日本NPOセンターは9月5日、NPOのIT活用を支援する取り組み「NPTechイニシアティブ」を開始するとして、記者説明会を開催した。NPTechとはNonProfit Technologyの略であり、NPOのデジタル活用を目指した活動を指す。なお、日本NPOセンターは、NPOの社会的基盤の強化を図るとともに、企業や行政との新しいパートナーシップの確立を目指す特定非営利活動法人だ。
同センターは2019年から、STO(Social Technology Officer)を創出するためのプロジェクトを推進してきた。2019年から2021年まではNTTデータと共に、NPOの現場でITの活用を支援できる人材の育成に取り組み、2022年にはデル・テクノロジーズ(以下、デル)も加わり、プログラムを支援する企業や団体を増やして活動基盤を強化した。
今年からはこの活動を強化してNPTechイニシアティブとし、さらにインテルとTISも参加して、多くのNPOに対して直接的なIT研修を実施する予定だ。ITの利活用を促進することで、日本の社会課題の解決に寄与する。
NPTechイニシアティブでは、参画する4法人が計4回の基礎セミナーを実施する。9月5日にはその第1回が開催され、NTTデータとインテルがITリテラシー入門講座を開いた。その内容は、IT用語の解説やPCの選び方などまさに入門編といった内容だった。なお、第2回はデルが担当し、デジタルデータの保存と保護をテーマに講座を開く(10月17日開催予定)。
NPTechイニシアティブに参画する企業の狙い
今回、NPTechイニシアティブにはNTTデータ、デル、インテル、TISの4社が参画する。説明会では各企業の視点からNPO支援の意義が語られた。
NTTデータ
NTTデータはNPTechイニシアティブへの参画をフィランソロピー、つまり、戦略的な社会貢献活動の一環と位置付けている。社内のリソースを無償または割引でNPOへ提供することで、持続可能な社会へ貢献する狙いがあるという。
NPOがITを活用することによって、社会価値の向上が期待できる。同社はここから生み出されるデータを活用して、将来的な企業価値の向上へとつなげる構えだ。また、同社社員がITを用いてリモートでボランティアに参加できれば社会参画人数が増加するほか、社員がこれまで以上に社会課題を発見し解決する能力が向上することが期待できる。
NTTデータグループでサステナビリティ経営推進を担当する金田晃一氏は「NPOを対象にIT人材の教育を実施することで、デジタル技術を使いこなす人を増やし、誰一人取り残さない社会を作りたい。IT企業4社が協働し、コレクティブインパクト(集合的な成果)を創出したい」と意気込みを語っていた。
デル・テクノロジーズ
デルはこれまで、グローバルでNPOとの連携を強化してきた。1万超の団体が登録するNPOプラットフォームと連携して、さまざまな団体に同社製品や寄付を提供してきたという。特に医療と教育の分野に注力し、デジタルアクセスの向上を支援している。
デルでESGを担当する松本笑美氏は、同社がNPTechイニシアティブへ参画する意義について、「NPOの課題を知るためにはNPOと一緒に働くのが最も良いと感じた。長期的にNPOと関わる中で見えた課題に対して、将来的にはプロボノ(専門的な知識やスキルを提供するボランティア活動)の観点からもより深く貢献していきたい」と語った。
インテル
インテルはNPTechイニシアティブへの参画を通じて、NPOのDX(デジタルトランスフォーメーション)とデジタル人材の育成に貢献する狙いがあるという。具体的には、同社が手掛ける「インテル・デジタルラボ構想」で使用されている教材やカリキュラムを活用するそうだ。
社会全体のデータ量が増加の一途をたどる中で、IT技術を使いこなすだけでなく、データを使って変革を起こせる人材を育成する必要があるとして、テクノロジー業界でのインクルージョン(多様な人材が平等に受容される環境)の実現を目指す。
インテルの執行役員を務める高橋大造氏は「インテル・デジタルラボ構想を中心とする取り組みを広げてNPOのDXを推進し、ひいては日本全体のデジタル人材の育成とDXに貢献したい」と展望を語った。
TIS
TISは事業活動を通じた社会課題の解決と社会要請に対応した経営の高度化によって、ステークホルダーとの価値交換性の向上を推進することで、持続可能な社会への貢献と持続的な企業価値向上の両立を目指す。NPOや自治体などを通じてデジタル技術を広く提供することで、デジタル技術の恩恵をより多くの人に広める狙いがあるそうだ。
TISでコーポレートサステナビリティ推進室の室長を務める芝村仁氏は、NPTechイニシアティブへ参画する思いについて、以下のようにコメントした。
「今回、NPOのDXを支援する取り組みに参加することで、1社だけでは成し遂げることが難しい『誰もがデジタル技術の恩恵を享受できる社会の実現』に向けた活動ができると期待している。そうした未来の実現に向けて活動していきたい」
NPOが抱えるITの課題
2020年に日本NPOセンターが実施した調査によると、現時点でのIT活用は「インターネットを通じた広報の強化」「団体Webサイトの改善・機能強化」「オンラインでのセミナーや研修・体験、相談対応」などが中心だという。
また、将来的には「オンライン教材の開発・導入」「オンラインでの会話・相談などの自動応答の開発・導入」「情報伝達に配慮が必要な方のサポート」などに対応する関心が高い結果が出ている。
組織運営に関するIT活用では、現時点では「データ・書類の保存、共有」「会計」「寄付者・会員管理」「テレワーク」が中心で、将来的には「スタッフの業務可視化」や「電子契約」などに関心があるようだ。
NPO職員に目を向けると、有給職員が在籍する団体は全体の35%にとどまり、専任の担当者が在籍する団体も限られる。多くの場合は兼任者がIT担当として対応しているのが現状だ。約2割の団体が「ITの有給職員の人数が大幅に不足している」と回答しており、「やや不足」も含めるとその割合は7割にも上る。
同様にITの有給職員の質についても約7割の団体が「大幅に不足している」「やや不足している」と回答した。IT人材の人数や質を確保できない理由としては、「原資や予算の不足」「事業活動や組織運営でのIT活用に関する情報や知識が少ない」とする回答が挙げられている。
日本NPOセンターが2019年からSTO創出に取り組む中で見えてきた課題について、同センターの事務局次長を務める上田英司氏は、以下のように指摘した。
「STO人材に関しては一定数の広がりができてきたが、その一方で、それらの人材を受け入れて活用するNPO側としては、ITに関する知識が不足していることや、IT基盤が整っていないこと、ITを利活用するためのノウハウを知らないことといった課題が浮き彫りとなった」
こうした現状に対して、STO創出プロジェクトは参画企業を増やしながらNPTechイニシアティブへと変化したことで、これまで以上に国内のNPOのIT活用を支える考えだ。