経済成長が著しかった1970年代に産業化した外食は、その後の人口減少やコロナ禍によって大きな転換を迫られている。ロイヤルホールディングス 代表取締役会長の菊地唯夫氏は「この局面を打開するのがデジタル化」だと言う。8月2日~18日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+ EXPO 2023 for Leader DX FRONTLINE ビジョンから逆算する経営戦略」に同氏が登壇。「デジタルが外食産業にもたらす変革と可能性」と題した特別講演で、人間が価値創造を行う外食産業において、デジタル化がもたらす変革について話した。

「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+ EXPO 2023 for Leader DX FRONTLINE ビジョンから逆算する経営戦略」その他の講演レポートはこちら

人口減少の局面で、産業の成長の在り方を考える

講演冒頭で菊地氏は、人口減少の局面において持続性のある産業の在り方を考えると、最も重要なのは生産性だと述べた。人口が減少していくと、少子高齢化によってシニア市場は拡大、若者向け市場は縮小するなど、市場は二極化する。また従来は起きないことが前提となっていた労働供給の減少も起きる。1970年代のように経済が成長し人口が増加していたときは、多店舗化など規模の成長を考えればよかったが、今後はこの市場の拡大縮小と労働供給の増減を考慮して成長の在り方を多面的に考える必要があるのだ。

  • 需要サイド、供給サイドにおける変化

事業別の成長性について、横軸を市場成長力、縦軸を供給力(人材)でマトリックスにすると、下図のような4象限が生まれる。「一番分かりやすいのは、右上の『規模の成長』」だと菊地氏は例を挙げる。この象限では、市場が拡大し、働く人も確保できる。今まで通り規模をどんどん拡大し、チェーン理論に基づいて成長していけば良いはずだ。ロイヤルホストが280店舗から220店舗に店舗数を減らし、営業時間の短縮に踏み切ったのは、市場も労働供給も縮小する左下の領域に戦略的に位置付け、「質の成長」を目指すべきだと考えた戦略的なアプローチだと同氏は明かした。

  • 事業別の成長性と人材確保の一例

規模の圧縮は価値を最大化するため

質の成長を目指す中で生産性を上げるには、付加価値を向上させる必要がある。外食産業では商品なら国産食材、サービスならマニュアルを越えたホスピタリティなどが付加価値となるが、どちらも規模が大きくなると難しくなる。規模が大きくなれば、国産食材では賄えず、サービスはマニュアルで統制せざるを得なくなる。これは逆に捉えると、規模を圧縮することで、顧客が付加価値を認知し対価を払ってもらえるようなモデルを構築できるということである。

一般的に製造業であればスケールメリットがあるため、規模の拡大に比例して価値も上昇する。グラフで表すと右上がりの直線になるが、特定のサービス産業では放物線になると菊地氏は言う。一定の規模を超えると陳腐化やカニバリが起きたり、労働力が確保できなくなったりして下降線になるからだ。ロイヤルホストが営業時間の短縮や店舗数削減を行ったのは、この放物線の頂点、つまり価値を最大化できるポイントがどこになるかを探っていたためだ。

  • 規模の戦略のイメージ図

ただし、頂点は人手不足などによって左に移動してしまう。そこで次にすべきなのは、頂点を右に戻すこと。そのために必要なのがテクノロジーである。同社はこうした問題意識から2017年に、生産性の向上と働き方改革を両立できる研究開発店舗を馬喰町に出店した。人間が付加価値を創出するプロセスにより集中できるよう、研究開発店舗では接客以外のサービスは全て機械化、ロボット化を目指したという。

“ヒト or テクノロジー”ではなく“ヒト with テクノロジー”

この記事は
Members+会員の方のみ御覧いただけます

ログイン/無料会員登録

会員サービスの詳細はこちら