ChatGPTをはじめとする生成AI(Artificial Intelligence:人工知能)に関する話題を、連日のように目にする。少し前までは信じられなかった技術だが、すでに業務効率化のために活用しているという人も少なくないだろう。

テクノロジーによって急激に変化する社会の中で、これからの時代を生きるビジネスパーソンは、AIなどの最新技術とどのように向き合い、そして付き合っていくべきなのだろうか。これまで外資系企業の複数社で組織開発や戦略人事領域を主導してきた、EpoChの代表取締役社長を務める遠藤亮介氏が語ってくれた。聞き手は、「Biz×Tech」人材を育成するテクノロジーブートキャンプ「Tech0(テックゼロ)」を運営する濱田隼斗氏。

前編中編では、組織が生き残るために必要な社員の「WILL(意志)」と「CAN(できること)」や、「Biz×Tech」人材の重要性についてお届けしてきた。最終回となる今回は生成AIなどのテクノロジーと共存して共創するためのヒントを、ユーモアのある例を交えながら語ってもらった。また、これからの時代に選ばれる上司・リーダーになるためのポイントにも触れてもらった。

テクノロジーを使えない人は「開店すらできないレストラン」の意味とは?

濱田氏:「AIによって将来なくなる職業」の話題を目にする場面もありますが、生成AIを脅威に感じるのではなく共創のパートナーとして活用することで、自身の新たなキャリアが見えてくると思います。

生成AIを上手に活用するために、人間がすべき本質的な作業とAIに任せてもよい作業に分けられるんじゃないかと思うのですが、どのように切り分けて考えたらよいのでしょうか。遠藤さんなりの知見はありますか?

  • Tech0 代表取締役CEO 兼 Microsoft AI/ML Specialist 濱田隼斗氏

    Tech0 代表取締役CEO 兼 Microsoft AI/ML Specialist 濱田隼斗氏

遠藤氏:漠然としたイメージですみません。レストランの経営者の視点で一緒に考えてみましょう。これまでの世界は、食材や調理道具、味付けの工夫によって自分のレストランならではの料理を提供できていました。

しかし、これからの世界は、誰もがハイスタンダードな食材や調理道具を手に入れられるような状態です。差が生まれるのは、誰がどのようなアイデアで調理をするのかです。そうなると、食材と調理道具をきちんと理解して使い分ける必要があります。

他のライバルが最良の食材と調理道具を入手している中で、自分だけそれを選ばないという人はいないはずです。人気がないレストランになる以前に、もはや開店すらできません。そして、最後に残る仕事は、調理をする人の腕前や工夫と、料理を提供する人のサービスや対話力などです。つまり、「顧客体験」の価値です。

  • EpoCh 代表取締役社長 遠藤亮介氏

    EpoCh 代表取締役社長 遠藤亮介氏

これをテクノロジーに置き換えて考えると、生成AIのような高度な技術を誰もが使えるような時代には、同じツールを使ってどのような顧客体験を生み出すのかが大事なポイントです。サービス提供価値の差別化のためにも、ツールを理解して使いこなす必要があります。

仮に、誰もが同じ食材と調理道具を入手できたとしても、調理する人が何を提供したいのか(WILL)と、何ができるのか(CAN)によって創意的な料理が作れるはずです。それこそが差別化であり、これからの時代に選ばれる個人・企業になるエッセンスかなと思います。

濱田氏:レストランの例をお借りします(笑)。お腹がすいている人にどんな料理を出して、どんな体験をしてもらって、どんな気分になってもらうのか。そして、その目標を達成するためにどんなコンセプトのお店を作るのかが、人間のすべき仕事だというわけですね。

遠藤氏:まさにその通りです。生成AIなどのテクノロジーを怖がって理解しようとしないということは、レストランの例だと、自分自身で物流を止めてしまって食材を入荷せず、開店できずにいるような状態です。

  • 遠藤亮介氏と濱田隼斗氏

AIは自分のWILLとCANを最大化するための副操縦士

濱田氏:遠藤さん自身についてお聞きします。遠藤さんの専門は組織開発やHR(人事)領域ですが、その領域でこれからどのようにテクノロジーと「共創」したいと考えていますか?

遠藤氏:戦略人事の分野で支援できることが多いと思っています。私はもう15年以上さまざまな外資系企業で戦略人事に携わってきましたので、これが自分の強みです。これからは日本型の組織の中でも社員一人一人が自分のWILLとCANを発揮できる必要がありますので、そのお手伝いをしたいです。そこに戦略人事が介在する価値は大きいはずです。

個人のキャリアオーナーシップをWILLとCANに基づいて明言できる人材が国内に一人でも増えないと、本来は明るいはずの日本の未来が曇ったままになってしまい、グローバルから取り残されかねません。

だからこそ、個人のWILLとCANを持っていてすでに表現している人はもちろん、WILLとCANを持っているけど出し方が分からない人や、そもそも出せる環境にないような人を支援したいですね。私が伴走しながらその人が前進するための力になれそうです。

この際には、先ほどお伝えしたような、AIに任せる仕事と私自身が担う仕事の違いが大事です。AIには対話して相手を理解するような性能は無いので、感情や五感を伴ってコーチングやアドバイザリーを行うのは間違いなく人間ならではの仕事です。この技術と能力はAIに奪われるものではないですし、奪わせる気もありません。

その上で、AIを使って業務を効率化して時間を創出するように、私の本質的な仕事であるコーチングやアドバイザリーを最大化するために、テクノロジーを活用したいと思います。

濱田氏:最近では、「AIはCopilot(副操縦士)だ」と言われることもあります。まずはAIに近づいていみて、AIには何ができて何ができないのかを理解しないと、同じ航空機を一緒に操縦する仲間にはなれません。

遠藤氏:AIが副操縦士だというのは良い例えですね。AIは副操縦士であり共創の相手ですが、最終的な舵を取るのはやっぱり人間です。あくまで副操縦士として、自分の価値観を最大化するためのパートナーとして付き合っていくべきでしょう。

  • 遠藤亮介氏と濱田隼斗氏

あなたは選ばれる上司になれるか?

濱田氏:最後に、企業の経営者や組織のリーダーである立場の方々にメッセージをお願いします。

遠藤氏:経営を担っている方や組織のリーダーとして働いている方は、今まさに間違いなく訪れているテクノロジーの進歩という現実から目を背けないでください。テクノロジーとは、自分自身はもちろん家族や周りの人のことを前進させてくれる大事なものです。

「仕事が奪われる」とか「立場が危うくなる」といった恐怖感から自分の立ち位置を守ろうとするのではなく、その恐怖感を良い意味でプラスの危機感に変えていただいて、まずはテクノロジーを触って理解してみてほしいです。せっかく誰でも使えるものですし。

若い世代の方々は抵抗感なく最新の技術に触れています。これからの組織を担っていく世代の方と共通の技術を活用して共鳴できないと、上司としても組織としても選ばれない存在になってしまいます。

まずはChatGPTにご自信の経歴と性格を入力して「私に向いてる仕事は何ですか?」と聞いてみるような、ちょっとしたレベルで良いと思います。ぜひ上手にテクノロジーと共創してほしいです。