The Breakthrough Company GOは7月19日、リバースメンター・カンファレンス「Z特区」を開催した。
リバースメンターとは「若年層が助言者・相談者(メンター)となり、年長者を育成・サポートする概念や手法」のことだ。本イベントでは「Z世代の若者たちからリーダー層が学びを得る」ことをコンセプトに、さまざまなテーマでセッションが行われた。
同社の代表取締役社長 三浦崇宏氏は開会宣言で「これまで努力をしてきた年長者の方が、今の時代の考え方に合わないために表舞台に出られなくなってしまっている」と率直に切り出した。その上で、「日本社会には停滞感がある。ここから復興していくためにはリーダーの若返りが必要なのではないか」と提言。ただ、“若返り”の意味はリーダーの年齢を引き下げる、ということだけではないという。
「シンプルな若返りももちろん必要です。それと同時に、今リーダーを務めている人たちの発想や考え方が若返ることが大事だと思いました。このイベントを、若い人たちに今の大人が並んでいくような、新たな文化を作れる機会にしたいです」(三浦氏)
本稿では、小杉湯 事業責任者 関根江里子氏、チケミー 代表取締役 宮下大佑氏、筑波大学大学院 博士後期課程Google / Microsoft Research Ph.D. Fellow 矢倉大夢氏が登壇したTalkSession01「Z世代が考える、テクノロジー進化の先にある『ビジネス』の本質』の模様をお届けする。同セッションでは、EXx 取締役 CTOのTehu氏がファシリテーターを務め、Z世代から見たテクノロジーの進化や、そこで人が向き合うべき課題について意見交換が繰り広げられた。
Z世代はテクノロジーをどのように捉えているか
Tehu氏:それでは、関根さんからご経歴の紹介をお願いします。
関根氏:高円寺にある銭湯「小杉湯」で事業責任者をしています。今も週に1回は番台に座って、お客さまと接しています。かつては給与の前払いサービス「Payme」でCOOをしていましたので、今日は前職での反省なども生かしつつお話したいと思います。
宮下氏:私は早稲田大学に入学してすぐにアパレルのECサイトを立ち上げた後に、昨年6月に「チケミー」を設立しました。チケミーは日本初の「モノと権利のマーケットプレイスアプリ」と銘打っています。イベントチケットやグッズの引換券などを、ブロックチェーンやNFTで販売して、「世の中のあらゆる価値の流動性を高める」ビジネスをしています。
矢倉氏:僕は研究者として活動しています。筑波大学大学院でAI技術の研究をしながら、国の研究機関でも研究や論文の執筆を行っています。現在は、新たな技術が新たな場面でどのように使えるかを研究していますね。
Tehu氏:私もどちらかと言えばテクノロジーの人間ですが、テクノロジーとクリエイティブを融合させるような仕事をしています。私が運営しているExXでは「参加したくなる街をつくる」というコンセプトの下、自治体と共同してテクノロジーを使った街の課題解決を目指しています。
Tehu氏:それでは、本題に入りましょう。お三方は日頃からどのようにテクノロジーと向き合っていらっしゃいますか?
矢倉氏:テクノロジーの進化のスピードがかなり上がっていると思います。実装までに3年かかると言われていたChatGPTがすでに普及し始めているのは、驚くようなスピードの速さです。ただ、僕は「これができたら面白いな」「なぜ、この技術を作ろうと思ったんだろう」とストーリーも含めて純粋に楽しんでいますね。
宮下氏:かつてはパソコンなどのデバイスと人間や、人間同士の間に一定の距離があったと思います。ですが、今はテクノロジーの発展でその境界線がなくなってきていて、テクノロジーの波に恐怖感を覚える人もいるのではないでしょうか。我々はWeb3という新たな領域に参入していますが、そこで他者との緩やかな繋がりの中で関係性を構築することに意味を感じています。個人的には、世界があるべき場所に向かっているように思いますね。
Tehu氏:宮下さんは、他の会社が新たにWeb3関連のビジネスを開発した時に、焦りを感じたりしませんか?
宮下氏:我々のサービスは完全にオープンソース化しているんです。なので、同業の方々がコンペティターというよりは、みんなで協力をして前に進んでいく意識を持っています。なので、あまり焦るという感覚がないですね。
Tehu氏:私だったら、二人三脚と言いながらも心の中では「絶対に出し抜いてやる」と思ってしまいそうですが (笑)。その考えはとても興味深いですね。関根さんはいかがでしょうか。
関根氏:私は、テクノロジーと社会課題がフィットしないな、と感じます。Paymeを運営していた時に、日本の雇用形態の複雑さが導入の壁になることがありました。導入先の勤怠や雇用システムにPaymeをアジャストさせる必要があったので、「テクノロジーでこんな機能ができる」という状況になっても法律や条例が導入のネックになってしまうんです。社会そのものの課題に向き合ってから、適したテクノロジーを解決策にする必要があると思いました。
テクノロジーが進化する中で、人が向き合うべき課題とは
Tehu氏:ありがとうございます。テクノロジーの進化が起こっている中で、まず我々が向き合うべき課題はどこにあるんでしょうか?
