立教大学は6月22日、宇宙X線観測衛星「チャンドラ」の世界最高の角度分解能を最大限に活用した独自の画像再合成法「デコンボリューション法」の開発に成功し、これを用いて超新星残骸カシオペヤ座AのX線画像の鮮明化に成功したことを発表した。

  • (左)チャンドラによる超新星残骸カシオペヤ座Aの観測画像。(右)今回の手法を左画像に適用した結果。画像全体が鮮明化されている。

    (左)チャンドラによる超新星残骸カシオペヤ座Aの観測画像。色とX線のエネルギーの対応は、赤:0.5keV~1.2keV、緑:1.2keV~2.0keV、青:2.0keV~7.0keVに対応。(右)今回の手法を左画像に適用した結果。画像全体が鮮明化されている。(出所:立教大Webサイト)

同成果は、立教大 理学研究科 物理学専攻 山田研究室の酒井優輔大学院生、同・山田真也准教授、同・佐藤寿紀助教(現 明治大学講師)、同・早川亮大研究員(現 高エネルギー加速器研究機構 研究員)、同・日暮凌太大学院生(研究当時)、同・小湊菜央大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

X線で宇宙を見ると、人間の目では見えない高エネルギーの宇宙現象について調べることができる。超新星爆発や、その後にできる中性子星・ブラックホールなど、目が良い(=空間分解能が良い)装置で観測することで、未知の宇宙の姿を明らかにできると期待されている。

NASAによって1999年に打ち上げられ、2023年現在も運用中のチャンドラは、0.5秒角という、X線観測衛星の中で最も高い空間分解能を誇る。同衛星はこれまで、さまざまな高エネルギー物理現象を明らかにしてきたが、X線の視力に直結する集光装置(X線望遠鏡)は、光軸から離れるほど、像が一点に綺麗に集光されにくくなるという課題があった。こういった理想的な点像からのずれの度合いは、点広がり関数(PSF)と呼ばれている。光軸からの距離が遠くなるほど、集光力が下がるためPSFの広がりは大きくなる。つまり、観測された画像は真の天体像そのものではなく、場所ごとに集光力の異なるレンズで見たものになるという。

  • シミュレーションで得られた単色エネルギー(2.3keV)の場所ごとのPSFを等間隔で表示したもの。カラーはPSFの確率分布を表す。

    (背景画像)チャンドラにより2004年に観測されたカシオペヤ座Aのモノクロ画像。(カラー画像)シミュレーションで得られた単色エネルギー(2.3keV)の場所ごとのPSFを等間隔で表示したもの。カラーはPSFの確率分布を表す。(出所:立教大Webサイト)

真の天体像を見るためには、光の到来方向によって集光性能が異なる影響を補正する必要がある。そのためによく使われる手法として、画像デコンボリューション法がある。同手法は、事前にシミュレーションなどで得たPSFと観測画像を照らし合わせて、数学的な処理によってPSFの影響を補正し、真の鮮明な画像を推定するというもの。天文学においてはその1種である「Richardson-Lucyデコンボリューション」(RL法)がよく利用される。RL法は、ベイズ推定を用いた反復処理により真の鮮明な画像を推定するというものである。

デコンボリューション法を実際に適用する際には、1つの観測画像に対して、1つのPSFを使う場合が多いが、単一のPSFを用いるだけでは、チャンドラ衛星の観測画像全体に対して高精度なデコンボリューションはできないという。そこで研究チームは今回、場所ごとの像の歪みを正しく補正し、真の天体像を推定することを目指し、デコンボリューション手法にPSFの場所依存性と取り入れる方法を考案したとする。

今回の研究では、RL法をベースとし、場所ごとのPSFを計算に組み込むための新しい手法が開発された。研究チームは、RL法の計算方法を見直し、複数のPSFを計算過程で取り込めるように改良を施したとする。結果として、観測画像全体でピクセルごとにPSFを用意すると、実用上は非常に計算コストがかかってしまうことがわかったという。そのため、ある一定間隔ごとにPSFを切り替える設計にすることで、計算の高速化を実現したとのことだ。

また、明度によって生じる切り替え部分の人工的な線の発生を抑えるために、独自の補正方法も開発したとする。このようにして、チャンドラ衛星の観測画像全体でも実用的な計算時間で、位置依存性のあるPSFを用いたRL法の開発に成功したとしている。

研究チームは新手法の原理実証のため、超新星残骸カシオペヤ座Aに新手法を適用したとのこと。チャンドラの観測画像と、独自手法を適用した結果を比較すると、像のぼやけ具合が大きくなる画像の右側において、独自手法の方が細かい構造が鮮明化されていることが確認されたとする。このように、超新星残骸カシオペヤ座Aに対して、PSFの空間変化を適切に扱い、観測画像全体に対してデコンボリューションを施したことで、従来よりも鮮明な天体像が得られたとしている。

  • (左)観測生画像(0.5keV~7.0keV)。(右)左の観測画像に対し、場所ごとのPSF用いた位置依存性のRL法の反復回数200回の結果。

    (左)観測生画像(0.5keV~7.0keV)。(右)左の観測画像に対し、場所ごとのPSF用いた位置依存性のRL法の反復回数200回の結果。(出所:立教大Webサイト)

チャンドラ衛星は20年以上にわたって観測を行っていることから、今回開発された独自手法は、空間的な時間発展や未知の構造の発見、動きの高精度の計測などさまざまな活用が期待できるという。研究チームは、新手法の適用によってX線観測の視力が良くなることで、電波や可視光観測など、多波長で宇宙を見る力の幅が広がると考えているとしている。