求人情報サイト「バイトル」を運営するディップは、全社員約3000名を対象に、米OpenAI社の生成AI「ChatGPT」で使える200以上のプロンプト(AIに対して与える指示や要求の枠組み)を7月に公開したことを小誌の独自取材で明らかにした。加えて、全社横断のAIプロジェクトチームを新設し、現場にAIの活用を促す250名以上のアンバサダーを配置。AI活用を本格的に推進し生産性向上を目指す。
ドキュメントツール「Notion」のデータベース機能を活用した独自のポータルページを作成し、その上に業務関連のプロンプトを公開。現場の社員は目的にあったプロンプトを検索しすぐに使える。また、OpenAIの最新の大規模言語モデル(LLM)「GPT-4」に対応したSlackボットを立ち上げ、全社員がオープンなスペースで生成AIを活用できるようにした。いったいどのような狙いがあるのだろうか。
有料版「ChatGPT Plus」も使用することができ、費用は会社が全負担する。現場に配置した250名以上のアンバサダーは、全社員の生成AI活用を促すために、自らが積極的にボットを活用し、業務に使えそうなプロンプトがあればすぐにポータルページに追加していく存在。アンバサダー以外の社員も自由にプロンプトを登録できる。プロンプトを登録する際のフォーマットは統一されているため、プロンプトの品質にあまり差はないとのことだ。
「Slackボット上で社員同士が『こういう使い方してみたけどどう?』『このプロンプトを使うと作業時間が半分になった』『こんなプロンプトが欲しい』といった意見を活発に交わせる。また、同じ業界にいる人がどのようにAIを活用しているかをオープンにすることで、『自分もやってみよう』という動機が生まれやすい」と、執行役員の進藤圭氏は狙いを説明する。
求人サービスを扱う同社の営業社員は、全体の業務のうち約6割を原稿作成などの事務作業時間に充てている。同社は、求人原稿に必要な仕事条件や職場環境などを作成できるプロンプトを用意して、今まで以上にターゲットを絞った求人原稿を作ることで商談の質を向上させていく。今後3年間で営業の生産性を1.8倍に引き上げていく考えだ。
「営業業務だけでなく、新規事業の企画やエンジニアリングに関するものなど、さまざまなプロンプトを公開している。社員に積極的に使ってもらって、この業界で使えるプロンプトをどんどん追加していってもらいたい」(進藤氏)
またディップは、特定部門の課題に応じたAIの開発も進めている。例えば、社内FAQのAI 化だ。「社員からの問い合わせに対応する窓口が40以上あるため、どの窓口に問い合わせをしたらいいのかを分かっていない社員が多いので、これを解決したい。専門的な質問に答えられるAIチャットボットを構築して、24時間365日働いてくれるAIに、本来人間がやらなくてもいい業務を任せていく」と進藤氏。8月よりすでに検証を進めており、9月を目途に活用を開始する予定だ。
さらに同社は、社内だけでなく社外向けのサービスにもAIを活用していく方針。4月には「AIエージェント事業」を開発していくと発表し、これまでの「検索型」から「対話型」の求人サービスを展開していく。すでに東京大学松尾豊研究室の成果活用型企業である松尾研究所と連携して共同研究を進めており、年内までに新サービスを展開していく考えだ。
「当社が持っている200万件以上の求人データと、仕事をなかなか決めることができない求職者を生成AIでマッチングさせていく。求人サービスを対話しながら最適な仕事に出会える方法へと進化させていきたい」(進藤氏)