アマナイメージズは6月20日、「日本画像生成AIコンソーシアム(Japan Image Generative AI Consortium、略称:JIGAC、ジーガック)」の設立を発表した。

同コンソーシアムは、画像を中心とするビジュアル素材を生成するAIを、日本社会において安心・安全に活用するための持続可能な枠組みの議論と実証を行うことを目的としたものだ。同日にはコンソーシアム設立の趣旨と、今後の活動を説明する記者発表会が開かれた。

【関連記事】
≪IllustratorとAdobe ExpressにジェネレーティブAI「Adobe Firefly」搭載へ≫
≪「生成AIの利用ガイドライン」ひな型をJDLAが公開、社名を入力してすぐに使える≫

持続可能な画像生成AIの枠組みに必要な3つの環境を検討

記者発表会では、まず、画像生成AIの利用における権利面での課題が示された。現状、画像生成AIの開発と同AIを利用したサービスの提供にあたっては、権利者・創作者の著作物(画像)のデータをクローリングやスクレイピングで収集する。そして、それらのデータを基にしたオープンデータセットが画像生成AIの開発者・提供者に利用されている。

権利者・創作者の著作物の保護は著作権法が前提となるものの、画像生成AIの学習利用に権利許諾が必要な場合の線引きが難しいという。また、AIが画像を生成する段階で学習データと類似物が生成されるリスクへの対処や、AIによる生成物が著作物に該当する場合に関する整理がされていない点が課題となる。

  • 画像生成AIの権利面の課題

    画像生成AIの権利面の課題

JIGACの代表を務める、アマナイメージズ AI倫理対応・政策企画責任の望月逸平氏は、「G7(主要国首脳会議)や各国政府など、行政および関連団体で法的なルール整備についてさまざまな議論が行われている。一方で、画像生成AIが実社会で利用されるためには、ビジネスサイドが主導した具体的かつ実践的な枠組みの議論や実証が必要と考え、そのための場としてコンソーシアムを設立した」と明かした。

  • 日本画像生成AIコンソーシアム 代表 望月逸平氏(アマナイメージズ AI倫理対応・政策企画責任者)

    日本画像生成AIコンソーシアム 代表 望月逸平氏(アマナイメージズ AI倫理対応・政策企画責任者)

JIGACでは、画像生成AIに関連した技術動向、法制度動向、ニーズ、ボトルネックなどの情報交換とともに、「学習データ環境」「コミュニケーション環境」「収益分配環境」の議論と、環境構築において必要な企業・行政などを巻き込んだ検証活動を行う予定だ。

学習データ環境については、画像生成AI開発ベンダーの権利許諾に関する方針や、ユーザーの学習素材に対するリスク許容度などについて議論する。コミュニケーション環境では、権利許諾が必要な場合の意思表示手段や、画像生成AIの学習後に意思表示を行った場合の実効性担保の方法などを比較・検討する。収益分配環境については、収益分配の手段や透明性確保の方法の洗い出しなどを行うという。

望月氏は、「AIの学習段階で画像の権利者・創作者の許諾が必要な範囲、また画像生成AIのユーザーも含めたステークホルダーの倫理として許諾を取ることが適切な範囲を検討すべきだ。そこでは、画像生成AIに学習されたくない、あるいは学習されてもよいという意思表示と、それらに応じた適切な対価が必要であり、その方法と実効性・透明性を備えた枠組みの構築が必要と考える。新たな枠組みを構築することで、学習段階や生成段階の権利侵害およびトラブルリスクを最小化できるだろう」と語った。

  • 「日本画像生成AIコンソーシアム」の主な活動内容

    「日本画像生成AIコンソーシアム」の主な活動内容

3カ月に1回の全体定例会で意見発信、2024年に実証実験の予定

JIGACには、画像ライブラリ、AI開発者、ユーザーの実務家、研究者、法律家など、日本国内のAIやコンテンツ領域で実務に携わってきた関係者が参画する。現在は約20人が参画しており、当面は個人の有識者や実務家の集合体として活動をスタートするが、企業を巻き込んだ活動を拡大し、企業の参画も募る予定だという。

「法的・倫理的なルールに基づいたシステムやサービスを議論して、必要に応じて産業界に意見として発信。いずれは提言も行っていければと考えている」(望月氏)

今後は3カ月に1回、全体定例会を実施。定例会後にコンソーシアムとしての意見を発信し、実証実験は2024年春に実施するという。

  • 「日本画像生成AIコンソーシアム」への参画を表明した企業

    「日本画像生成AIコンソーシアム」への参画を表明した企業

発表会には同コンソーシアムへの参画を表明した会員が登壇し、今後の活動への抱負を語った。

シーラテクノロジーズ グループ 執行役員 CAIO(最高AI責任者)の李天琦氏は、「当社では不動産データをリアルタイムに収集して分析・スコアリングするサ―ビスや、生成AIを活用した不動産取引業務の効率化サービスなどを提供している。また、個人的にもコンピュータビジョンやGAN(Generative Adversarial Network、敵対的生成ネットワーク)などAIの社会実装に携わってきており、これまで培った知見やノウハウをコンソーシアムで生かしたい」と述べた。

  • シーラテクノロジーズ グループ 執行役員 CAIO(最高AI責任者) 李天琦氏

    シーラテクノロジーズグループ 執行役員 CAIO(最高AI責任者) 李天琦氏

また、電通グループ AI MIRAI統括 児玉拓也氏は、「ビジネスで画像生成AIを活用する領域としては、広告やクリエイティブが思い浮かぶだろう。しかし、『法的にOK』だけでは踏み込みにくく、企業にとって使いにくいのが現状だ。私は画像生成AIを活用する側であると同時に、国内だけでも1000人以上のクリエイターを抱えるクリエイティブ企業の一員でもある。『問題ないAIの使い方』だけでなく、クリエイターに貢献する立ち場としても新しい価値を提示していきたい」と意気込みを語っていた。

  • 電通グループ AI MIRAI統括 児玉拓也氏

    電通グループ AI MIRAI統括 児玉拓也氏