千葉大学は9月11日、走査トンネル顕微鏡(STM)装置を用いて、超伝導材料の「第一種超伝導体」として広く知られている鉛が、極低温環境下では新たな超伝導状態を持つことを発見したと発表した。
同成果は、千葉大大学院 工学研究院の山田豊和准教授のほか、独・カールスルーエ工科大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
抵抗および発熱がゼロの状態で電流を流すことができる超伝導物質では、そこに磁場をかけたとしても、通常の磁場は超伝導物質中には入れない。しかし、磁場の磁力を強めていって「臨界磁場」を超えると、磁場が超伝導物質中に入ることが可能になる。そして磁場が入った瞬間、超電導物質の超伝導状態は失われ、通常の金属に変わってしまうのである。
その境目となる臨界磁場を1913年に発見したのが、ヘイケ・カメルリング・オネス博士だ。オネス博士は、転移温度が7.2K(ケルビン)の鉛の線材をコイル状に巻いて電磁石を作り、強力な磁場を発生させようと試みたところ、ある一定の電流までしか流せなかったのだという。この現象から臨界磁場が発見され、1913年のノーベル物理学賞につながったのだ。このように臨界磁場で超伝導から金属に変わる鉛は、第一種超伝導体と呼ばれる。
それに対し、超伝導物質の中でもニオブは、臨界磁場を超えてもすぐに金属にならないことが確認されていた。磁場がニオブ内に侵入し筒状に超伝導内を貫き、その貫かれた内部だけが金属になるからだ。そしてこのような性質を持つ物質は「第二種超伝導体」と呼ばれている。
今回の研究では、45mK(-273.105℃)以下という極低温環境、かつ宇宙空間と同程度の超高真空環境において、約0.02T(テスラ)の磁場を鉛にかけたとのこと。その結果、STMの電子分光像中に、鉛を貫く磁場が計測されたという。このことから研究チームは、極低温環境下では、鉛が第一種超伝導ではなく、第二種超伝導のように磁場が筒状に鉛を貫いていることを発見したとする。
今回の研究により、これまで第一種超伝導と考えられてきた鉛は、極低温環境下では第一種超伝導ではないことが発見された。研究チームは、このように超伝導の新たな理解を深めることで、未来の超伝導開発につながることが期待されるとしている。