鹿児島大学は8月18日、アマチュア天文家と連係し、21世紀以降で最も明るい「重力崩壊型超新星爆発」の追観測によって成果を上げたことを発表した。

同成果は、鹿児島大大学院 理工学研究科の山中雅之特任助教らの研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。

超新星爆発の分光観測によって近年、スペクトルに水素などの元素の強い輝線という予想外の発見がなされ注目されている。これは、星の極近傍を取り巻いている「星周ガス」が存在することを意味しており、星が爆発直前に活動的となった結果ガスを噴出することで形成されると考えられている。

しかし、その後もいくつかの超新星爆発において輝線が観測されたが、まだサンプル数が乏しいため星周ガスの詳細な性質は依然として理解が進んでいないという。特に、星周ガスの組成には多様性が認められるのか、どのような超新星がどのような星周ガスを持つのかなどの点が未解明となっている。ガス組成と超新星の性質の関係性を明らかにすることができれば、爆発直前の星の進化過程を理解する手助けになると期待されている。

問題は、輝線は一般的に爆発後の2~3日程度の間でしか観測できないため、超新星爆発の発見後に速やかに分光観測を行う必要があるという点だ。しかし、超新星の大半は遠方のために見た目の明るさはとても暗く、口径2~8mの大型望遠鏡が使われるケースがほとんどだった。これらの望遠鏡は、すばる望遠鏡などのように研究用途であり、台数も少なく観測時間も確保しにくい。そのため、個人でも所有できるような、より小さな望遠鏡でも観測可能な地球近傍の明るい超新星の出現が待ち望まれていた。

そうした中で2023年5月19日に発表されたのが、日本のアマチュア天文家の板垣公一氏によって、太陽系から約2100万光年と比較的近くにある渦巻銀河「M101」に超新星「SN 2023ixf」が発見されたというニュースだった。発見時に14.9等だったこの超新星は増光を続け、5月24日には10.8等にまで到達し、これほど明るくなる超新星はとても希少なため研究チームを含め、プロ・アマ問わず世界中で数多くの追観測が実施されたという。

  • 鹿児島大 入来観測所に設置されている1m望遠鏡に搭載した近赤外線3色同時撮像装置「kSIRIUS」を用いて撮影されたSN2023ixfの近赤外線データ

    鹿児島大 入来観測所に設置されている1m望遠鏡に搭載した近赤外線3色同時撮像装置「kSIRIUS」を用いて撮影されたSN2023ixfの近赤外線データ。左から順に、それぞれ1.2、1.6、2.2マイクロメートルを中心としたフィルターバンドにて撮影された。任意の色がつけられており、実際の色ではない。(出所:鹿児島大プレスリリースPDF)

追観測を行ったアマチュア天文家の1人が、今回の研究チームの一員である藤井貢氏。40cm望遠鏡に搭載した自作の分光器で取得したスペクトルは精度がとても高いもので、十分に天文学的な研究調査が可能なレベルだった。そのスペクトルには強い輝線と共に青い連続光と呼ばれる特徴が見られ、初期段階の重力崩壊型超新星に合致していたとする。これは、SN 2023ixfが21世紀以降で見かけの上では最も明るい重力崩壊型超新星であることを意味するとした。藤井氏は、その後も観測を続け推定爆発日から8日間で合計4本ものスペクトルの取得に成功している。

  • kSIRIUSで撮影したSN 2023ixfの1.2、1.6、2.2マイクロメートルの撮影データを合成した画像

    kSIRIUSで撮影したSN 2023ixfの1.2、1.6、2.2マイクロメートルの撮影データを合成した画像。あくまで近赤外線の波長域であり、実際にはヒトの目には見えない色である。(出所:鹿児島大プレスリリースPDF)

今回の研究では、まずそのスペクトルを用いて、水素の輝線が調査された。その結果、水素の輝線は2つの成分に分けられることが見出されたという。それぞれ超新星そのものの膨張ガスと取り巻いていた星周ガスに対応するとした。さらに、スペクトルには水素だけではなく、ヘリウムや炭素、窒素などの輝線が存在することも判明。これは、窒素などの元素が豊富に星周ガスに含まれていることを意味しているとした。また、これまでの星周ガスを持つ超新星サンプルを集め比較検討が行われたところ、特に、炭素と窒素をスペクトルに示さない超新星に比べ、窒素などを豊富に有している可能性が示唆されたとする。

過去の超新星において、炭素と窒素が示された例はわずかではあるが3例あり、重力崩壊型超新星の中でも比較的高い光度を持つものだった。研究チームでは、今回の超新星も発見された翌晩から鹿児島大が運用する入来観測所の1m望遠鏡を使って近赤外線観測を行っていたという。その結果、近赤外線波長域においては絶対等級が-18等程度であることが確認された。そのことから今回の超新星もまた、重力崩壊型超新星の中でも高い光度を持つことが確かめられた。

今回の研究によって、超新星の光度と輝線として見える元素には関係性がある可能性が示唆されたといえるという。理論的には、高い光度を持つ超新星は、親星の初期質量が大きいことも予期されるとする。今後は、星の質量と星周ガスの元素との関係性に焦点を当てた理論研究が進むことが期待されるとしている。また、この超新星は8月上旬の段階で12等台と見かけの等級で明るい状態を保っており、可視光線や近赤外線を中心としてさまざまな研究が遂行されることが期待されるとした。