本稿では前編に引き続き、事業戦略や組織開発を手掛けるEpoChの代表取締役社長である遠藤亮介氏と、「Biz×Tech」人材への成長を促すテクノロジーブートキャンプ「Tech0(テックゼロ)」を運営する濱田隼斗氏の対談をお届けする。

前編では、2人の出会いのきっかけと、これからの時代に企業や組織が存続するために必要となる、社員が「WILL(意志)」と「CAN(できること)」を発信するための組織作りについて語ってもらった。中編となる今回は、2人の視点から見た、テクノロジーを理解しているビジネス人材の重要性をお届けする。

これからのビジネスパーソンに「Biz×Tech」スキルが必須になる理由とは?

濱田氏:私が運営するTech0では、テクノロジーを理解して自分で触れるスキルを持ったビジネスパーソンを育成しています。元々は非エンジニアだったビジネス側の方々が、自分でHTML / CSSやPythonなどのコードを記述できるように支援し、開始数週間で外部サービスのAPI(Application Programming Interface)を呼び出して使えるレベルまで成長できます。

遠藤さんはこれまで複数の外資系企業に所属していました。その多くがテクノロジードリブンで、イノベーションを中心に顧客体験を届けている企業が多いと思うのですが、遠藤さんから見て、ビジネスパーソンがテクノロジーと上手に付き合うためには何が必要だと思いますか。

  • Tech0 代表取締役CEO 兼 Microsoft AI/ML Specialist 濱田隼斗氏

    Tech0 代表取締役CEO 兼 Microsoft AI/ML Specialist 濱田隼斗氏

遠藤氏:私自身はエンジニアではないですし、テクノロジーに長けているわけではありません。しかし、テクノロジーを活用しない人は世の中からおいて行かれると思っています。最新のテクノロジーを脅威に感じるのか、あるいは共創相手だと思えるのかは、本人のマインドセット次第です。

歴史を振り返ると、農業期から産業革命によって社会構造が大きく変化しましたが、現在はそれ以上のスピードでテクノロジーが私たちの生活を変えています。特にコロナ禍では、これまで予想もできなかった変化を迎えました。見方によっては、テクノロジーの活用が進んだポジティブな変化もあったと思います。数年はかかると思われていた変化がわずか数カ月で起こっています。

  • EpoCh 代表取締役社長 遠藤亮介氏

    EpoCh 代表取締役社長 遠藤亮介氏

そうした急激な変化の中で、抵抗感やバイアス(偏見)によってテクノロジーを脅威だと感じてしまうと、時代に取り残されてしまう危険があります。AI(Artificial Intelligence:人工知能)など最新のテクノロジーと上手に共創するために、まずは個人や組織のWILLを改めて深堀りして「人間が出せる価値」を考えてみるのが良いと思います。テクノロジーが脅威となるか、上手にコントロールして共創相手にできるかは、人間側のWILL次第かなと思っています。

濱田氏:スタンフォード大学の教授が提唱し、Microsoftが変革のために用いた「Fixed Mindset(変わらないマインドセット)」と「Growth Mindset(変化し成長するマインドセット)」の話を聞いたことがあるので、今の遠藤さんのお話は非常に納得できます。

今の部分についてもう少しお聞きしたいのですが、テクノロジーによって急激な変化がもたらされている中で、ビジネスパーソンがエンジニア思考やプログラミング的思考を身に付けるメリットは何だと思いますか?

