名古屋大学(名大)は8月8日、これまで約7200年前には中国大陸起源のブタが飼育されていたことがわかっていた沖縄本島からさらに南側に位置する、沖縄県八重山地域の下田原(しもたばる)貝塚から出土した約4000年前のイノシシ類について調査し、下顎骨に見られる家畜化現象から、イノシシではなくブタであることを確認。沖縄の広い範囲で本州・九州よりも古くからブタの飼育が行われていたことが明らかになったと発表した。
同成果は、名大博物館/名大大学院 情報学研究科の新美倫子准教授、沖縄県立埋蔵文化財センターの玉城綾氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、沖縄考古学会の学術雑誌「南島考古42号」に掲載された。
かつて、日本列島において中国大陸から持ち込まれたブタが飼育されはじめたのは、約3000年前に始まる弥生時代だと考えられていた。そうした中で名大の新美准教授らの研究チームは、それよりもさらに約4000年も遡った縄文時代早期の終わりごろには、すでに沖縄本島で人々が中国大陸起源のブタを飼育していたことを明らかにしていた。ただし、さらに南側の台湾に近い地域、日本の南西端である八重山地域において、どの時期にブタが出現したのかは不明だったという。
そこで今回の研究では、同地域のイノシシ類がまとまって出土する新石器時代の遺跡としては最も古い下田原貝塚に注目。ここで出土するイノシシ類が「野生イノシシでなく家畜ブタなのか」、そしてブタであるならば、「それらは逃げ出して野生化した個体を狩猟したのではなく飼育されていたのか」の2点を検討したという。
ブタは、野生のイノシシを人間が“家畜化”させた動物であり、その過程で骨の形が変化することが知られている。家畜化により、頭や下顎が前後方向に短くなるが、それに伴う変化の1つとして下顎骨の前面が凹むことがある。また、その過程で起きる別の変化として、骨そのものが肥大することも知られている。そこでまず、これらの特徴が下田原貝塚出土の下顎骨にも現れているかどうかが調査された。
研究チームは、出土下顎骨305点の中で、下顎骨の前面を観察できる資料は26点あり、そのうち24点の下顎骨で前面が凹んでいたとする。またそれらの凹みの度合いは、明らかに凹んでいるものから弱く凹んでいるものまで、さまざまだったとしている。このことから、これらの個体の大部分は家畜化されたブタ、あるいはその子孫だといえるという。
同じく305点の下顎骨のうちで、厚さと歯の大きさを計測できる成獣の下顎骨は4点あり、それらをもとに下顎骨の厚さと歯の大きさの比を求め、その値から下顎骨の肥大化状況が評価された。この値が大きいほど、下顎骨がより肥大していることになる。そして評価の結果、出土した雄も雌も、現生野生イノシシより明らかに下顎骨が肥大していることが確認されたとする。このことから研究チームは、出土したイノシシ類の大半はブタである可能性が高いと考えられるとした。
なお、AMS法による放射性炭素年代測定で得られた骨の年代値については、それぞれ今から約4200年前、約4000年前、約3900年前だったとのこと。これらはいずれも縄文時代後期にあたる。