国立天文台(NAOJ)は8月22日、NAOJ 天文シミュレーションプロジェクトが運用する中規模サーバを用いて、宇宙の膨張を支配する「宇宙論パラメータ」の精度を向上させることに成功し、加えて、不定性を最大で35%減らすことに成功したことを発表した。

同成果は、NAOJのマリア・G・ダイノッティ助教、同・岩崎一成助教らの研究チームによるもの。詳細は2本の論文として発表され、どちらも米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された(論文1論文2)。

  • 研究の概念図

    研究の概念図。超新星(右)、クェーサー(左)、ガンマ線バースト(中央)といった、地球で観測されるさまざまな標準光源を使って、宇宙論パラメータを推定することが可能だ(背景下は天の川銀河)(c) 国立天文台(出所:国立天文台Webサイト)

宇宙が膨張していることは十分に立証されているが、その膨張する速度を正確に測定することは容易ではなく、宇宙膨張によって地球から遠ざかっている銀河の後退速度を正確に測定するには、まずその銀河までの正確な距離を知る必要がある。

宇宙において天体までの距離を測定する場合、太陽系の周囲の星など、天の川銀河系内のそれも極めて近傍の宇宙であれば地球が太陽の周囲を公転していることを利用した三角測量で正確に算出することが可能だ。しかし、三角測量が適用できるのは比較的近距離までであり、天の川銀河外、それも宇宙膨張で後退するような距離にある銀河ともなってくると正確に距離を測るのが難しくなる。

そこで、研究者が探しているのが信頼できる目印となる天体や天文現象であり、どこにおいても一定の明るさで輝く天体であるかつその実際の明るさがわかっていれば、見かけの明るさがどれだけ暗く見えるかを調べることで、その天体・天文現象までの距離を算出することができる。そうした、"宇宙のものさし"といわれるのが「標準光源」である。

標準光源としてよく利用されるものにはIa型超新星があるが、ほかにもクェーサー、ガンマ線バーストなども利用されている。そこで今回の研究では、そうした標準光源となる天体・天文現象のデータを解析するためさまざまな新しい統計的手法を活用することで新たな研究分野を開拓することにしたという。

距離が異なるいくつかの範囲では、それぞれ異なる標準光源を用いることが有効だという。つまり、複数の標準光源を組み合わせることで、宇宙のより広い範囲に渡る天体のデータを使い宇宙論パラメータを絞り込むことに成功したとする。そして、主要な宇宙論パラメータの不定性を最大で35%減らすことができたとした。

現在、宇宙膨張は加速し続けていることがわかっており、もしこのまま宇宙膨張の加速が続いた場合は、最終的にはヒトや星はもちろん、原子すらも引き裂かれてしまうビッグリップで終焉を迎える可能性がある。また加速が止まって一定速度で膨張していくのであれば、最終的には全宇宙が冷え切ってしまうビッグフリーズ(ビッグチルとも)を迎えることとなり、膨張速度が減速してゼロとなり重力が打ち勝って収縮に転じた場合は、ビッグバンの逆をたどってすべてが1点に集中するビッグクランチを迎えることになる。このどれで宇宙が終焉を迎えるのか、宇宙論パラメータがより正確に決まれば宇宙の将来を明らかにできるとして期待されている。