関根氏:「分断」だと思いますね。公衆浴場でしかない銭湯の中で、小さな社会を見ているような感覚を覚える時があります。実は、小杉湯では30代以下のお客さまが全体の50%を占めているんですよね。若い世代の人々はデジタルネイティブな世界で生きていて、仕事ではいつでも上司からメッセージで連絡が来るし、友人の日常はSNSで見られます。社会と接続され続けていて、他者との“中間部分”を埋めるものがない気がするんです。その役割を銭湯が担えるのではないかと思っています。
宮下氏:今のお話を聞いて私も銭湯を始めようかなと……(笑)。 僕は“ 身体性”を大事にしていきたいと思っています。昔、人は“手触り感”のないものに魅力を感じないのかもしれない、と感じたエピソードがありました。イベントの入り口でチケットの“もぎり”をやったことがあったのですが、そこでお客さま様がとてもうれしそうな表情を浮かべていたんです。その瞬間が事業をやっている中で一番嬉しい出来事でした。先ほど分断というキーワードが出ましたが、人間は技術を遠ざけてしまうんですよね。技術とのつながりを意識しながら、テクノロジーをうまく使いこなすことが大事だと思いますね。
Tehu氏:今は音楽ライブでも電子チケットが一般的になっていますが、その日の曲目やアーティストの写真が入った紙のプレミアムチケットが飛ぶように売れているそうです。テクノロジーとは別の路線で身体性のあるものがビジネスになっているのだなと感じました。矢倉さんは手触り感があるようなや身体性に関連する研究はできていますか?
矢倉氏:(身体性がある研究にまだ進めておらず)その点については少し反省しなくてはいけないかもしれません。僕自身は、研究が社会にどのようにつながるか、に興味があります。例えば、撮った写真がスマホのカメラロールに保存されて、クラウドストレージに同期されていく、というのは写真におけるテクノロジーとの自然なインターフェースなのかもしれませんね。
人間とテクノロジーの関係性において、人間は技術の進歩と共に生きて時間を歩んでいくと思います。そこに対して一人一人がオープンに身構えることが大事なのではないでしょうか。
Tehu氏:テクノロジーの進歩だけでは解決できないものもあると思いますので、我々も色々な方々と協働して課題を解決していく必要がありそうですね。
あえてテクノロジーに頼らないこともこの先の選択肢に
Tehu氏:最後に、皆さんがZ世代として今後のテクノロジーにどんな期待を抱いているか教えてください。
関根氏:前提として、私は死ぬまで銭湯で働くと決めたので、銭湯という場の中でどう向き合うかというお話をします。(うちの)銭湯には券売機などはなく、全てのお客さんが番台にいらっしゃって必ず会話をするんです。例えば、共通入浴券がデジタル化したら、今まで全員と会話してきた光景は守れるのだろうか、と思うんですよね。個人的には、変わらず守りたい風景に、テクノロジーがどこまで必要かどうかを考えていきたいです。社会の課題を重視して、テクノロジーに向き合いたいと思っています。
宮下氏:テクノロジーがどうあるべきかという話になったときに、“余白”があればいいのかなと思いました。決められたテクノロジーの“箱”の中で、まるで踊り狂えるようなスペースを(作り手である)我々が作っていく必要があるのではないでしょうか。
Tehu氏:確かに、コンピューターを使ってテクノロジーの最適化を目指すのはコンピューターの仕事だと思うんです。逆に、人間が意志を持って「最適化しない」と判断することも求められると思いますね。矢倉さんはいかがでしょう。
矢倉氏:当たり前のことかもしれませんが、テクノロジーはあくまでも手段だと思っています。技術者としては、社会がとり得る選択肢をテクノロジーの力で増やしていくことがミッションです。ただ、先ほど話題に上がった“手触り感”や、あえてテクノロジーに頼らない部分などにもアンテナを張る必要があると、僕も再認識させてもらいました。
Tehu氏:このお話を聞いてくださっている皆さまの、課題認識や社会の見方の解像度が少しでも高まることを祈っています。テクノロジーは社会と必ず紐付いているものですので、ぜひ今日のお話を心のどこかに留めておいていただきたいですね。