遠藤氏:私は自分で会社を起業して経営している、いわばビジネス側の人間です。それでもテクノロジーが重要だと考えている理由は「自分ができない部分を埋めてくれるのはテクノロジーだ」と信じているからです。私自身のWILLとCANを最大化してくれるのがテクノロジーだと思っています。

反対に、テクノロジーでは実現できない「人との対話」や「五感を使って相手に共感する能力」は人間が持っている本来の強さであるはずです。人間とテクノロジーはお互いの強みを相互補完できるのですから、使わない手はないでしょう。

濱田氏:面白いですね。テクノロジーを理解して弱み・強みを知ることで、逆説的に人間が持っている弱み・強みを理解することにもつながるんですね。

  • 遠藤亮介氏と濱田隼斗氏

最近話題の「生成AI」で企業・組織のあり方はどう変わっていくのか

濱田氏:遠藤さんはHR(人事)と組織開発を専門に手掛けていますので、組織作りについて聞いてみたいことがあります。最近、ChatGPTを筆頭に生成AIが話題ですが、こうした最新のテクノロジーを活用することで、今後の組織作りにはどのような変化が起こりそうですか?

遠藤氏:まずは雇用の面について考えてみましょう。AIのような革新的な技術が登場すると「将来なくなる職業ランキング」のような記事を見かけることがあります。これによって恐怖感を持つ人も多いはずです。

私の感覚としては、仕事が失われるのではなく、無くせる作業が増えて作業を効率化できるというイメージです。自分の仕事や職業が無くなってしまう恐怖を感じるのは、自分の中のWILLとCANが明確になっていないからだと思います。

自分のWILL・CANを内省して明確にして、どのようにテクノロジーを活用すべきかを考えれば、雇用はこれから間違いなく増えるでしょう。自分がテクノロジーを活用することで削減できる作業と、反対にテクノロジーによって創出できる仕事を今から考え始めてほしいです。というか、今から考えないともう遅いです。

反対に、それさえできれば、現在の仕事をテクノロジーでさらに進化させるか、あるいは新しい仕事を自分で創出できるので、雇用に対する「恐怖感」を過剰に持つことは不要だと思います。それよりも、早期に思考して前進するための「危機感」を前向きに持った方が良いでしょう。そのためにもやっぱり個人のWILLとCANが重要ですね。

  • 遠藤亮介氏と濱田隼斗氏

濱田氏:では、HRの観点ではテクノロジーの活用についてどのようにお考えですか?

遠藤氏:まずは企業・組織としてのパーパス(存在意義)を明確にして、社員が自分自身のWILLとCANを発信できる風土を醸成してほしいです。社員のWILLと組織のパーパスをつなげる企業でないと、人に選ばれる企業として生き残れないからです。

極端な例ですが、従来の日本企業は新卒一括採用で、すでに存在する組織に人員が割り振られます。会社の都合によって突然異動や単身赴任を命じられるような場合もありますが、そこに社員のWILLは存在しません。こういった組織は現在の社員を維持できず、対外的にも魅力を感じられないでしょう。

コロナ禍での出社制限やマスクの着脱もその例の一つです。政府の方針や世間の声に従って制度を変えているだけでは、社員はそこに企業のパーパスを感じられません。まずはパーパスを明確に打ち出して、その中で社員をどう守りたいのかという方針を示した方が、受け入れられやすいはずです。

実は、テクノロジーの活用に関しても同じことが言えます。一律で生成AIなど新しいテクノロジーの活用を禁止・制限するのではなく、パーパスを示した上で活用の方針を定めてほしいですね。「当社のパーパスを実現するために、テクノロジーはこのように活用します」あるいは「このようなテクノロジーは活用しません」というメッセージを発信してください。このメッセージは組織にとってプラスに働くというよりも、むしろ発信しないことがマイナスに働く時代が来ています。

濱田氏:生成AIの登場によって、ビジネスパーソンがAIを活用してこなせる作業が変わりました。これによってビジネスのスタイルやビジネスモデルそのものが変わり、さらには組織まで変わる可能性があります。そうした時代の中で、企業のパーパスと個人のWILL・CANをつなぐためにHRという分野に求められる期待値が増えていくようなイメージですね。勉強になります。

ビジネス人材の生存戦略とAI活用術(前編) - 生き残るための組織作り
ビジネス人材の生存戦略とAI活用術(後編) - AIは私たちのCopilot(副操縦士)