大丸松坂屋百貨店やパルコなどの持株会社であるJ.フロント リテイリング(以下、JFR)。リアル店舗の運営に長けた同社が、プロesportsチーム「SCARZ(スカーズ)」の運営を行うXENOZ(ゼノス)に出資し、esports業界に参入していることを知る人は多くないだろう。なぜ、スポンサー契約ではなく、本格的にチームに関わる選択をしたのか。JFRはesportsにどんな可能性を見出しているのか。JFR から出向し、XENOZ 代表取締役副社長を務める柏木敏弘氏に話を伺った。
JFRが目指すのは「若い世代のコミュニティづくり」
「JFRは今、従来の百貨店や商業施設の運営に加え、新しい“芽”を見つけるための出資や業務提携を進めている」と柏木氏は切り出した。その背景には、同社が持つ顧客基盤の年齢層が上がってきているという事情があるという。次世代の顧客へのアプローチ、認知度向上を意識し、VRやNFTアートといったデジタル分野への投資を積極的に行っているのだ。その1つが、esportsへの投資である。
「JFRはグループビジョンに“くらしの『あたらしい幸せ』を発明する。”を掲げています。暮らしの中にある新しい接点で事業領域を拡大し、感動を提供していくという考えに基づき、esportsへの参入が候補に上がりました」(柏木氏)
esportsはデジタル空間で若者のコミュニティを創出し、新たな居場所という価値を形成するものとして、1つの文化になりつつある。これが、JFRが考える「若い世代のコミュニティづくりがしたいという思いと合致した」(柏木氏)そうだ。
一方で、「なぜesportsなのか」「リアルな接点を持てる分野への投資の方が良いのではないか」という声がなかった訳ではない、と同氏は明かす。
「esportsは現状、若い世代だけが熱狂している分野であることも事実です。経営を判断する立場の人たちからすると、実際にどのようなものなのかを知っている人が少なく、理解を得るのには時間がかかりました」(柏木氏)
2022年10月、XENOZへの出資が実現してからも、柏木氏らは社内の理解を得るため、社内メンバーにイベント情報を発信し、実際にesportsを見てもらう機会をつくるといった社内広報を積極的に行っている。
自チームを持つことで、業界全体の活性化を狙う
ではなぜ、XENOZだったのか。
2016年に設立されたXENOZは、プロesportsチーム「SCARZ」のマネジメントや、大会・イベントの運営、ファンコミュニケーションに関係する業務などを行う企業だ。代表の友利 洋一氏自身がプロesports選手だったこともあり、esportsで夢を追う後進世代のために立ち上げたという。
JFRが数あるesportsに関連する企業や団体の中でXENOZを選んだ理由について、柏木氏は、XENOZがプロチームを所有している企業であったことを挙げた。自社でチームを持つことで、積極的にチームの強化などに関わることができる。さらにその活動を通じて、より広い視野を持って大会やメディアの運営を行うことが可能になり、「esports業界全体の活性化につながるというところを見据えた」と同氏はその理由を説明する。
「JFRはスポンサー契約などではなく、チーム強化に積極的に携わることができ、共に企業価値を上げる取り組みができる相手を探していました。XENOZが運営するSCARZは『川崎から世界へ』というビジョンを掲げています。日本発の、世界で活躍できるチームを目指すという志の高さが、JFRの求める価値観と一致したのです」(柏木氏)
Z世代向けマーケティングは「人対人」
SCARZのファンの多くはZ世代であり、XENOZでは彼らに向け、さまざまなイベントを開催している。4月には、JFRが運営するGINZA SIXで、リアルメタバースプラットフォーム「STYLY」を提供するPsychic VR Labと、体験型XRゲームのイベントを開催し、500名以上の来場者を集めた。6月には、心斎橋パルコでもファンミーティングを実施。平日にも関わらず、多数の来場者がSCARZのメンバーたちとのコミュニケーションを楽しんだ。
柏木氏はZ世代向けのマーケティングについて、「(彼らは)ビジネス的な文脈にあまり反応がない。つくり上げられたものや、企業からの発信をノイズとして捉えてしまう」と、その難しさを語る。そこでXENOZでも、マーケティングの表舞台には企業が立つのではなく、選手やストリーマー(ゲーム実況や解説動画の配信者)を打ち出す方針を取っている。重視するのは、選手目線でのメッセージ発信や動画配信など、人やチームのストーリが感じられ、ファンの熱狂度を高められる取り組みだ。実際、XENOZが手掛けたドキュメンタリー動画は100万回以上再生されており、「エンゲージメントを高め、ファンになってもらうことができている」と同氏は胸を張る。
esportsが持つ3つの魅力を広め、社会への普及を目指す
柏木氏は「esportsには3つの魅力がある」と力を込める。1つ目は、リアルなスポーツにも負けない圧倒的な熱量だ。デジタル空間であるがゆえ、現実世界ではさまざまな場所にいる全ての参加者が一体となり、熱量を体感できるのはesportsならではの大きな特長である。2つ目は、平等性だ。性別や国籍を問わず、誰もがプロ選手になれる可能性がある。年齢制限もないのはesportsならではだ。3つ目は、多様性だ。esportsが広まったことで、先に挙げたような“違い”を強く意識せず、ゲームに関わる人が「多様性を持てるようになった」と同氏は言う。
XENOZではこれからもesportsが持つ魅力を積極的に発信し、プレーヤーの育成も含め、esportsの社会への浸透を目指していく。また、実店舗を持つパルコなどと手を組み、リアルイベントを仕掛けることも計画しているという。
「esportsはまだまだ黎明期の業界です。だからこそ、我々XENOZがリーディングカンパニーになり、業界全体の発展につながる活動ができるポジションを目指していきます」(柏木氏)


