国立天文台(NAOJ) ハワイ観測所は7月1日(現地時間)、欧州宇宙機関(ESA)が同日に打ち上げたサーベイ観測用衛星「ユークリッド」と連携するため、ハワイ島マウナケア山頂域のすばる望遠鏡と「カナダ-フランス-ハワイ望遠鏡」(CFHT)、マウイ島ハレアカラ山頂の「パンスターズ望遠鏡」(Pan-STARRS)というハワイの3つの望遠鏡が、衛星の打ち上げに先駆けて、北天における可視光・近赤外線の広域撮像を行う「ユニオンズ(UNIONS)プロジェクト」を開始したことを発表した。
UNIONSには、NAOJ ハワイ観測所の宮﨑聡所長、千葉大学 先進科学センターの大栗真宗教授(ユークリッド・コンソーシアム理事会メンバー)らの共同研究チームが参加している。
ユークリッドは、全天の3分の1以上という広い領域を対象に、何十億もの銀河をサーベイ観測して宇宙の3次元地図を作成し、ダークマターとダークエネルギーの謎に迫ることを目的とした科学衛星だ。宇宙では大気の揺らぎがないことから高解像度の観測が可能であるため、銀河の形状を鮮明に捉えることができ、重力レンズ効果の検出、中でも銀河の形のゆがみや増光の程度が小さい「弱い重力レンズ効果」の検出に力を発揮するという。
その一方で、限られた時間で全天の3分の1以上に相当する1万5000平方度もの広い領域を観測するため、可視光波長のフィルタは1つしかなく、単色での撮像となる。宇宙の奥行き方向、つまり銀河の距離を正確に決定するためには、複数のフィルタ(波長域)で同じ天体を観測する必要があり、地上望遠鏡との連携が必須となるとする。
そこでユークリッドをバックアップするのが、UNIONSだ。同プロジェクトは、ユークリッドの観測領域の3分の1弱を観測する。ユークリッド計画にとって、UNIONSは、モノクロ画像に豊かな色を添え、宇宙の正確な3次元地図に生まれ変わらせるために必要不可欠なパートナーの1つだとしている。
UNIONSの3つの望遠鏡は、それぞれ特徴が異なり、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC)は主に長い波長域、CFHTのメガカムは短い波長域、Pan-STARRSのメガピクセルカメラはその中間の波長域を担当する。そのためユークリッド衛星との連携にとどまらず、今後のハワイの望遠鏡同士でそれぞれのデータを共有しあって、共同研究を行うための連合体ともいえるとする。
すばる望遠鏡によるユークリッドへの最大の貢献は、900nmの波長域(zバンド)での観測で、ユークリッドが波長550nm~900nmで撮像する画像を、すばる望遠鏡の画像が補う形となる。宮﨑所長や大栗教授らは、ユークリッドとの連携を強化するため、「ウィッシーズ(WISHES)プロジェクト」を立ち上げ、HSCを使用して40夜相当の観測時間を獲得したという。
今回のUNIONSやWISHESに対し大栗教授は、「ユークリッド衛星計画の成功のためにはすばる望遠鏡の協力が必須である、という強い誘いを受けたことがきっかけで、WISHES計画を立案し、ユークリッド衛星計画に日本から参画しています。これは、すばる望遠鏡が国際研究コミュニティにおいて、強い存在感を発揮し続けているからこそ実現した国際共同研究です。マウナケア天文台群の仲間たちと協力して、ユークリッド衛星データを用いた日本発ないしハワイ発の面白い研究成果が出せるように頑張っていきたいと思います」と抱負を述べている。
また、ユークリッド衛星計画が始まった2000年代から同計画に着目していたという宮﨑所長は、「打ち上げを迎え、いろいろな人の夢が結実して、これまで知らなかった宇宙の謎が手に届くかもしれない新しい時代を切り拓く時が来たんだな、と思うと非常に楽しみです。今後、すばる望遠鏡が単独で成果を出し続けるのが厳しくなる中、先端的な国際ミッションと一緒に研究を進めていくことがますます大切になります。ユークリッド衛星との連携は、その先駆けとなるでしょう」とコメントしている。