物流の世界は、輸送の機械化、荷役の自動化、管理・処理のシステム化と、これまで3回の大きな変革を経て、現在第4のイノベーションが進みつつある。「ロジスティクス4.0」と呼ばれる今回の変革では、次世代テクノロジーの進化によって物流ビジネスの装置産業化がもたらされるという。
5月15日~26日に開催された「TECH+ Business Conference 2023 ミライへ紡ぐ変革」の「Day9 物流DX」に、ローランド・ベルガー パートナーの小野塚征志氏が登壇。「Logistics 4.0-DX による物流ビジネスの進化」と題し、物流ビジネスの変化や、業界で勝ち残るための方法について解説した。
「省人化」は長い目で設計する必要がある
講演冒頭で小野塚氏は、ロジスティクス4.0では「省人化と標準化が重要なキーワードになる」と述べた。
省人化とは、ロボットや自動運転の普及により、輸送や荷役といった物流の各領域で人の介在を要するプロセスが減少することを指す。ただ、出荷や運送作業に必要な人数が減っていくことは間違いないが、その変化はある日突然起きるわけではない。
「省人化は、必要な人数が少しずつ減り、誰でもできるようになる、ハードな仕事がなくなるといった過渡期を経ながら少しずつ進んでいきます。こうした時間軸の中で、物流会社はどのような戦略を採るべきか考える必要があるのです」(小野塚氏)
トラックの自動運転を例に挙げても、すぐに全てが自動化されるわけではないが、国内でも2024年度には新東名高速道路に自動運転車用レーンを設置し、深夜時間帯には自動運転トラックの実証運行を行う計画が進行中だ。自動運転トラックにいつ投資するかといった設備投資計画も、「今まさに考えなければならない時期に来ている」と同氏は話す。
小野塚氏曰く、物流センターのロボット化についても、自動運転化と似た傾向が見られる。ローランド・ベルガーが特にロボット化が進んでいる欧州で、「今後どのくらいのスピードでロボット化が広まっていくか」をシミュレーションしたところ、「2030年の時点で150万人分の作業がロボットに置き換わる」という予測結果が出ているという。
しかしこれは全作業員の4割程度でしかなく、2030年でも6割の作業は人間が行うことになる。つまり、作業ロボットと人間が共存した上で、どうしたら効率的なオペレーションになるか、企業側は10年、20年という長い目で見て設計することが重要になるのだ。
標準化とは「デジタルに色々とつながる」こと
省人化によって現場がデジタル化し、物流の機能や情報が企業、業界間の垣根を越えてつながるようになると、標準化が起きる。各社独自のシステムではなく、広くつながることができる標準的な仕組みが必須になるためだ。
小野塚氏は標準化を「デジタルに色々とつながること」だと表現する。例えば調達、生産から販売までのサプライチェーンがデジタルでつながる垂直統合や、企業の垣根を越えて情報を共有することで空きトラックや空き倉庫を共用できる水平統合といった標準化がある。物流以外の情報をつなぎ、従来の物流業界の範囲を超えるような規模での標準化が起こることも考えられるだろう。
物流の範囲を超えた標準化の例として小野塚氏は、Everstream Analyticsが提供するプラットフォームを紹介した。このプラットフォームでは災害や事故など、物流だけではないさまざまな情報の連携が可能だ。例えば、港が封鎖された時や、事故で通行できない道路がある場合にいち早くアラートを配信する。さらに、別ルートや代替となる別の輸送手段の提案も行っている。つまり、リスクの評価、モニタリング、危機発生時の対応の3つの機能を兼ね備えたSCRM(サプライチェーンリスクマネジメント)のプラットフォームになっているのだ。
ゲームチェンジが進む業界で勝ち残るための4つの方法
ロジスティクス4.0ではこうした物流技術の革新だけでなく、物流業界の装置産業化が進むことが大きなポイントになると小野塚氏は指摘する。
従来、物流会社の評価は人や企業による管理によって品質が向上したり、出荷までをスピーディに運用したりといった“ノウハウ”の面で差がついた。しかし、そのオペレーションを機械が行うことになれば、これまでのような差はつかなくなる。したがって、機械により多く投資した企業がより効率的にオペレーションを回すことができ、より成長することにつながる。すなわち物流業界は、人や企業への依存度が下がって、装置産業化が進むことになるのだ。
「物流業界では、2024年問題のように、人手不足が起きて、運べるものが少なくなるなどの問題が起きています。今後、人やノウハウに頼らない装置産業化が進んでいくことは言わば“ゲームチェンジ”なのです」(小野塚氏)
その上で同氏は、ゲームチェンジが起きる物流業界で、物流会社が勝ち残るための4つの方法を提示した。
メーカーに情報を還元できるプラットフォーマーになる
1つ目は、「特定の荷主、業界のサプライチェーンの上流から下流までをつなぐプラットフォーマーになる」方法だ。プラットフォーマーであれば、運び方の効率化や在庫の置き場の最適化ができるのはもちろん、どの店舗で何がどれだけ売れるかといったデータを得ることもできる。つまり、メーカーに需要の情報を還元することができる企業になれるのだ。
水平統合でプラットフォーマーになる
2つ目は、「特定のプロセスでプラットフォームをつくるための水平統合をする」方法だ。すでに国内でもトラックと荷主をつなぐマッチングシステムはあるが、これをトラックだけに限らず船や飛行機、倉庫などにも広げられる可能性がある。現在はフォワーダーが代行しているが、デジタル化によって「新幹線やホテルをネットで予約できるのと同じようにトラックや倉庫を手配できるようになる」と小野塚氏は見通しを示す。
物流以外の面での収益を得る
3つ目は、「荷主のニーズに“物流以外の面”でも応え、物流費以外の収益を得る」方法だ。米国のGENCO(現、FedEx Supply Chain)は元々、返品された商品の再梱包や廃棄を行う企業だった。そこから事業を展開し、返品や売れ残りの商品を買い取りアウトレットモールで販売するところまで手掛けるようになった。現在はFedEx傘下となって、米国のアウトレット商品をアジアで販売している。この手法であれば、米国内でのブランド価値が下がらない。つまり、メーカーにとっては、在庫の処分だけでなくブランド価値を守りながら現金化してくれる存在になっているわけだ。
自社開発の機器を外販し、収入を得る
4つ目は、「物流機器や設備を自社で開発し、外販することで収益を得る」方法だ。米国で物流センターを運営するQuiet Logisticsは従来、他社から購入したロボットを使っていたが、メーカーの事情で使用できなくなってしまった。そこで、自分たちが使いやすい自律搬送ロボット「LocusBots」を開発した。このロボットは同社内で評判が高く、「他の会社でも利用してもらえるのでは」と着想したそうだ。そして、LocusBotsの外販を始め、同社は新たな収益機会を獲得した。
10年後、20年後の新技術普及を信じた企業が勝ち組になる
このような進化は非現実的なことではないと小野塚氏は強調する。ゲームチェンジはピンチに捉えられることもあるが、これをチャンスに変えた企業にとっては逆にもっと収益を上げられるビッグチャンスでもあるのだ。
「今では当たり前のスマートフォンもインターネットも、90年代には普及していませんでした。Amazonやアリババのように、それが普通になると信じた企業が今、世界を席巻する企業になっています。それを考えると、自動運転やAI、ロボットが普通になっている世界を想像して、新たなビジネスを構想すべきなのです。物流会社の皆さまもぜひこのチャンスを掴んで、10年後、20年後のAmazonになっていただきたいと思います」(小野塚氏)