NTTと北見工業大学(北見工大)は、給電能力を有した高速光通信の実証実験に成功したと発表した。1本の通信用光ファイバーで、高速かつ良好な通信品質を維持したまま、10km以上先の無電源地点に、1W以上の電力を供給した。世界初の成果だという。
これにより、非電化エリアをはじめとして、光通信の未踏エリアに、高速光通信の提供を可能にするほか、災害時に電源供給が失われた場合でも、応急対応として光ファイバーを用いた通信を確立できるとしている。
NTTアクセスサービスシステム研究所アクセス設備プロジェクトの和田雅樹氏は、「従来技術では、光ファイバーの入力光強度限界により、10km離れた場所に対して、光通信装置の駆動に必要な電力供給することは不可能だった。これまでの実証では、短距離用の伝送用ファイバーを使用して、6kmの範囲で、一定の電力を送ることができたという報告に留まっており、10km以上を送ることができたのは今回が初めてとなる。小型の通信モジュールを稼働させることができる1W以上の電力を送ることが可能になった点は大きなポイントである」と述べた。
光ファイバーの入口から高い出力の光を入れると、光ファイバーのガラスの分子を振動させ、光が散乱することになる。特定の入力(6W以上)まで達すると、散乱が増え、入力強度に対して、出力強度が弱まる非線形現象が起こる。そのため、入力できる光強度には限界があった。今回、マルチコア光ファイバーの活用によって、4倍の出力で送ることができたことで実現したという。
具体的には、一般的に使用されている通信用光ファイバーと同じガラス直径125μm(髪の毛程度の細さ)のなかに、4個の光の通り道(コア)を有するマルチコア光ファイバー(MCF)を使用。MCFでは、光給電を必要としない通常の光通信にも、既存の伝送装置と組み合わせて使用することができるという。また、それぞれのコアが独立し、コア間での光信号の混信を生ずることなく使用できるため、任意のコアを、給電用にも、通信用にも割り当てられるほか、その双方を同時に割り当てることもできる。2コアの組み合わせを2セット設定することもできるため、2つの独立した通信システムを構成することも可能だ。
電源がある通信ビルからは、マルチコア光デバイスを給電光源と接続。電源がない遠隔地には、光-電気変換器を設置し、光から電気に変換(光電変換)して送受信機を稼働させたという。
4コアのMCFには、2017年度にNTTとKDDI総合研究所、住友電気工業、フジクラ、古河電気工業、NEC、千葉工業大学などが発表した技術を活用しており、市販されているものではないという。また、給電用に特化したものではないとしたほか、現状ではマルチコア化では4コアが最大になると見ていることも示した。今後はコスト削減が課題になるという。
光ファイバーには、既存のシングルモード(SMF)や、今回のマルチコア(MCF)のほかに、マルチモード(MMF)、ダブルクラッド(DCF)があるが、MMFでは、コアが大きくなるため、電力を大量に送れるものの、通信には不向きな構造であるといった課題があるという。
今回の実証では、光給電量を最大化するために、4コアに波長1550nmの給電用の光源を入力。「既存の光ファイバーは、1本のコアによる構造だが、そこに4本のコアを通すことで、単位断面積あたりの給電電力を最大化している。また、現在の光ファイバーと同じ光学特性のため、既存の通信装置をそのまま適用できる」という。
MCFの適用により、単位断面積あたりの供給電力を最大化するとともに、光給電効率の劣化要因となるシステム内の戻り光を抑制。給電光よりも信号光の波長を低くすることで給電光への影響を最小化している。MCFによって14km伝送後に、光電変換後に約1Wの電力を得ることができ、14W-kmの光給電能力を実現。世界最高クラスの性能指数となった。
1Wの電力によって小型の通信モジュールを動作させることができる。また、センサーなどのIoT機器や小型カメラなどの動かすことができる。さらに、双方向光通信の実証も行い、4コアのうち2コアを使って、それぞれに波長1310nmの上りと下りの信号を割り当て、双方向の光通信を行い、自己給電による伝送速度10Gbit/秒を実現したという。
14km伝送後に、良好な伝送特性を確認。伝送速度と伝送距離の積を、自己光給電伝送における伝送性能の指標と踏まえると、140Gbit/秒-kmの世界トップクラスの伝送性能を実現することになる。「これまで報告されたなかでは、最も高い光伝送能力も実証した」という。
NTTでは、「今回の実証において、現在の光ファイバーと同等の特性を有するマルチコア光ファイバーを用いることで、通常の長距離高速光通信にも、光給電型の双方向光通信にも対応できることが示された」と評価。「災害時や緊急時には、電源回復が困難なエリアに、通信ビルから給電光を送出することで通信装置を遠隔駆動させ、ネットワークのレジリエンスを向上できる」としている。
また、将来的には、平時においても、河川や山間部などの非電化エリアや、強電磁界や腐食などによる電化困難エリアなどにおいても、光通信の提供が可能となり、多様なIoT機器と連携したセンシングネットワークの実現に貢献できるとしている。
なお、今回の実証では、NTTがMCFの最適化や光給電システムの構築、伝送特性評価を担当。北見工大が、作製したMCFの光給電能力の解明を担当。「光ファイバーそのものの強度は既存のものと差はない。だが、伝送路に敷設するには途中に接続点が必要になる。接続点を含めた形での安全性の確認や、光電変換装置の変換効率の劣化や耐久性などについて、今後、検証を行う。光給電能力のさらなる改善に向けて、産学連携による研究開発を推進していく」と述べている。