岐阜大学、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、北海道情報大学の3者は7月26日、軽度認知障害と発症早期の認知症(アルツハイマー病)患者を対象に、ケルセチンを高含有するタマネギ粉末、またはケルセチンを含まないタマネギ粉末を12週間毎日摂取し、摂取前後にミニメンタルステート検査を実施した結果、ケルセチン高含有粉末を接種した群は、ケルセチンを含まない群に比べ、文章記述の点数が有意に高いことが確認されたと発表した。
さらに、単語を詳しく検討すると「良い」や「楽しい」などの前向きな表現を示す形容詞の記述が増え、また単語のつながりのある記述が増えていることがわかったことも併せて発表された。
同成果は、岐阜大大学院 医学系研究科の中川敏幸教授、農研機構 食品研究部門 食品健康機能研究領域の小堀真珠子研究領域長、北海道情報大学の西平順学長らの共同研究チームによるもの。詳細は、科学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Heliyon」に掲載された。
超高齢社会に突入している日本において、加齢に伴う認知症の増加は喫緊の課題となっている。高齢者の4人に1人が認知症やその予備群とされる軽度認知障害で、生活習慣病(特に糖尿病)が有病率に影響することがわかっており、2025年の認知症有病者数は700万人になると推計されている。
認知症と共に生きていく「共生」と、発症を遅らせる「予防」の2つが重要視されており、特に、食生活に基づく行動心理症状や認知機能低下の軽減が期待されている。しかし、機能性食品成分を含む農産物に着目し、認知症または軽度認知障害の行動心理症状や認知機能低下の軽減に対する作用を示した報告は、これまでほとんどなかったという。
そうした中で研究チームは、野菜、とりわけタマネギに多く含まれるケルセチンの認知および心理機能に対する作用をこれまで研究してきたという。今回の研究では、軽度認知障害または発症早期の認知症患者を対象とした介入試験を行い、タマネギに含まれるケルセチンの認知機能および脳血流への作用を調べたとする。
実験ではまず、ケルセチンを多く含むタマネギ(被験食品)またはケルセチンを含まないタマネギ(プラセボ食品)の加熱粉末を、軽度認知障害または発症早期の認知症患者19人に、12週間毎日摂取してもらい、摂取前後における認知機能検査および介護者の負担の度合い、さらに脳血流への影響が調べられた。タマネギ粉末は、1日11g(ケルセチンとして50mg)が食べやすい形で摂取されたという。
そして、タマネギ粉末の摂取前後のミニメンタルステート検査項目の中の文章記述の点数で、プラセボ食品に比べ試験食品では有意な改善効果が認められたとする。
またNTTデータが開発したソフトウェア「Text Mining Studio version 6.4」を用いた文章の解析では、前向きな表現を示す形容詞の記述が増えるとともに、単語のつながりのある記述が増えていることが確認されたという。この結果は、普段食するタマネギが、認知症発症前後に経験する“単語が思い出せない”などの想起障害に対して役に立つ可能性が示されているとしている。
なお、軽度認知障害または発症早期の認知症では、頭頂葉・楔前部・帯状回後方において血流が低下することが特徴だが、今回、被験食品群・プラセボ食品群共に「脳血流シンチ検査」において脳血流の改善は認められなかったという。
研究チームは今回の研究結果から、ケルセチンを多く含むタマネギの認知機能や前向きな気持ちの維持への作用が、加齢のみならず認知機能低下が始まった状態でも役立つことが示唆されたと結論付けている。