変化する市場環境、技術の発展、人口の減少、そしてコロナ禍により、あらゆる業界がビジネス環境の変化に巻き込まれている。家電量販店チェーンのエディオンも変化に柔軟に対応すべく、業務システムのクラウドへの移行を実施、クラウドを活用した内製化の取り組みを進めている。

7月13日、14日に開催された「TECH+ フォーラム クラウドインフラ Days 2023 Jul. ビジネスを支えるクラウドの本質」に、エディオンのITソリューション開発部 部長 松藤伸行氏が登壇。クラウド移行の経緯や移行時に重視したポイントを振り返った。

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オンプレ環境では変化に柔軟に対応できない

エディオンは、直営とフランチャイズを合わせて1200以上の店舗を持つ家電量販店チェーンだ。従業員は約1万6000人、連結売上高は7205億円(2023年3月31日現在)を上回る。

「効用の提供と完全販売によるお客様第一主義の実現」を理念とする同社は、経営の中期ビジョンに「変化する市場環境に対応し進化する企業体質の構築」を掲げている。

ビジョンの実現を目指して取り組むのは、「インフラ基盤」「事業基盤」「お客様基盤」の強化だ。松藤氏は「3つの基盤全てにITは密接に関わってくる」と話し、基盤強化にITインフラの整備は欠かせないとの見解を示した。

IT変革の方針として挙げたのは、「ビジネスをITが支える」「ITを自社でコントロールする」という2点であり、システムのクラウドへの移行と、クラウドを活用した内製化は、その方針を実現するものという位置付けだ。

同社がかつて運用していた基幹システムは10年以上前に導入したもので、オンプレミスのデータセンターでは、周辺のシステムを合わせて300〜400ものOSが稼働していた。

「比較的安定して稼働していましたが、変化に柔軟に応えられないことが課題でした」(松藤氏)

同氏は具体例として、インフラ側は運用保守に追われて人的リソースが確保できない、アプリケーションでは問い合わせの対応で1日が終わり、属人化が進んでいることなどを挙げた。さらに、人的リソースだけでなく、新しい要件への対応に際し、ハードウエアの増強に時間的リソースがかかってしまうことも課題に感じていたという。

  • クラウド移行前の課題と、課題解決に向けた取り組み

内製化で意識した、自分たちで最適な設定を考えること

既存のIT環境が足かせになり、変化への対応が後手に回っている状況を解決するため、エディオンではパブリッククラウドの導入と、それを活用した内製化を進めることを決定した。

「人的リソースを、ビジネスにより近いアプリケーション開発にシフトできるように、内製化に取り組むことを決めました。(中略)過去の成功事例に捉われず、自分たちで納得して意思決定をした上で、最適なシステム構築を目指しています」(松藤氏)

内製化にあたり、意識した点はどこか。

松藤氏によると、かねてより課題に上がっていたリソースの最適化と属人化の解消に重点を置き、「疑問点はみんなで解消して共有」「最適な設定を考える」「クラウドサービスを活用してインフラに掛かる人的コストの最小化を」などの複数のポイントを意識したそうだ。

  • 内製化にあたり、意識した点

エディオンではパブリッククラウドとして、Amazon Web Services(以下:AWS)とOracle Cloud Infrastructure(以下:OCI)を導入、マルチクラウド構成としている。アプリケーションはプラットフォーム依存からの脱却を目指し、AWS ECS、AWS Fargateを利用してコンテナ化を進めている。

また、属人化の課題を解決するため、Terraformを使った環境構築のスクリプト化を行った。松藤氏は「これまでインフラ変更時には最大性能を試算し、時間をかけてSIを調達していたが、クラウドを採用したことにより、サーバーやCPU、ディスク容量などの増減を必要に応じて柔軟に制御できるようになった」と話す。また、オンプレでは5年に1回ハードウエアのリプレースが必要だったが、これがなくなったことも大きなメリットだと言う。

クラウドならでは2リージョンでのDR対策

松藤氏は、クラウドで懸念になりかねないビジネス継続性のための対策も紹介した。

エディオンでは基幹系システムでOCIを採用しているが、東京と大阪の2つのリージョンでほぼ同等の構成を組み、基幹システムを稼働させている。常時どちらかがメイン、もう片方がバックアップサイトとして控えており、互いにファイル、データを同期させられる。

こうして、仮に大規模災害などの不測の事態が起きても、ビジネスを停止させない体制を整えた。また、ただ配置をするのみではなく、3カ月に1回はメインとサブを切り替えて運用している。切り替えはリスクが大きい一方で、DR(Disaster Recovery、災害復旧)への備えができるというメリットがある。メインサイトの切り替えは自動化・高度化しているため、切り替え作業は1時間程度で終了するそうだ。

「この構成をオンプレミスで実現しようとすると、初期費用は2倍かかりますし、ランニングコストも大きくなります」(松藤氏)

自動化の面では、TerraformとAnsibleを使って、見える化も進めている。TerraformはOCIの環境構築に、Ansibleは東京と大阪間のメインリージョンの切り替え、OS設定やミドルウエアの導入などに用いている。これにより、「人がいなくなると何も分からないということにならないようにしている」(松藤氏)と言い、課題だった属人化にも手を打つかたちだ。

成功体験へのこだわりを捨てる

講演の終盤に松藤氏は、クラウド移行で得られた効果をまとめた。

まず挙げたのは、ハードウエア保守・定期リプレースが不要であることだ。さらに、サイジングコストの削減による柔軟な拡張・縮小が実現できたことによるメンテナンス性の向上・コスト最適化がある。コスト面では、AWSのReserved Instanceなどの契約を採用することで、従来よりも約30%抑えることができている。

また、コード化したにより、構築スピードが向上したことや、属人化の排除につながったこともメリットだったと言う。

「インフラの柔軟性と俊敏性、属人化排除、大規模災害対策の構成などを得られたので、ITシステムがインフラとしてビジネスを支えられる状態になりました。また、多くの知見が社内に蓄積された、メンバー全員の自信に繋がったといったことも手応えに感じています」(松藤氏)

  • クラウド化による効果

さらにこれまでの取り組みを振り返り、松藤氏はこう語る。

「当初は不安でいっぱいでした。過去の成功体験を否定する必要はありませんが、それに捉われると新しいことにチャレンジする意識に切り替わりません。自分たちの意識改革を行いながら、手を動かして実際に試して、何が正しいのか、どうやったらできるのかを考え、学び、実現してきたのです」(松藤氏)

最後に同氏は、「今後は、事業をアプリケーション面で支えることができるよう、顧客体験が向上するアプリケーションアーキテクチャの変更を進めていきたい」と語り、講演を締めくくった。

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