大阪府枚方市は2019年度から、生徒の学習意欲を高め、学力や自学自習力を育むことを目的に、市内公立中学校に在籍の中学生を対象とした放課後学習教室(「ひらスタ」)を実施している。2021年度には、入札により委託されたリクルートが、オンライン学習サービス「スタディサプリ」を活用した運営を実施。昨年度の取組では、既習範囲から出題するテストを期初(6月)・中間(12月)・期末(2月)にそれぞれ実施し、その点数を比較したところ、例えば中学3年生では、英語では69%、数学では62%の生徒が正答率を伸ばしているという。
枚方市 教育委員会 学校教育部 学校教育室 教育指導課 田中大登氏は「ひらスタ」について、「生徒の学習意欲を高め、学力や自学自習力を育むことを目的に実施しています。生徒一人ひとりの学習状況を把握するために最初に期初テストを実施し、生徒からヒアリングも行って、個別の学習計画を作成して学習支援を行っています。平成30年度(2018年度)までは学習指導員を配置し、『放課後学習教室』を開催していましたが、平成31年度(2019年度)からは学習の専門性をさらに高めることや、指導力のバラツキをなくすため、業務を委託することになりました」と説明した。
また、学校は授業の中で、生徒の学習意欲を高め、学力を高める指導はできているが、授業外での自学自習力を高めるところは難しい。その自学自習力の向上を補う仕組みとして、この取組は有効であると感じている」と成果を語った。
「ひらスタ」は、市内の市立中学校全19校に通う生徒のうち、希望者が参加できる。2022年度は、全校で270名ほどが参加している(昨年度は230名)。なお、定員は各校15名で、生徒は無料で利用できる。
参加理由としては、塾に行くのに抵抗がある(知らない生徒と一緒に勉強することに抵抗がある、経済的理由など)、通学している学校なので安心できるなどがあるという。
「ひらスタ」は、月3回程度開室(1回当たり50分×2コマ、夏季休業期間は4日間)。対象教科は英語・数学・国語・理科・社会の中の希望教科2科目となる。
リクルートは、「ひらスタ」を各学校に講師を派遣する業務を担うNPOパートナーとともに運営しており、リクルートは「スタディサプリ」の提供と全体の企画・運営を行っている。
授業の進め方について、リクルート 公教育支援推進部の前田氏は、「一人ひとりつまずいているポイントや単元が異なるので、Aさんはこれをやろう、Bさんはこれをやろうという具合に、講師は生徒のやるべきことを決めてから授業をスタートします。『スタディサプリ』の動画を見ながら勉強する生徒もいれば、講師に紙とペンで教えてほしいという生徒もいるので、生徒のやりやすい学習スタイルに合わせて進めています。期初テスト(レディネステスト)を実施して生徒の基礎学力を把握して、学習計画を立てていくという個別最適のスタイルが大きな特徴です」と語る。
取組の効果について前田氏は、「成果に関しては、『ひらスタ』に通っていない生徒を含め、分母を広げて比較しないと測れませんが、ひらスタ内でのテストの点数が伸びていることや、アンケートでは7割の生徒が成長を自覚しているので、学力向上はあったと感じています」と語った。
成果が出た要因について田中氏は「先生の丁寧な対応というのが大きかったと思います。一人ひとりに寄り添った教え方など、楽しく勉強できる環境にあった点がポイントだと思います」と述べたほか、前田氏は表彰制度や小テストが効果があったと語った。
表彰制度は、テストの点数といった結果だけではなく、講義動画の視聴や間違えた問題のやり直しといった、理解につながる学習行動「プロセス」を賞賛することを目的に、「講義動画の視聴時間」「間違えた問題のやり直し」等の学習行動でがんばった生徒を、月次で表彰している。
一方の「小テスト」は、「やり直し学習習慣」の定着を目的に、「スタディサプリ」の学習履歴データを解析し、子どもたちが苦手とする単元や問題を抽出して毎月月初に「小テスト」を出題しているという。
「表彰という制度もそうですが、何かをやらせる、押し付けることではなく、自発的にやらせるための賞賛する言葉というのを授業の一番のポイントにしています。褒めて伸ばすというスタイルが合っていたのかなと思っています」(前田氏)
同社は、ICT教育の良いところは、教えることをICTツールが代替することによって、生徒のコミュニケーションなど、先生が他の用途により時間を割ける点がメリットだとした。
最後に、GIGAスクール構想で整備された一人1台環境の活用について、枚方市 教育委員会 学校教育部 学校教育室 教育指導課 課長 井手内 太吾氏に聞いたところ、「タブレットを活用することで授業改善を図っていくことに対しては、順調にきていると思っています。タブレットを活用することの有用性については、先生も生徒も感じており、枚方版ICT教育モデルをを策定し、iPadを活用した事例は年々積み重ねてきています。シームレスに家庭学習と授業をつなぐところをテーマにしており、先生によって設定された課題を事前に認識した上で授業に臨むという部分は一定の成果はでていると思います」と語った。