東京大学(東大) 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、東大大学院 理学系研究科、愛媛大学、国立天文台(NAOJ)の4者は6月29日、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いて約129億年前の宇宙に存在する2つのクェーサーを観測し、中心に活発な大質量ブラックホールが潜む銀河の姿を捉えることに成功したと発表した。

  • ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。

    ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。(c)NASA/Chris Gunn(出所:愛媛大プレスリリースPDF)

同成果は、Kavli IPMUのシューヘン・ディン特任研究員、ジョン・シルバーマン教授、北京大学 カブリ天文天体物理研究所の尾上匡房カブリ天体物理学フェロー、東大大学院 理学系研究科 天文学専攻の柏川伸成教授、同・嶋作一大准教授、同・理学系研究科 天文学教育研究センターの河野孝太郎教授、愛媛大 宇宙進化研究センターの長尾透教授、同・松岡良樹准教授、NAOJ ハワイ観測所の青木賢太郎シニアサポートアストロノマーら40名以上の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。

大半の銀河の中心に位置する大質量ブラックホールは、初期宇宙でどのようにして形成されたのかについて未解明だ。さらに現在の宇宙では、大質量ブラックホールとそれを抱える親銀河の大きさに10桁もの差にも関わらず、両者の重さに強い正の相関があることがわかっている。しかし、その理由はわかっていない。

こうした銀河と大質量ブラックホールの関係性がいつ始まり、お互いにどのように影響を与えて成長してきたのかを明らかにするためには、なるべく過去の宇宙に存在するクェーサーの親銀河の観測が不可欠だという。しかし初期宇宙となると銀河の見かけの大きさは小さく、明るさも暗くなり、さらに明るく輝くクェーサーの光の方が強いために埋もれてしまうため、親銀河の光を分離して観測することは極めて困難だという。

そこで研究チームは今回、JWSTを用いて赤方偏移z~6を超える129億年前の宇宙に存在するクェーサー2天体を観測したとする。今回は、JWSTの近赤外線カメラ「NIRCam」を用い、2022年10月26日にクェーサー「HSCJ2255+0251」を、同年11月6日にクェーサー「HSCJ2236+0032」を観測したとのこと。2天体は約1時間ずつ観測され、波長1.50μm、3.56μmの2つの近赤外線画像が取得された。

両クェーサーは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC)による大規模撮像探査「すばるHSC戦略枠観測プログラム」(HSC-SSP)によって発見された天体だ。研究チームはこれまでに、HSC-SSPを使うことで160個超のクェーサーを初期宇宙に発見しており、その多くが、同時代のほかのクェーサーと比べて10倍ほど暗く、当時の宇宙の代表的な明るさのものだという。研究チームは、これらの暗いクェーサーであれば、その光に邪魔されることなく親銀河の星の光を捉えられると考察し、今回のターゲットに選んだとする。