パーソル総合研究所が8月31日に発表した、産業能率大学・齊藤研究室と共同で実施した「ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査」の結果によると、ミドル/シニア層の70.1%は学び直し(リスキリング)の重要性を認識しているが、実践者は14.4%に過ぎないことが分かった。
同調査は両者が3月24日~28日にかけて、全国の35歳~64歳で高卒以上の有職者を対象に、調査会社モニターを用いたインターネット定量調査により実施したものであり、有効回答者数は9000人。なお同調査では、35~54歳をミドル、55~64歳をシニアと定義する。
スクリーニング調査(対象者数は3万6537人)において学び直しの実態を見たところ、ミドル/シニア就業者で実際に学び直しをしている「学び直し層」は14.4%、趣味の学習だけをしている「趣味学習層」は8.2%、学び直す意欲はあるが実践していない「口だけ層」が29.8%だった。
学び直しをしていないミドル/シニアの正社員と同質のグループが学び直していたと仮定し、していない場合との個人年収の差を同社が推定したところ、平均で12万円増、3年以上の学び直しに限定すると30万円増になる。
業務外学習の実施状況・学び直し意欲により抽出した回答者(9000人)における学び直しの実態を見ると、希望する就業終了年齢(働くことを終えたい年齢)が高いほど学び直し層が増加している。 7 0歳以上まで働きたいミドル/シニア就業者の19.3%が学び直しを実行する一方で、口だけ層も増加しているという。
学び直し層の実施内容では、「本業に関する学習」(アップ・スキリング)は71.1%が、「本業以外の仕事やキャリアに関する学習」(リスキリング)は47.0%が実行している。 ミドル/シニア就業者の学び直しは、現在の仕事に関するアップ・スキリングが多い傾向にあると同社は分析する。
学び直しに許容できる支出額は、正社員が年額10万6000円だったのと比べ、有期雇用社員の平均許容投資額は同8万9000円と、やや低い傾向にある。
学び直しに自費で支出している額は、年間平均で3万5000円だった。
学び直しに対する費用補助の状況では、勤務先からの費用補助を受けているのは正社員では13.7%であり、有期雇用社員は正社員と比べて勤務先や国・自治体からの補助を受けていない傾向にある。
仕事やキャリアに関する学び直しに対する考え方を見ると、ミドル/シニア就業者の70.1%が、「何歳になっても学び続ける必要がある時代だ」との選択肢へ肯定的に回答している。また、ミドル/シニア就業者の過半数が、学び直しの必要性や意義自体は肯定的に捉えている。
学び直しの効用を聞いたところ、学び直し層の60.7%が「仕事のパフォーマンスを高められた」と回答し、また「学びが将来のキャリアに活かされると思う」との回答が68.1%あり、多くが仕事やキャリアへの効果を実感している。
転職における学習と個人年収の関係を見ると、正社員ではいずれの年代においても、過去の転機において学習していた度合いが高い人の方が個人年収が高い一方で、有期雇用社員では、転機における学習度合いと個人年収の間に関連が見られないという。
20代での学習・自己啓発経験と現在の個人年収の関係では、正社員の男女共、20代に業務外の学習・自己啓発に取り組んだ経験がある方が現在の個人年収が高い傾向にある。 学生時代の学習態度よりも20代の学習・自己啓発経験のほうが年収を高めていると、同社は分析する。
学び直しと働く幸せ実感/不幸せ実感の関係を見ると、学び直し層は、働く幸せ実感がある就業者が60.2%と多い傾向にあり、いずれの年代でも同様の傾向だ。一方で、学び直し層は働く不幸せ実感がある就業者もやや多くなっている。
学び直しの促進・抑制要因において、上司が仕事関連の学びに熱心な場合、学び直す意欲のある部下は積極的に学び直すようになる傾向があり、管理職の学び直しを促進することで、その部下の学び直しも促進されると同社は見る。
職務特性との関係では、クリエイティビティ、成果の明確さ、技能の高度さ、仕事の負荷の低さが高いと、学び直す意欲がある就業者は積極的に学び直しを行う傾向にある。
企業風土との関係を見ると、キャリアの透明性、職務範囲の無限定性、育成の手厚さが高い企業に属している場合、学び直す意欲のある就業者は積極的に学び直しを行う傾向となっている。
キャリア不安と学び直す意欲との関係では、不安が強いほど学び直す意欲が高くなり、特に、専門性の低い群でその傾向が顕著だとのこと。
半面、キャリア不安が高いほど口だけ層の割合が多く、学び直し層の割合はあまり変わらない。ミドル/シニアの専門性の低さはキャリア不安を高めるが、キャリア不安が高くなっても学び直す行動は起きていないという。
口だけ層が学び直し積極層に移行するための要因を分析したところ、好奇心、いけ図々しさ、エンジョイメント、自己効力感といったマインドが、学び直し行動を促す効果が見られたとのこと。
同社上席主任研究員の井上亮太郎氏は、個人に対しては学び直ししない(できない)理由を問い直してみることと学び直しは労力に見合うことを指摘し、経営層・人事部門に向けては、人事制度と育成施策の再評価、キャリアのセルフアウェアネス(自己認知)の強化、学び直しを促す管理職の言動と組織風土の醸成、ミドル/シニアの硬直した学習観の転換、4つの学び直しマインドの育成を提言している。