏はクラウドの創成期にあたる2009年頃からクラウドに携わっており、ギックスの直前にはZOZOでZOZOTOWNのレガシーモダナイズを手掛けた経験を持つ。

  • クラウドに長く携わる岡氏の経歴

同氏は講演の最初に、クラウドの価値について話した。

クラウドの価値と言えば、「コスト削減」「オンデマンド」「スケーラビリティ」などがよく挙がる。だが、「パブリッククラウドを活用している企業で、本当にメリットを享受できている企業や組織がどれだけあるだろうか。エンタープライズの世界では、クラウドに幻滅している状況がよく見られる」と岡氏は現状を語る。その結果、”オンプレ回帰”する企業も少なくないそうだ。

せっかくクラウドを導入したのに、クラウドのメリットがデメリットを下回るのはなぜなのか。岡氏は「データセンターで基幹システムをそのままクラウドに上げても、コスト面でも、スケーラビリティでもメリットは出ない」と説明する。

「サーバあたりのコストも高くなりますし、パブリッククラウドは障害やメンテナンスの頻度が、自社運用のオンプレシステムより確実に増えます。場合によっては、広域障害として、データセンターが丸ごと使えなくなることもあるのです」(岡氏)

つまり、運用負荷がむしろ上がる可能性もあるのだ。ではクラウドのメリットをどう享受すべきなのか。企業の競争力につなげるという点から見たクラウドの能力は「素早く変化できる力」だと岡氏は言い切った。

パブリッククラウド=クラウドネイティブではない

次に岡氏は、クラウドネイティブ技術の定義を説明した。クラウドネイティブ技術とは、クラウドを前提として設計・実装されている技術を指すが、非営利組織のCloud Native Computing Foundation(CNCF)の定義(「CNCF Cloud Native Definition v1.0」)を抜粋すると、「スケーラブルなアプリケーションを構築・実行するための技術を組織にもたらす技術」となる。

代表例は、コンテナ、サービスメッシュ、マイクロサービス、イミュータブルインフラストラクチャ、宣言的APIなどがあり、これらの技術を使うと「回復性、管理力、可観測性のある疎結合なシステムが実現する」「自動化と組み合わせることで、エンジニアはインパクトのある変更を最小限の労力で行うことができる」と定義されている。

このような定義をキーワードにすると、「計量」「分離・分散」「疎結合」「宣言的」。その結果、素早く変化できる能力を生み出すことができると同氏は続けた。定義では、”素早く変化できる能力を持つ技術をつくろう”にとどまっているのだ。

ここで岡氏は、パブリッククラウドは必ずしもクラウドネイティブではないという点も指摘した。大部分はクラウドネイティブで実装されているが、そうではないサービスもあるということだ。例として、仮想マシンがある。仮想マシン前提に実装されているPostgreSQLなどはマネージドサービスであってクラウドネイティブではない。だがMySQLをクラウドネイティブに組み直した「Amazon RDS for Aurora」などもあり、「何がクラウドネイティブで、何が非クラウドネイティブなのかが分かりにくい。これがパブリッククラウドサービスの実態」(岡氏)なのだ。