ヴイエムウェアは9月7日、エッジコンピューティングに関するイベント「VMware Edge Forum 2023」を開催した。同社は国内でさまざまなイベント開催しているが、エッジコンピューティングに特化したイベントを開催するのは今回が初めてだという。

本稿では、「日本のエッジコンピューティングの進化を追求」というテーマの下、行われた基調講演の模様をお届けする。講演では、国内におけるエッジコンピューティングのトレンド、同社のビジネス戦略、エッジコンピューティングに関するユーザーニーズなどが紹介された。

クラウドスマートなアプローチをエッジにも展開

冒頭、ヴイエムウェア 代表取締役 社長 山中直氏が、同イベントが開催された背景について、次のように説明した。

「ITとOTが結合し始めて、セキュリティを見なければならなくなった。実際、OT、エッジの観点からセキュリティの話をする機会も増えてきている。また、イノベーションの観点からは、工場などOTサイドで生成されたデータを活用し、AIやMLを実装する必要性が出てきている。日本でもこうした話が増えてきたことから、Edge Forumが開かれることになった」

  • ヴイエムウェア 代表取締役 社長の山中直氏

同社は、攻めと守りの2つの側面のデジタル戦略から成る戦略「クラウドスマート」を掲げている。山中氏は、「スマートクラウドとは、強さとしなやかさを持った 弾力性のあるプログラム」と述べ、企業では攻めと守りのデジタル戦略が必要だと訴えた。

  • ヴイエムウェアの戦略「クラウドスマート」

そして、山中氏はクラウドスマートのアプローチで、データセンターやクラウドで実行してきたことをOTでも実行し、「クラウドスマートなアプローチをエッジの世界にも展開する」と語った。

生成AIのプライバシーの問題を解決する「プライベートAI」

続いて、米VMware サービス プロバイダーおよびエッジ ビジネス部門(SEBU) 上級副社長兼ゼネラルマネージャのサンジェイ・ウパール氏が、AIやエッジについて説明した。

  • 米VMware サービス プロバイダーおよびエッジ ビジネス部門(SEBU) 上級副社長兼ゼネラルマネージャ サンジェイ・ウパール氏

ウパール氏は、「生成AIが登場し、予測できるAIに注目が集まっており、大きな変化が生まれつつある。それは、すべてのエンドポイントでデータが生成されることだ。これにより、新しいサービスを展開できるようになり、消費者もビジネスも変わる」と、生成AIのインパクトについて述べた。

生成AIの利用にあたってはさまざまなリスクが懸念されているが、ウパール氏は、生成AIの主な課題はプライバシーと指摘した。こうした課題を解決するため、同社は「プライベートAI」を発表した。

これは、AIがビジネスにもたらす価値の活用と組織が必要とするプライバシーおよびコンプライアンスに関する要件への準拠を両立する、アーキテクチャによるアプローチだ。

VMwareが提供する「Software Defined Edge」とは

ウパール氏は、AIの原動力は複数のクラウドにまたがって存在するデータであり、エッジでもAIが使われるようになると述べた。そうなると、エッジはデータを消費する場所になり、ワークロードをサポートする必要が出てくる。そこで、登場するのが「Software Defined Edge」だ。「Software Defined EdgeはITとOTの融合する場所」と、同氏は語った。

「Software Defined Edge」の特徴として、「適正なサイズのインフラストラクチャ」「ゼロタッチ・オーケストレーション」「プログラマビリティ」が挙げられた。

エッジのポイントは膨大になることから、ウパール氏は「人間が介在しないで済むよう、すべて自動化されることが求められる。そこで、これを実現するゼロタッチモデルが必要になる」と指摘した。

「ゼロタッチ・オーケストレーション」とは、自動でオーケストレーションが行われることを意味する。これを実現するソリューションとして、「VMware Edge Cloud Orchestrator」(旧VMware SASE Orchestrator)が今年8月に発表された。同製品は、VMware SASEとVMware Edge Compute Stackを統合管理し、エッジネットワークとエッジコンピューティングのギャップを解消する。

  • 「VMware Edge Cloud Orchestrator」の特徴

「Edge Cloud Orchestrator」では、基盤であるエッジの上でソフトウェアが稼働する。ゼロタッチ・オーケストレーションにおいては、Gitリポジトリと通信してソフトが最新かどうかを自動で確認して、必要に応じてダウンロードする仕組みを取っており、ウパール氏は「実に新しいソリューションであり、データセンター志向型の考えを補完するものと考えている」と語った。

  • ゼロタッチ・オーケストレーションの仕組み

  • 「Software Defined Edge」のポートフォリオ

エッジコンピューティングの活用は産業DXの第一歩

続いて、ヴイエムウェア Telcoグローバルアカウント APJ ビジネスデベロップメントディレクター 山口朋郎氏が、OT領域のおける企業のエッジに対する認識について説明した。

  • ヴイエムウェア Telcoグローバルアカウント APJ ビジネスデベロップメントディレクター 山口朋郎氏

同社が行った調査結果を基に、製造、建設、物流、エネルギー、食料業界の認識が紹介された。製造業はOT全体をほぼエッジと見なしており、エッジにおいてリアルタイムでデータ処理を行っている。建設業はエッジへの期待は大きいが、コストが課題を課題と見なしている。物流業は現場のPCがほぼエッジと見なされており、エッジデバイスへの期待が高いという。エネルギー業界では、モノ自体がエッジと認識されており、エッジの利用においてはセキュリティが課題となっている。食料業界ではVPNなどインフラ整備が必要であり、まだエッジまで至ってないとのことだ。

そして、山口氏は、3つの段階を踏んで行われる産業DX(デジタルトランスフォーメーション)において、エッジコンピューティングの活用は実現に向けた第一歩となると述べた。

エッジコンピューティングは、産業DXの第1ステージにおいて、IoTデータの可視化、データ収集・分析・インテグレーション、データ駆動型アプリやサービスの利用において貢献する。最終的に、スマートファクトリーに行き着く。

また、山口氏はエッジコンピューティングに求められる要件として、「データ分析」「セキュリティ」「システム融合」「プロトコル変換」「処理性能」を挙げ、これらに応えるソリューションとして、「VMware Edge Compute Stack」を紹介した。

  • 「VMware Edge Compute Stack」

山口氏は、「VMware Edge Compute Stack」について、「エッジコンピューティングに必要なものをソフトウェアとして提供する。VMware Edge Cloud Orchestratorが加わったことで、自動化が可能になった。ソフトウェア化によって、イノベーションの可能性が広がる」と語った。