新潟大学(新大)は8月17日、全身の筋肉が徐々に痩せて動かなくなる難病の「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)の原因タンパク質である異常な「TDP-43」が、運動を司る神経回路に沿って広がり(伝播)、神経の変性や運動障害を進行させていくことを明らかにしたと発表した。
同成果は、新大 脳研究所 脳神経内科学分野の坪口晋太朗助教、同・小野寺理教授、同・システム脳病態学分野の上野将紀教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ヒト細胞のメカニズムや神経疾患の病理学に関する全般を扱う学術誌「Acta Neuropathologica」に掲載された。
ALSは全身の筋肉が徐々に痩せていき、次第に身体を動かすことや呼吸が困難となっていく難病として知られている。運動は、大脳皮質の運動野にあるニューロンの指令が皮質脊髄路を通して、脊髄の運動ニューロンそして筋肉へと伝達されることで、身体の目的の部位が動くことで行われる仕組みだ。しかしALSでは、これらの運動を担うニューロンや筋肉に異常なTDP-43が沈着することで神経細胞が脱落し、身体が動かせなくなっていくと考えられている。
また病気は、身体のある部分から別の部位へ徐々に広がっていくことから、運動を担う神経回路中を異常なTDP-43が広がっていく可能性が想定されてきた。しかし実際に、異常なTDP-43が運動の神経回路中を広がっていくのか、これまで明らかにできていなかったという。
そこで研究チームは今回、アデノ随伴ウイルスを用いることで、異常なTDP-43が、(1)大脳皮質、(2)脊髄、(3)筋肉、のそれぞれの領域に蓄積するマウスモデルを確立。このALSモデルマウスにおいて、TDP-43の蓄積に伴い運動を担う神経回路中を病態がどのように進行していくのか網羅的に検証することにしたとする。
まず大脳皮質に異常TDP-43が誘導されたところ、皮質脊髄路にTDP-43が徐々に出現し、さらに神経細胞の活動を支える役割のグリア細胞の一種である「オリゴデンドロサイト」にTDP-43が現れ広がっていくことが見出された。また、ヒトのALSと同様に大脳皮質と軸索が変性を起こし、皮質脊髄路のオリゴデンドロサイトが反応性に増加していくことが見出されたという。一方、皮質脊髄路にTDP-43が現れたものの、脊髄への広がりは認められなかったとした。
次に、脊髄の運動ニューロンに異常TDP-43が誘導されたところ、短期間で著明な細胞死が引き起こされたとする。また運動ニューロンのみならず、周囲に連絡しているほかの脊髄介在ニューロンへの細胞死も引き起こし病態が進んでいくことが判明した。さらに、運動ニューロンの脱落に伴い筋肉も高度に萎縮し、運動障害が引き起こされたという。一方、疾患は脊髄と筋へ広範に広がったが、異常なTDP-43自体は、脊髄内、大脳皮質、筋肉には広がらないことが確認された。
最後に、筋肉に異常TDP-43が誘導された。すると、再生線維が増加したものの筋の萎縮は顕著ではなく、運動障害も引き起こさなかったとする。また脊髄へのTDP-43の広がりも認められなかったとした。
今後、異常TDP-43が広がっていく機序や、病態の進行に関わる機序を解明し、これらの機序を防ぐことができれば、ALSの進行を食い止める新たな治療につながる可能性が期待されるとした。