自動車ディーラー向けソリューションを提供するTechnosoft Automotiveは7月3日、日本市場においてビジネスの本格展開を開始すると発表した。同日には記者会見が開かれ、日本法人であるTechnosoft Japanの設立と今後の国内における事業展開が明かされた。
同社はシンガポールに本社を置く企業で、Microsoft Dynamics 365をベースとしたDMS(Dealer Management System)である「Technosoft Automotive Solution」(TAS)を提供する。同サービスはSaaS(Software as a Service)で提供される。
サービスの基本機能とローコード開発ツールのMicrosoft Power Appsが利用できる「TAS DMS Functional Plan」の提供価格(税抜)が9100円(1人・1月あたり、1ドル=140円換算)となる。Microsoft Dynamics 365 for Sales & Field Service Enterprise Editionを含むサービスの全機能を利用できる「TAS DMS Full Users」の提供価格は2万1700円(1人・1月あたり、1ドル=140円換算)だ。
CDPやCRMを用いてデジタルマーケティング・データ活用を支援
会見の冒頭では、Technosoft Automotive CEOのフレディ・タン氏が登壇し、日本市場に向けたコミットメントを表明した。
「満を持して日本市場に参入できたことを嬉しく思う。日本は2万以上のディーラーを有する魅力的な市場だ。一方で、ディーラーの統廃合が進み、人材不足やDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた対応に直面している。当社のソリューションによって業務オペレーションを効率化し、車両オーナー・OEM(完成車メーカー)・ディーラー間のコミュニケーションを促進させ、エンドユーザーに最高のおもてなし体験を提供したい」とタン氏は述べた。
同社はこれまで、TASを通じてCDP(Customer Data Platform)やCRM(Customer Relationship Management)を用いたデジタルマーケティングの機能や、顧客や自動車に関するデータの可視化機能を提供してきた。
今後は車両の詳細情報と生成AI(ジェネレーティブAI)を、車両オーナーや車両検査担当者向けのアプリと組み合わせて活用できるようなサービス展開を検討しているという。また、将来的に二酸化炭素排出量などの非財務データが月次決算に求められる可能性を考慮し、納車前チェックや検査・整備といったディーラー業務におけるCFP(Carbon Footprint of Products)のデータもソリューションに取り込んでいく意向だ。
日本進出にあたって、タン氏は自動車小売業におけるデジタル化の重要性を指摘する。
「若年層はオンラインで情報を収集し、ディーラーを訪れた段階で何を買うかすでに決まっている。ディーラーは古い営業手法を継続しているだけでは若い顧客を獲得できない。オムニチャネルでのセールス・マーケティングを実現するためには、透明性が高く正確なデータを扱えることが重要だ。当社のソリューションは年に2回メジャーアップデートを行っており、最新のソリューションをユーザーに提供できる。また、データはMicrosoft Azure上で管理されており、カスタマー単位のテナントで保護している」(タン氏)
国内会計システムベンダーと連携し、ローカライズに注力
Technosoft Japanは今後、海外を拠点とする日系OEM・ディーラーや、日本を拠点とする外資系OEM・ディーラー、マルチブランド対応の国内ディーラーに対してTASを提供し、5年間で1000店舗、10年間で4000店舗の国内導入を目指す。
国内のサービス拡販にあたっては、海外で協業実績のあるコンサルティングファームと協働していく。他方で、会計領域のシステムについてはOEMやディーラーですでにパッケージで導入されているケースが多い。Technosoft Japanでは、そうした既存の仕組みを活用できるように国内の会計システムベンダーと連携し、既存システムとのコネクタの開発やAPI構築を進める方針だ。
Technosoft Automotive COO 兼 Technosoft Japan Presidentの吉島良平氏は、「国内のDMSは個別開発によってアプリケーションが分断され、データの利活用が難しいのが現状だ。国内OEM・ディーラーにおけるTASの導入・展開・保守をサポートすることで、レガシー化してしまったDMSに変革をもたらしたい。海外製のサービスを国内で展開するうえでは、その国の商習慣に対応するローカライズが何よりも重要と考える。今後はローカライズに強みを持つベンダーとのパートナーシップ活動も拡充していく」と今後の事業展開を説明した。
国内の事業展開においては、日本マイクロソフトとも協業する。日本の商習慣に合ったソリューションの提供や、Microsoft Dynamics 365の機能提案、ユースケースの紹介などを進めるほか、自動車小売業界における生成AIの活用を支援していくという。
日本マイクロソフト 執行役員 常務 モビリティサービス事業本部長 竹内 洋二氏は、「自動車業界においてもAIの活用に向けた議論が進められている。例えば、デジタルマーケティング分野では市場調査のデータ集約・要約のほか、生成AIで作成したペルソナを用いた顧客ニーズの分析などが検討されている。また、アフターセールスのマニュアル類を簡素化するうえでも生成AIを利用できるだろう。Technosoft Japanとともに自動車小売業界に生成AIを展開していきたい」と語った。
このほか、日本マイクロソフトはDMSにおける市民開発の適応においてもTechnosoft Japanと協調する方針だ。自動車保有関連手続きにマイナンバーカードを適応させることが政府により検討されるなど、今後も自動車にまつわる各種制度の変更が起こりえる。そうした変化に柔軟に対応するためには、「DMSを毎回改修するのではなく、必要な機能をその都度実装していくのが現実的」と両社は考えており、OEMやディーラーに対してローコード・ノーコード開発プラットフォームの利用を両社で提案していくという。