沖縄科学技術大学院大学(OIST)は6月30日、動的睡眠段階にあるタコの脳活動や体色模様を調査し、それらが覚醒時の神経活動や体色模様とよく類似していることを確認。人間などの哺乳類と同様、タコにも静的睡眠と動的睡眠いう2段階の睡眠段階があり、動的睡眠はレム睡眠と似た性質を持っていることを明らかにした。
同成果は、OIST 計算行動神経科学ユニットのアディティ・ポフレ大学院生、同・真野智之博士、同・サムエル・ライター准教授に加え、米・ワシントン大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。
睡眠はヒトに限ったものではなく、すべての動物が何らかの形で行っている。しかし、睡眠にレム睡眠とノンレム睡眠という2段階があるのは脊椎動物だけだと考えられてきたという。そうした中、今回の研究でタコにも動的と静的の2段階の睡眠があることが発見された。
研究ではまず、活動的な睡眠段階にあるタコが本当に眠っているのかどうかを調査するため、物理的な刺激を与えて反応が調べられた。その結果、静的睡眠・動的睡眠どちらの段階でも、覚醒時よりも強い刺激を与えなければ反応が見られなかったという。また、タコの睡眠を妨げたり、動的睡眠段階の途中で睡眠を中断させたりすると、その後に動的睡眠段階に入るタイミングが早まり、頻度も増すことが確かめられた。このような睡眠不足を補償するような行動は、タコが適切に機能する上で動的睡眠段階が不可欠であることを裏付けるものとする。
次に、覚醒時と睡眠時のタコの脳活動が調査されると、静的睡眠において過渡的に起こる特徴的な脳波が観測されたという。これは、ノンレム睡眠中の哺乳類の脳に見られる波形の「睡眠紡錘波」によく似ているとする。この波形が正確にどのような機能を果たすのかは、人間においても解明されていないが、記憶の固定に役立っていると推定されている。今回の研究では最新の顕微鏡が用いられ、タコの脳の中でも学習や記憶と関連する領域に睡眠紡錘波が発生していることから、睡眠紡錘波様の脳波は人間の脳と同様の機能を持っている可能性が示された。
さらに、タコはほぼ1時間に1回、1分程度の動的睡眠段階に入ることが確認され、タコの脳活動では、人間のレム睡眠と同様に、覚醒時の脳活動と非常によく似ていることが明らかにされたとした。
続いて、覚醒時と睡眠時のタコの体色模様の変化について、8Kの超高解像度で撮影して解析を実行。タコは覚醒時、皮膚にある無数の小さな色素細胞を利用して膨大な種類の体色模様を作り出し、さまざまな背景に合わせて身体をカモフラージュさせたり、捕食者を威嚇したり、仲間とコミュニケーションを取ったりするが、解析の結果、動的睡眠の間タコの体色模様は覚醒時に見られるのと同じ模様を次々に示すことが見て取れたとした。
動的睡眠状態と覚醒状態が似ている理由としては、覚醒時に上手く擬態行動を取れるよう体色変化を練習している説や、単に色素細胞を維持するために行っているという説もあるというが、覚醒時に狩りをしたり、捕食者から隠れたりした体験をタコが睡眠中に再現して学習しており、それぞれの体験に応じた体色模様を再現しているのではないかという説もあるという。つまり、夢を見るのと同じような現象が起きている可能性があるとのこと。
この点については、ヒトの場合は目が覚めてはじめて見た夢の内容を言葉で伝えられるが、タコの場合はそれとは異なり、体色模様の変化から睡眠中の脳活動を視覚的に読み取ることができる可能性があるという。ただし現時点で、これらの説に正解があるのかなどは不明であり、研究チームでは今後もさらに調査を進めていくとした。