東北大学発宇宙ベンチャーのElevationSpaceは6月21日、同社が開発中の、宇宙環境を利用した実証・実験を行うことができる宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」シリーズの初号機(2025年打ち上げ予定)について、ペイロードの搭載量が積載可能上限に到達したため“完売”となったことを発表した。
また宇宙実証ニーズの高まりを受け、サービス提供の本格開始を予定から2年早め、大型サービス機の「2号機」を2026年に打ち上げることを決定し、ペイロードの募集を開始したことも併せて発表された。
日本が強みを持つ自動車部品や電子部品などを宇宙転用するためには、宇宙特有の放射線、真空や熱といった環境に耐えられるかを確認する必要がある。しかし、宇宙環境で性能を試験する機会が限られており、民生技術の宇宙転用が進まない障壁になっている。この問題は、2023年6月に決定された、今後10年の日本の宇宙政策の基本方針を示す「宇宙基本計画」の中でも課題として挙げられている。
しかも、その数少ない機会の場である国際宇宙ステーション(ISS)は、2030年末で運用が終了となる。2030年以降、ISS「きぼう」日本実験棟のような、日本が宇宙環境を利用できる場が確保できる時期は現時点で不透明な状況であり、最悪の場合、長きにわたって空白期間ができてしまう可能性もある。
このような問題を解決するためにElevationSpaceが開発を進めているのが、ELS-Rシリーズだ。同サービスは、無人の小型衛星を用いて、宇宙環境を利用するとともに地上での回収も行えるプラットフォームであり、ISSに比べて高頻度に利用できる点、実験内容を自由度高く設定できる点、計画から実証・実験までのリードタイムを短くできる点などを特徴としている。今回、ペイロードが積載可能量の上限に到達し完売となったことが発表されたELS-R初号機は、軌道離脱、大気圏再突入、そして回収という技術を実証するための機体だとする。
なお初号機では、IDDKとユーグレナによる実験・実証計画が公表されている。IDDKは、ワンチップ顕微観察技術を用いて、小型人工衛星内での微生物・細胞の培養状況センシング、および顕微観察画像取得を可能とする小型バイオ実験環境の実証を行う。一方のユーグレナは、微細藻類ユーグレナの宇宙空間での培養により、宇宙環境が生物に与える影響を調べ、それを生きた状態で地球に持ち帰る。同社によると、国産宇宙機による生きた状態での生物回収は日本初の試みとなるという。その他、企業名・実証内容非公表の案件として、宇宙機用小型推進システム、宇宙転用を目指す車載コンポーネントなどの実証が行われる予定だとしている。
そして、初号機に対して想定を上回るニーズがあったことや、より早い時期に宇宙環境での実証・実験を行いたいというニーズが顕在化したことを受け、ElevationSpaceは2028年の打ち上げを構想していた2号機の規模を変更した上で、打ち上げ時期を2年早め、2026年に打ち上げることを決定した。2号機についても、宇宙機部品や宇宙転用を目指す高性能素材の宇宙実証、エンターテイメント利用などを希望する企業と、搭載可能性に関する連携をすでに始めているという。
同社は今後も、宇宙実証機会の提供によって民間事業者のさらなる宇宙産業参入を促進し、宇宙の安全保障や産業力強化に貢献できるよう、研究開発およびパートナー企業との協業を進めていくとしている。