高知工科大学(KUT)は7月5日、発光性の「弾性分子結晶」に異なる発光性分子(アクセプター分子)を1~5%の割合でドーピングすることで、エネルギー移動「FRET」を起こし、その結果、「導波光」の自己吸収が大きく抑制され、従来の結晶と比べて15倍以上に光輸送機能が向上することを示したことを発表した。

同成果は、KUTの林正太郎准教授、同・松尾匠助教、同・池田浩貴大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、幅広い分野における原子やイオンから細胞や病原体などの凝集プロセスに関する分野を扱う学術誌「Aggregate」に掲載された。

小型光通信モジュールの実現には、柔軟な「アクティブ型光導波路」の開発が重要とされている。通常の光導波路は電源や光源からは切り離せないパッシブ型だが、アクティブ型は、導波路自身の発光を利用することから、パッシブ型のように光源と光導波路の接触と角度調整を必要とせず、光源と光導波路を切り離せることを特徴とし、次世代光導波路技術として期待されている。

しかし、従来のアクティブ型光導波路は柔軟性や強度に乏しいばかりか、物質の光吸収帯と発光帯が重なる際に、発光を自ら吸収してしまう現象である自己吸収によって、光輸送効率が低い状況にあることが課題だったという。

  • パッシブ型光導波路

    (a)パッシブ型光導波路。物質に光を通す際に、光源を接近させ任意の角度で集光させる必要がある。(b)アクティブ型光導波路。物質から切り離された光源で発光させることで、発光が物質に閉じ込められて導波する (出所:高知工科大プレスリリースPDF)

そうした中、研究チームはこれまでの研究にて弾力性や塑性を示すように開発された弾性分子結晶を利用したアクティブ型光導波路を開発することで、柔軟なアクティブ型光導波路の実現を目指してきたという。

弾性分子結晶を利用したこの柔軟なアクティブ型光導波路の導波効率・光輸送機能は、結晶にレーザーを照射し、導波光(output)を検出することで、減衰係数αを算出することが可能で、α値が低いほど導波効率・光輸送機能が高いといえるという。

そして今回の研究の前段階として、結晶候補として「9,10-ジブロモアントラセン結晶」の弾性変形機能、発光機能ならびに減衰係数αの算出を実施。結晶は緑色発光性の弾性分子結晶(EMC)であり、α=0.1258/μmであることを確認したほか、分子結晶におけるドーピングは容易でなく、適切なアクセプター分子を選択する必要があることから、スクリーニングよりアントラセンの9,10位に置換基を持つ化合物のみが結晶化過程において9,10-ジブロモアントラセン結晶に取り込まれることを特定することにも成功したとする。

これらの成果を踏まえ、アクセプター性分子として「9,10-diformylanthracene」が選定され、1~5%の割合でドーピングすることに成功したとするほか、発光特性は、1%以上のドーピング率で橙色発光の弾性分子混晶(EMMC)であることを確認したという。この色変化は、励起したドナー分子からアクセプター分子への発光過程を介しないエネルギー移動を表す現象であるFRETに由来していると研究チームでは説明しており、ドーピング率が低いほど光輸送機能は高い傾向を示し、1%ドーピングのEMMCでα=0.0077/μmであったとするほか、FRETによって自己吸収を大きく抑制することで、従来の結晶と比べ、15倍以上に光輸送機能が向上することを確認したとする。

  • 今回の研究成果の概要図

    今回の研究成果の概要図。(a・左)UV照射によって緑色に発光する弾性分子結晶EMC。(a・右)レーザー照射(EX)によって導波するEMC。光輸送中に自己吸収が起こり、EX時(入口)とWG時(出口)のスペクトルが大きく変化し、減衰係数が高くなる。(b・左)UV照射によって橙色に発光する弾性分子混晶EMMC。(b・右)EXによって導波する弾性分子混晶EMMC。光輸送前後のEXとWGのスペクトルがほとんど変化せず、減衰係数が低くなる (出所:高知工科大プレスリリースPDF)

なお、研究チームでは、今回のコンセプトに基づき、より効率的な光通信モジュールの実現に向けた具体的な開発が進むことが期待されるとしている。