両備システムズは9月1日、「ICT事業の進捗と今後の展望」に関する記者説明会をオンラインで実施した。説明には両備システムズ 代表取締役COOの小野田吉孝氏が立った。

  • 両備システムズ 代表取締役COOの小野田吉孝氏

    両備システムズ 代表取締役COOの小野田吉孝氏

増収増益となった2022年度

2022年度の業績は売上高が前年度比10.3%増の382億2200万円、経常利益が同44.1%増の58億1800万円となった。増収増益に至った要因を小野田氏は「BPO事業ではプレミアム商品券などによる国策事業に加え、コールセンター事業の拡大や自治体さま向けの内部業務ソリューションなどが好調だった」と説明した。

昨年度は地域連携やPHR(パーソナルヘルスコード)などのビジネス拡大を見据え、医療機関向け創業情報システムを提供するマックスシステムの株式を100%譲受したほか、自治体システムの標準化に向けたビジネス創出のためにパブリックセクター戦略室の設置。

加えて、市区町村向けの住民健康管理システム「健康かるて」のライセンス発行が694団体、自治体・健診機関向け各種健診(検診)の予約や通知に関するサービス「AITEL」が77団体の新規稼働に成長し、インバウンド観光メディア「MATCHA」との資本提携などをトピックとして挙げていた。

  • 2022年度の事業概要

    2022年度の事業概要

同社では、中期経営計画として2030年に売上高500億円を目指しており、2021年~2023年を統合・変革期、2024年~2026年を浸透・推進期、2027年~2030年は達成目前期として位置づけ、現在は統合・変革期にあたり、ビジネスモデルの変革に取り組んでいる。

  • 2030年に売上高500億円を目指している

    2030年に売上高500億円を目指している

ビジネスモデルの変革は(1)プラットフォーム拡張とサービスの連携、(2)インフラビジネスの拡大、(3)新規ビジネスへのチャレンジ、(4)民需系事業の拡大、(5)積極的M&A投資を推し進めている。

  • ビジネスモデルの変革では5つの領域で取り組みを進めている

    ビジネスモデルの変革では5つの領域で取り組みを進めている

5つの領域で取り組む、ビジネスモデルの変革

(1)ではガバメントクラウドを活用するサービスを拡充。従来からのデータセンターを中心にサービスを展開しているプラットフォームサービス「R-Cloud」に、各省庁とはLGWAN、SalesforceやAWS(Amazon Web Service)、Miceosoft Azure、Oracleなどパブリッククラウド、SaaS(Software as a Service)とはVPN接続されていることから、今後はガバメントクラウド(AWS、Azure、Google Cloud、Oracle)にR-CloudとVPN接続し、サービスを提供していく。

  • ガバメントクラウドを活用するサービスを拡充していく

    ガバメントクラウドを活用するサービスを拡充していく

小野田氏は「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化は基幹系20業務システムを2025年度までにガバメントクラウド上に構築された標準準拠システムに移行するため、実証実験を繰り返している。20業務の中で特に税関連、健康管理システムに注力する」と強調した。すでに、千葉県佐倉市は今年1月にガバメントクラウド上で両備システムズの健康管理システム「健康かるてV7」の運用を開始している。

今後、同社では「健康かるてV8」を開発し、全国の自治体に展開することで2025年度末までにすべての自治体の標準準拠システムへの移行をを支援する構えだ。2025年までに健康かるては、現在の696団体から900団体(シェア50%)、債権一元管理型滞納整理システム「THINK CreMas Cloud」は387団体から600団体(同35%)に拡大していく方針だ。

  • 「健康かるて」と「THINK CreMas Cloud」の提供拡大を目指す

    「健康かるて」と「THINK CreMas Cloud」の提供拡大を目指す

また、2024年には子育て支援アプリや住民生活支援総合アプリなど、子供に関する連携プラットフォーム「こどもの杜」の提供を開始し、省庁内で分散している関連データを連携することで孤立や虐待を早期発見し、速やかな支援につなげるという。2025年度には30団体、売上高5億円を計画している。

(2)についてはデータセンターである「両備IDC」の拡張を進めている。現在、第2棟の容量が3分の2に到達していることから、2023年度に新棟として第3棟の建設に向けて計画を進めている。

  • インフラビジネスの拡大に向けてデータセンターへの新棟建設を計画

    インフラビジネスの拡大に向けてデータセンターへの新棟建設を計画

8月からは再生エネルギー電力を活用したサービスの提供開始しており、10月にはプロバイダサービスを開始する。2024年末までにはISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)の認証取得を計画している。

また、2027年には多要素認証が国の基準になることが想定されていることから、120万ライセンスの導入実績を持つ、認証セキュリティソリューションARCACLAVISシリーズ「ARCACLAVIS NEXT(アルカクラヴィス ネクスト)」医療機関向けセキュリティサービス「Ryobi-MediSec(リョウビメディセック)」などの提供で対応する。

併せて、診断サービスなどをはじめとしたセキュリティコンサルティングソリューションを提供し、ランサムウェアなどのサイバー攻撃に対してマルチに対応するとのことだ。

CVCを設立し、スタートアップを支援

(3)である新規ビジネスへのチャレンジとしては、AIによる付加価値の創出と海外展開を積極的に進める。

同社では2016年からAIやIoT、ロボットなどを活用した新商品・サービスを開発する組織を新設。現在では画像AIによる診断サポート、AIが運用する為替ヘッジファンドの設立、顔認証への活用、切削工具の欠け・摩耗・寿命を推定するAIの開発を行っている。

  • AIによる新たな付加価値創出の事例

    AIによる新たな付加価値創出の事例

海外展開では、2019年から事業を開始したラオスでの事業に注力。これまで、政府とデータセンター活用の検討や、ラオス国内向けの勤怠給与クラウドの開発などを進めている。今年8月~来年3月の期間で日本の総務省事業として、同国のデジタルID調査事業を受託している。

(4)の民需系事業の拡大については、ファッション・アパレル業向けのオールインワン基幹パッケージ「Sunny-Side」の拡販を進める。現状ではSunny Sideの卸・生産版は受注が2社決定しており、リテール版は導入数が14、ブランド数が98に達している。

  • 「Sunny-Side」の概要

    「Sunny-Side」の概要

(5)で掲げる積極的なM&A投資に関しては、同社は今年2月にCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の設立とともに、CVCファンド1号を組成。6月に開催したオープンイノベーションを促進するための「両備システムズ アクセラレーター 2023」には53社の申し込みがあり、8月に2022年に資本提携を発表したxIDへの出資が決定している。

  • スタートアップ支援も積極的に行う

    スタートアップ支援も積極的に行う

CVCではカーボンニュートラルや再生可能エネルギー、セキュリティ、海外企業も含めて、数社と協業を検討しており、今後はアクセラレータ、外部機関との連携も開始する。小野田氏は「今後もベンチャー、スタートアップなどへの投資や、M&Aは継続していく」と語っていた。